「狙ったジャイキリ」と言ったらオマーンに失礼だろうか。

 だが、FIFAランキング79位のオマーンが24位の日本に勝ったのだ。しかも、まぐれの勝利ではなく、内容的にも日本をはるかに凌ぎ、点の取り方も素晴らしかった。

 吉田麻也は「負けるべくして負けた」と試合後に語ったが、オマーンからすれば“ジャイキリ”を想定しつつ、「勝つべくして勝った」と胸を張れる勝利だったのではないだろうか。

 日本にとって“ジャイキリ”で思い出されるのは、アトランタ五輪のブラジル戦だろう。世界オールスターチームとも呼ばれたブラジルを破った時、日本代表は「まぐれ」ではなく、ジャイキリを起こす準備を入念にしていた。

 西野朗監督は、分析班とともにブラジルの弱点を探った。ほとんど穴がないチームだったが、唯一、最終ラインの背後にロングボールを入れるとセンターバックとGKの連携にズレがあり、そこに付け入る隙があることを見抜いた。

 実際、その隙を突いて得点すると、あとは攻められまくったが、逆に良いリズムで守備ができていた。ブラジルとの初戦で選手のモチベーションが高く、コンディション調整もうまくいき、よく動けていたのだ。川口能活は好調をアピールするようにスーパーセーブを連発、ブラジルの攻撃をかわし、1-0で勝利した。「マイアミの奇跡」と称され、今も語り継がれる“ジャイキリ”だが、今回はオマーンにそれを見事にやられた。
 
 オマーンは、用意周到だった。

「日本を驚かせよう」「このグループでサプライズを起こそう」と1か月前からセルビアで合宿をこなしてきた。その間、まず手をつけたのがセルビア戦、タジキスタン戦、韓国戦など日本の試合映像を見て、弱点の抽出と選手の特徴の分析だった。

「日本はスモールサイド(少数でのコンビネーションプレー)でのプレーが多く、攻守の切り替えの時にチャンスが生まれることが分かった。引いて守るだけでなく、攻撃のチャンスがあれば、アタッキングサードでチャンスが来たら、積極的に生かそうとした」

 オマーンのイバンコビッチ監督は、日本の弱点のひとつをそう見ていた。

 日本はこの日、トランジションが遅く、攻守が切りかわるところでボールを狙われ、奪われて相手にチャンスを作られた。セカンドボールも後半、ことごとく失い、オマーンに2次、3次攻撃を許し、アタッキングサードでは逆に細かいパスを繋がれて崩された。日本がやりたいことをやられていたのだ。
 
 そもそも試合の入りからオマーンは、日本の見えないところでしたたかに手を打っていた。

 1年間ほとんど雨が降らないオマーンでは、この日の雨は、イバンコビッチ監督曰く「大問題」だった。雨のためにGKからビルドアップをある程度制限し、ロングボールを蹴ってリスクを回避した。日本はもちろんオマーンを分析していたが、この日、イバノビッチ監督は日本が分析したと思われるここ数試合では見せなかった「ハイプレス」を採用し、日本の度肝を抜いた。こうしてみると試合開始からオマーンのペースだったとも思えてしまう。

 イバンコビッチ監督は、さらに選手の気持ちをうまく着火させた。

「我々は失うものが何もない。得るものしかない。パフォーマンスが完璧じゃなくても日本を驚かせよう」

 監督に背中を押された選手は勇気を持ってピッチに立っていたのだ。

 オマーンには、プレッシャーがなく、クオリティとモチベーションと柔軟な戦術が揃っていた。“ジャイキリ”を起こすのに必須な要件が満たされていたのだ。

 一方、日本は大会2日前に集合した選手もおり、全体のコンディションが整わず、戦術的なすり合わせも過去の試合でのイメージしかなかった。これは推察だが、オマーンとの戦績は9勝3分けで過去に負けたことがない。それゆえ、「オマーンに負けるはずがない」とたかを括っていたのではないだろうか。実際、序盤からエンジンがまったくかからず、相手のペースに合わせ、自ら積極的にアクションを起こして点を奪いにいく迫力が見られなかった。テンポの変化もなく、淡々と攻め、時間を追うごとに運動量が減り、選手間の距離が離れていった。
 
 この試合を見ていたらドイツ・ワールドカップの2次予選、アウェーのシンガポール戦を思い出した。大会2日前に海外組は高温多湿のシンガポールに到着した。国内組は合宿をこなし、万全だったが、ジーコが海外組を起用。しかし、暑さで海外組は試合途中で動けなくなり、大苦戦。最終的に窮地を救ったのは国内組の藤田俊哉で、最終的に2-1でなんとか相手を振り切った。

 その時、国内外を問わず、コンディションがよく、モチベ―ションの高い選手を起用すべきだという声が噴出した。

 現代表は海外組が中心で、国内組は少数派だ。

 だが、こういう試合を見せられると試合のマネジメントとメンバー選考をもっと柔軟に考えてもいいのではないかと思ってしまう。例えばホームはある程度、国内組中心で戦い、アウェーの試合や強豪との対戦は欧州組に任せてもいいのでないか。選手のコンディションを考えるとすべての試合を同じ選手で戦うのは今の時代、果たして本当にベストの選択なのだろうか。

「日本に対して危険なシーンを作れたと思うし、日本は我々に対して解決策を見つけることができなかったと思う」

 イバンコビッチ監督は、高揚した声でそう言った。

 その言葉通り、日本はさしたる抵抗もできず、完敗だった。11月にオマーンとの再戦がやってくる。

 アウェーでこれだけ戦えるのだからホームのオマーンは、いったいどのくらい強さを発揮するのだろう。日本に初めて勝った勢いをそのまま、なんの恐れも抱かずに攻めの姿勢で臨んでくるはずだ。

 ホームでオマーンを叩けなかったツケはかなり高くつきそうだ。

取材・文●佐藤 俊(スポーツライター)

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