SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)での誹謗中傷は大きな社会問題で、Jリーグでも“なりすまし被害”が多発。他方、コロナ禍におけるスタジアムでの感染対策も引き続き気を緩められない状況にある。こうした事象について独自な捉え方をしていた村井チェアマンのメッセージは、傾聴に値するものだ。

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 世界の頂点に立つアスリート、過酷な試練を乗り越えてきた選手さえ、たった一行の書き込みによって心を砕かれてしまう。それくらいの恐ろしさ、影響力が今のSNSにはあります。

 注視すべきは、インターネットでの誹謗中傷が凶悪な悪人によって頻発しているわけではなく、一般市民によって仕掛けられるケースがある点です。普通の人間が不用意な発言で相手を苦しめる。ここが、この問題の難しいところです。

 世の中に不平不満を持った人たちがそのストレスをぶつけたものが、もしかすると「SNSでの誹謗中傷」と言えるかもしれません。ただ、それも私の憶測であり、正確な情報ではないのです。正直、この問題の背景にある闇は深いです。

 コロナ禍の現状もあって、社会全体がストレスを抱えている状態です。国民一人ひとりがストレスの発信源になって、しかも顔が見えないままSNSで発言できる状態にあります。怒りの矛先は行政、企業、個人と様々で、言わばカオスなのです。闇が深い原因のひとつはそこにあり、だからこそ短期的に解決できる問題ではないと認識しています。

 もちろん黙殺するつもりなどありません。Jリーグでも“SNSでのなりすまし”(サポーターを装ったフェイクのアカウントで人種差別などを投稿)が話題になりましたが、これらは犯罪行為なので撲滅するような対応をとっていきます。
 

 東京五輪でも、SNSでの誹謗中傷は大きな問題になりました。ただ、SNSとは無関係の世界でも無自覚で人を傷つけるケースがある事実を知る必要があります。誹謗中傷は日常生活にも潜む刃物みたいなものです。サッカーの試合でも、ブーイングの仕方を間違えれば予想外の事態に発展する可能性がありますよね。

 大事なのは、何事にもリスペクトの気持ちを持つこと。それがないと不用意な発言が無意識に出てしまいます。大袈裟かもしれませんが、SNSでの誹謗中傷が目立つ世の中では我々の生き方そのものが問われている気がします。望ましいのは、互いをリスペクトしながらオープンな場で正々堂々と戦うことだと考えています。なにも、戦争や紛争がいいと言っているわけではありません。規模の大きい話ではなくて、ただ単純にひとつのルールの中でフェアに競い合う、それを主張したいだけです。ある種、スポーツはメッセージ性の強いものになると思います。

 東京五輪でも、選手間でリスペクトする態度はかなり見られましたよね。悔し涙に暮れる敗者がそれでも勝者に賛辞を惜しまなかった姿を私もテレビを通して何度も目撃しました。正々堂々とプレーする、思いっきりぶつかる、フェアに戦うことの大切さを改めて教えてもらった大会でもありました。正々堂々──。これは、人として忘れてはいけない精神だと強く感じます。

 
 SNSでの誹謗中傷が社会問題になる中、Jリーグは多くのファン・サポーターに守られている感覚もあります。緊急事態宣言やまん延防止が発令されている状況下でも、皆さんはJリーグを守ろうと節度ある行動をしてくれた印象です。コロナ禍になって以降、お客様を迎え入れた1600以上の試合において観客席でのクラスターはありません。これもひとえに皆さんのおかげです。

 Jリーグ独自で作成した感染対策マニュアルは、あくまで基準になるものに過ぎません。地域によって感染状況も、スタジアムの形状も違います。さらに言えばスタジアムへのアクセスも様々で、人の流れまで把握するのは不可能。だからこそ一人ひとりの行動が重要になるのです。
 

 その点で、Jリーグのファン・サポーターは素晴らしい。なにより、自己責任という意識を強く感じさせてくれるところがです。政府がもっと明確なガイドラインを示すべきなどと批判的な見方がある一方、結局は個人の意識次第という捉え方をしている方もたくさんいます。Jリーグの場合、サポーター同士が注意しあったりして自浄作用を働かせたおかげで、観客クラスターが発生していないと認識しています。

 言われたからではなく、自分たちでサッカーを守ろう。Jリーグは幸いにも、そうしたお客様の自己責任に助けられています。もちろん、そこに甘えるつもりは毛頭ありません。JリーグはJリーグで、今後も独自のガイドラインを示しつつ、事態の変化とともに修正を加えていく。お客様と一緒に安心・安全の環境を作りたいと強く願っています。

<プロフィール>
村井 満(むらい・みつる)/1959年8月2日生まれ、埼玉県出身。浦和高在学中はGKとして冬の選手権予選にも出場した。早稲田大卒業後、リクルートに入社。そこで執行役員を務めるなどして、14年1月31日、大東和美氏のあとを受けて第5代Jリーグチェアマンに就任し、現在に至る。

取材・構成●白鳥和洋(サッカーダイジェスト編集長)

※本稿は、サッカーダイジェスト9月27日号に掲載された「J’sリーダー理論」の内容を転載したもの。

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