9月1日と5日のルヴァンカップ準々決勝、9月14日のACLラウンド16でともに敗退。高い目標ながら前人未到の4冠(リーグ、ルヴァンカップ、天皇杯、ACL)を目指していた川崎にとっては、数日のうちに2つのタイトルを失ったショックは大きかった。

 浦和と対戦したルヴァンカップ準々決勝は、アウェーでの第1戦は1-1、ホームでの第2戦は3-3。トータルスコア4-4ながら、アウェーゴールの差で敗退。特に第2戦は一時、3-1とリードしながら87分とアディショナルタイムの90+4分に連続失点し、勝ち上がりを逃しただけに、悔しさもより大きかっただろう。

 そしてアウェーで迎えたACLのラウンド16の蔚山現代戦は、延長戦を含めた120分でもスコアは動かず、PK戦の末に敗退となった。

 帰国後は新型コロナウイルスの感染防止策による隔離生活が続き、心身とも厳しいなかで、リーグ戦が待っている。しかも、いまだ一敗ながら、2位の横浜に猛追される状況。中3日で迎えた29節のアウェー徳島戦は敗れれば、2位転落の可能性もあっただけに、常に目の前の一戦一戦に集中するチームにとっても、大事なゲームとなったのだ。

「かなり悩みました。メンバー発表するギリギリまで悩みながら……」

 鬼木達監督は選手のコンディションを見極めつつ、ゲームの流れや組み合わせを考え、スタメン選びに頭を悩ませたという。その中で選択したのが、多くのタレントを抱える3トップに、フレッシュな面々を起用することだった。

 右ウイングに遠野大弥、CFに知念慶を入れ、左ウイングには夏に加入し、これがデビュー戦となる新助っ人のマルシーニョを抜擢したのだ。

 結果として、この采配が当たった。知念は2ゴールの活躍を見せ、マルシーニョは知念の先制点につながるPKを獲得し、徳島に追いつかれた後に脇坂泰斗の勝ち越し弾をアシスト。チームメイトとともに気持ちのこもったプレーを見せた知念とマルシーニョが、3-1での勝利の原動力となったのである。
 レアンドロ・ダミアンや小林悠と熾烈なレギュラー争いを展開するFW知念が、意地の2ゴールを挙げた点はチームを活性化させる出来事であり、さらに新助っ人のマルシーニョがキレのあるプレーを見せたのも今後に向けて非常に大きい。

 川崎の左ウイングと言えば、圧巻の突破力を誇った三笘薫が夏に欧州移籍。長谷川竜也、宮城天が定位置争いを演じていたが、徳島戦でスピーディでタッチが細かいドリブルと足もとの技術を示したマルシーニョに起用の目途が立ち、選択肢は広がった。新助っ人は改めてチームを勢いに乗せる起爆剤になる可能性もあるだろう。

 そんなマルシーニョが上々のデビュー戦を迎えられた背景には、インテルナシオナル時代のチームメイトで“兄貴分”のL・ダミアンの存在があるようだ。徳島との試合後、満面の笑みで会話していたふたりはどんな言葉をかわしていたのか。後日、マルシーニョはこう教えれてくれた。

「試合が終わってから、『良いゲームをできたんじゃないか』と声をかけてもらったんです。それにゲーム後だけでなく、日ごろからよりお互いが良い状況でできるように、いろんな話をしています」

 一方のL・ダミアンもおどけながら、温かな眼差しで振り返ってくれた。

「そんなに多くは語っていないですが、『良いプレーをしたね、おめでとう』と声をかけました。試合前には彼の特長であるスピードを生かすようにと少し助言もしていました。ゲーム後、少し頭にきたのは彼はチャンスがあったにも関わらず、ゴールをしなかったこと(笑)。そこは要求しましたが(笑)、本当に彼は良いゲームをこなしたと思います」

 L・ダミアンは“弟分”マルシーニョが来日する前から、彼の不安を少しでも和らげるため、日本やチームの様々な情報を送っていたという。だからこそマルシーニョも感謝の言葉を口にする。

「来日する前から日本やチームの環境、状況を伝えてくれました。彼(ダミアン)の言葉があったからこそ、このチームに来ることができたと思います。感謝の気持ちでいっぱいです。また僕の周りの方たちが本当にサポートしてくれていますし、試合(徳島戦)に出る前も自分に自信を与えてくれる言葉をかけてくれたりと、本当に周囲の人たちと良い関係を築けています。だからこそチームの力になれるように、より努力していきたいです」

 マルシーニョが川崎に加入すると聞いた際には「本当に嬉しかった」と話すL・ダミアンは、だからこそ「自分から伝えられる情報はすべて彼に伝えました」という。そして「彼(マルシーニョ)も来日してから言っていたのは、想像していた以上により良い環境だと。すごく喜んでいました」と笑みを浮かべる。

 今季から副キャプテンに就任したL・ダミアンの貢献度は、チームのなかでよく表われているが、32歳のこのストライカーと、26歳の新たなドリブラーの連係は今後の楽しみのひとつである。

 ちなみに9月22日に行なわれる鹿島戦に向けて、自身も父もフラメンゴファンだというマルシーニョは、そのフラメンゴのレジェンドであるジーコと縁が深い鹿島とのゲームを楽しみにしている様子。

 アンカーを務める28歳のジョアン・シミッチ、27歳のCBジェジエウを含めて川崎のブラジル人選手たちの今後の活躍にも期待したい。

取材・文●本田健介(サッカーダイジェスト編集部)