Jリーグは9月25日、J1第30節の4試合を各地で開催。ニッパツ三ツ沢球技場では、残留争いと優勝争いという両極端の立場にいる20位の横浜FCと2位の横浜F・マリノスが対戦する。

『サッカーダイジェストWeb』では、Jリーグの各クラブでスカウティング担当を歴任し、2019年には横浜でチームや対戦相手を分析するアナリストとして、リーグ優勝にも貢献した杉崎健氏に、横浜ダービーの勝負のポイントを伺った。

 確かな分析眼を持つプロアナリストは、注目の一戦をどう見るのか。予想布陣の解説とともに、試合展開を4つの状況に分け、それぞれの見どころを語ってもらった。

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●横浜FC
今季成績(29節終了時):20位 勝点18 4勝6分19敗 21得点・63失点

●横浜F・マリノス
今季成績(29節終了時):2位 勝点65 20勝5分4敗 64得点・26失点
 
【予想布陣解説】
 横浜FCのシステムですが、今回もいかに守ってカウンターに持っていけるかという展開になるはずなので、3-4-2-1にして、守備時には最終ラインを5枚にすることで、耐えしのぐという姿勢をとると予測しています。ただ、FC東京戦の後半のように、4-4-2を採用する可能性もゼロではありません。

 CBは、前節・FC東京戦の立ち上がりにガブリエウが負傷交代していたので、間に合うかもしれませんが韓浩康を配置しました。前線は、前々節の浦和戦と同じ3人にしています。ただFC東京戦で先発したジャーメイン良のパフォーマンスが個人的には良かったと感じているので、もしかすると彼の可能性もある。ですがフェリペ・ヴィゼウもコンディションが上がってきていて、キープ力や得点の匂いがするアタッキングをしているのと、サウロ・ミネイロとの相性も良さそうなので、ジャーメインをベンチスタート予想にしています。

 横浜は、小池龍太が前節の前の時点で怪我をしているという情報がありましたが、ふたを開けるとスタメンだったため、今回も問題ないでしょう。また、チアゴ・マルチンスがしばらく怪我で出ていませんでしたが、現在練習でフルメニューを消化しているという情報があるので、おそらくスタメン復帰するのではないかと考えています。

 その相方、左CBは實藤友紀が担うことが多いですが、今回は対面する外国籍選手の特徴を考え、よりビルドアップやパワーやスピードを強みとする岩田智輝を入れました。

 横浜に関しては、そこまで過密な日程ではなく、負けはしましたが内容的にもさほど悪くなかった前節から、大幅な変更はなさそうです。3列目以降の前の選手は、全員前節と同じメンバーとしています。

 チームの特徴として、ここまで横浜FCは、前半の最後の15分の失点数がかなり多く、18失点しています。一方で横浜の得点数を前半の15分毎に見ると5点、8点、11点と、時間が経つにつれてどんどん得点数が増えています。このデータから見ても、とくに前半の最後の15分には注目です。

 また、横浜の失点を見ると、後半の立ち上がりが一番多い。両チームがハーフタイムでどう修正して後半に入っていくのかも見どころです。
 
 まずひとつめの注目ポイントは、横浜FCが3-2-5から形を変えずに、90分間いられるか。両ウイングバックの2人が、なるべく下がらずに高い位置を維持し、CBからボールをもらってシャドーと絡みながら敵陣に進入していくという強気な姿勢のキープが大事になってきます。

 とはいえ、しっかり陣形を整えてビルドアップしていくという場面はそこまで作れなさそうです。相手の圧力を感じながらロングボールを主体にする、もしくは自陣で奪ってカウンターを仕掛ける際にすぐに失わないように注意するなど、奪ったあとの切り替えも大事になってきます。そういった意味で、判断やテンポなどのスピード感が求められるでしょう。

 横浜FCは、ここまでなかなか失点が減らないという大きな課題があります。失点の仕方として、この自陣での攻撃でビルドアップの際にボールを奪われ、ショートカウンターを受けるケースが多くあります。横浜もそれを間違いなく狙ってくるので、難しければ後ろに蹴って逃げることもすると考えています。
 
 守備の横浜からすると、図のように中盤は、相手がダブルボランチ、2シャドーに対し、自分たちはダブルボランチとトップ下なので3対4と数的不利。このとき、例えば韓から袴田裕太郎にボールが出た際、マルコス・ジュニオールは瀬古樹にマークにいくはず。そうすると、左ウイングバックの高木友也に対しては、右サイドバックの小池がそのまま出て、空いてしまった松尾佑介を喜田拓也が見にいけば、この局面では対応できます。

 ただそうなると、ボールサイドではない方のボランチ、安永玲央が空いてしまう。ここを捨てるのか、あるいは扇原貴宏が出るのかというところが重要。扇原が出ていってしまうと、今度はF・ヴィゼウのマークが空いてしまうので、サイドを変えさせないようなプレッシングが大事になってきます。こういった、守備のときに自分が誰を見るかという判断を即座にできるか、切り替えやマークの受け渡しの判断がポイントです。

 とはいえ、横浜FCもただ突っ立っているというわけではなく、2シャドーが裏に抜け出る動きをしてきます。そこに対応しようとして、ダブルボランチが下がりすぎてしまうと、中央のスペースを空けてしまいますし、サイドにいきすぎてしまうと自分のポジションを空けてしまう。ダブルボランチからすると、背後の選手の動きは視野外なのでそこに対応するのは難しいと思いますが、ダブルボランチの振る舞いもカギを握りそうです。
 
 この局面での横浜FCは、ダブルボランチが絡んでサイドを変えたり、この図のようにCBがサイドに散らしたりと、真ん中から攻撃を仕掛けるのではなく、サイドを起点に相手を揺さぶるということがメインの攻撃でしょう。

 とはいえ横浜のプレッシャーが速く、こうした大外に大きく蹴る時間を作らせてもらえないという問題が出てきます。一発でロングボールを蹴れればベストですが、それができなかった時にボランチを経由してサイドを変えるようなことができれば、相手陣内に攻め込む時間を作れる可能性はあります。

 そこからサイドを変えてウイングバックがボールを持った時、チャンスがあればアーリークロスを上げるのが横浜FCの特長。ただもうひとつの方法として、シャドーの松尾やF・ヴィゼウが相手のCBとサイドバックの間を抜け出るということも、これまでの試合でも何度も見られました。

 それがもし、図の赤いスペースがなかった場合、ウイングバックからボールを受け取るためにシャドーが少し下がってくることもあるでしょうが、そのどちらを選択するかも重要になってきます。
 
 これまでの試合を見ていても、図のような前線の5人で攻めることが多く、ダブルボランチはなかなか前にいけず、横に散らす仕事がメインになっていました。個人的な見解ですが、このボランチ2人のどちらかがバイタル付近まで出ていく積極性を見せられれば、これまでよりも良い攻撃が見せられるのではないかと考えています。

 横浜のプレスが速いので、自陣での攻撃と一緒で球離れを速くしたり、横に出すのか前に出すのか後ろに下げるのか、サイドに振るのかという、このトラップからパスまでの時間も短縮しなければいけません。これが遅いとすぐ囲まれて奪われてしまうので、スピード感を上げられるかにも注目です。

 横浜FCとしては、セットプレーも大きな武器。CKや、あるいはファウルをもらってFKを得るということもひとつの狙いとしていくべきです。

 横浜側からすると、シャドーの選手たちが裏に抜けてくることは想定しているはずなので、大切なのはそれに対応するマーキングです。ボランチがそのままついていくのか、CBが外に出ていって対応するのか。相手がセットプレーを得意としているので、簡単にスローインやCKに逃げる対応をなるべくせず、先手を打って動けるかが大事になります。

 また、相手のウイングバックが起点となるというのは、横浜も分かっているはずなので、サイドバックの小池とティーラトンは、いち早くそこへアプローチに行って、自由を与えないことが重要。縦と横のスライドのスピード感によって、自分の後ろを使わせないということができるので、これができればダブルボランチの仕事の軽減にもなります。ただ、こうしたセットした状態で守る時間をなるべく減らしたいというのが最大の狙いでしょう。
 
 横浜FCは、3トップが前からプレッシングを仕掛ける姿勢を見せるので、この図のような状況になる可能性はあるでしょう。横浜がCBから素早くビルドアップを開始する際、特長としては両サイドバックが中央にポジショニングするということです。これにより、中央で数的優位を作れるので、ボールとの逆サイド、図で言うと小池がどれくらいまで中に入ってくるかは見どころです。

 横浜がボールを握る時間が増えそうなもうひとつの理由は、横浜FCは前からプレスをかけてきますが、あまり人に対してではなく、中間で見ることが多い守り方なので、横浜からするとあまりプレッシャーに感じないということです。

 横浜FCは、前線の選手5人が前から守備にいきますが、最終ラインのとくに3CBの位置が低い。これまでもそこの間を使われることが多くあり、今回も図の赤いスペースなどが空くことが考えられます。後ろで繋ぎ続けて名古屋戦の二の舞となるよりは、いち早く縦に入れて、相手のラインが下がっていることを逆に利用し、スピードを出して攻撃にいく必要があるでしょう。
 
 4試合前の鳥栖戦では、完全にマンツーマンではめられてかなり苦戦しました。しかし横浜FCに対しては、簡単にボールを繋ぐことができると予想しています。そのなかで、横浜FCと同じように、ここでも球離れとテンポという判断力は大事になります。

 横浜FCからすると、これまでの試合ではダブルボランチがあまり前に出ず、その代わり中を閉じて両ウイングバックのどちらかが出てカバーしていく守り方をしていました。ただ、横浜のシステムと配置を考えると、ウイングバックが前に出るのはあまり得策ではないので、相手のボランチに対して、安永が出るのかF・ヴィゼウが背中で見るのかというのは注目ポイントです。

 また5-2-3なのか4-4-2なのかによって大きく違いますが、どちらのシステムだとしても、これまでもCBが前から守備をするということをしませんでした。中継映像上ではなかなか映らないかもしれませんが、後ろの5人の立ち位置に着目してみても面白いでしょう。
 
 最後の局面で横浜は、いかに前線の3トップを含めてスピード感を出せるかが攻撃のカギになります。

 10人で守備ブロックを敷かれると、どんなチームでも崩し切るのは難しいです。そのうえで、ボールを持ちすぎてしまうと相手の守備陣形が整ってしまうので、一人ひとりが持つ時間を短くして、ボールを動かすということがテーマになってくるでしょう。

 横浜FCは5-2-3のような形で守備をしてきます。このとき、この図のようにサイドバックからウイングにボールを出して、トップ下のM・ジュニオールが裏に抜けることでできた図の赤いスペースに、名古屋戦でも見せたボランチや逆のサイドバックが入っていく積極性を出せれば、同じようにチャンスを作り出せるでしょう。こうした敵陣でのポジショニングで相手を混乱させられるかにも注目です。

 横浜FCからすると、仮に敵陣に攻撃していって、奪われてカウンターという危険性も大いにあるので、リスクマネジメントを徹底しつつ、ブロックを敷いて対応できるかが勝負の分かれ目となりそうです。

 その時間を長く作り出せれば、リーグで一番攻撃力がある相手とはいえ十分に戦えるはず。相手は流動的に動いてくるチームなので、人にマークにいくのか、スペースを埋めるのか。また松尾とF・ヴィゼウがどこまで守備に戻るのかという2人のポジショニングもカギになってきます。

 不安な点としては、球際に少し弱いというところ。横浜は間違いなく球際に強いので、ここで後手を踏んでいると、いくら戦術的に守っていても個の力で打開されてしまう可能性がある。短い期間で修正できる話ではありませんが、1対1のデュエルに関しては当然大事になってきます。

 横浜FCは守備に関して、序盤は集中力を保っていられるのですが、徐々にトーンダウンしてしまう傾向にあります。なので、いかに継続性をもって対応できるか。あきらめずにずっと続けるというメンタルの維持も大切です。またこの局面でも、勇気を持って前に出て守備をする素早い判断ができるのかも必要なポイントとなりそうです。

 今回は“横浜ダービー”という名前だけではなく、両チームの状況を考えても間違いなく重要な一戦。勝点3を得るために、集中力や精度、テンポを上げるといった両者の判断力に要注目です。
 
【著者プロフィール】
杉崎健(すぎざき・けん)/1983年6月9日、東京都生まれ。Jリーグの各クラブで分析を担当。2017年から2020年までは、横浜F・マリノスで、アンジェ・ポステコグルー監督の右腕として、チームや対戦相手を分析するアナリストを務め、2019年にクラブの15年ぶりとなるJ1リーグ制覇にも大きく貢献。現在は「日本代表のW杯優勝をサポートする」という目標を定め、プロのサッカーアナリストとして活躍している。Twitterやオンラインサロンなどでも活動中。

◇主な来歴
ヴィッセル神戸:分析担当(2014〜15年)
ベガルタ仙台:分析担当(2016年)
横浜F・マリノス:アナリスト(2017年〜20年)

◇主な実績
2017年:天皇杯・準優勝 
2018年:ルヴァンカップ・準優勝 
2019年:J1リーグ優勝