新たに女子プロチームが誕生する広島で、地元に愛されてきたチームが存続の危機に立たされている。2012年に創設されたアンジュヴィオレ広島だ。9シーズン目を迎えたクラブがコロナ禍の煽りを受けて資金難に陥り、今季限りでの解散の危機に瀕している。クラブが定めた資金確保の期限は10月末。非情なタイムリミットが目前に迫っている。


 アンジュヴィオレ広島は、なでしこジャパンが女子ワールドカップ制覇を果たした翌年、広島市西区横川町の地元住民らでつくるNPO法人「広島横川スポーツ・カルチャークラブ」を母体として誕生した。創設3シーズン目の2014年には、なでしこリーグへ参入し、2015シーズンから2年間は同2部でも戦ったが、2017シーズン以降はチャレンジリーグ(3部相当)でプレーしている。


 広島の女子サッカーをリードしてきたクラブは、NPOメンバーである地元住民たちがボランティアで運営してきた。現在は約50人のボランティアがチームを支えているという。「アンジュヴィオレ広島はまさに地域から生まれたチームです」。その語るのはクラブ広報の宮地弘充さん。2011年のNPO発足時からクラブ運営に関わってきた宮地さんも、ボランティアでありながら、広報、営業、グッズ企画・販売、イベント関連と多岐にわたる仕事を担当している。


 広島出身のFW神田若帆は、「ボランティアの方たちがいなかったら試合をすることも、チームとしても成り立っていないと思います」と地元の支えを感じながらプレーしている。「選手が試合に専念できる環境を作っていただき、本当にいろいろな事をしてもらっていて感謝の気持ちしかないです」


 だが、クラブは企業の母体を持たないボランティア運営のため、毎年のように厳しい財政状態の中で活動してきた。そこに今年は新型コロナウイルスの影響による打撃を受けて、資金確保の見通しがつかなくなった。9月4日、NPO法人「広島横川スポーツ・カルチャークラブ」は臨時総会を開き、10月末までに支援企業やスポンサー資金の目処がたたない場合、今季終わりの12月でチームを解散するという苦渋の決断を下した。


 宮地さんによると、来季もクラブが存続するためには約7500万円が必要だという。未だにその目処は立っていないものの、地域の力で築き上げてきたチームを簡単に諦めるわけにはいかない。現在も既存スポンサーへの継続と増額の要請や新規スポンサー探しに奔走している。社会全体が新型コロナウイルスの影響を受けている中で、さらにクラブのキャパシティとしても存続活動が限られる厳しい状況だ。それでも、選手たちやNPOのメンバーは存続に向けて奮励している。


 今季ホーム最終戦に向けて応援プロジェクトも立ち上げた。11月1日に行われる2020プレナスチャレンジリーグWEST第8節、スペランツァ大阪高槻を『広島県総合グラウンドメインスタジアム』に迎える今季ホーム最終戦では、支援金500円を含む1枚1500円の応援チケットを販売。ソーシャルディスタンスを保った席数の2000人動員を目指している。


 9月27日には地元の横川駅で選手たちが参加したクラブ応援イベントを開催。ホーム最終戦のPRや選手との撮影会などを行い、樽募金には約18万円が集まった。10月26日にも同じく横川駅でチケットや応援グッズの販売、横断幕の作成、樽募⾦などを実施。今後もイベントは継続して行われる。来季存続のための資金とは程遠いかもしれないが、小さな支援や一人の応援が積み重なれば大きな力に変わるはずだ。


 さらに、オンラインでのスポンサー募集も開始した。「ひろしまオンライン展示会2020」に展示ブースを開設して支援を呼びかけている。今後は、存続を前提としたクラウドファンディングも計画しているという。最後の最後まで存続に向けて奔走する。


 クラブの危機とは裏腹に、今季のトップチームは絶好調だ。チャレンジリーグWEST(3部相当)で第7節を終えて5勝2分けの無敗を誇り、首位を走っている。10番を背負う神田は「ずば抜けた選手がいるわけではないので、一人ひとりが与えられたことを100パーセントやって、みんなで支え合っているチームです」と話し、今後もチーム一丸での戦いに意気込む。「多くの人たちに応援したいと思ってもらえるようなプレーをしていきたい。そうすれば結果がついてくると思います。残り全勝して、優勝します」


 クラブが瀬戸際に立たされているが、選手たちは存続する未来を見据えてピッチで全力プレーを続ける。「これまでたくさんの方たちが存続の為に動いてくださいました。私たちができることは、もっと応援したいと思ってもらえるようにプレーで魅せることだと思います。たくさんの方にもっとアンジュヴィオレを知ってもらうために、これからも頑張っていきたいです」(神田)


 10月15日、広島では女子プロチームの誕生が決まった。来年開幕を迎える日本初の女子プロリーグ「WEリーグ」の加盟11クラブが発表され、男子チームしかなかったサンフレッチェ広島の女子チーム創設が決定した。3度の日本一を経験したトップのプロクラブが広島の女子サッカーをリードしていくことになる。


 ただ、サンフレッチェが女子チーム設立に至ったのは、アンジュヴィオレらが作ってきた女子サッカーの土台が広島にあったからだろう。仙田信吾代表取締役社長はWEリーグ参入会見で敬意と感謝の言葉を繰り返していた。「アンジュヴィオレ広島様が手弁当で横川地区を中心に、女子サッカーの文化を作るために、そして育成、普及をしていくために奮闘しておられたことに対して、心より敬意を表し、リスペクトしております」(クラブ公式サイトより)


 広島で女子サッカーの文化の灯をともしてきたアンジュヴィオレは今後もサッカー発展のために欠かせない。地域から生まれたチームには、プロチームとは違う文化がある。より身近に夢や感動を共有できるチームは、女子サッカーの盛り上がりにも重要な存在だ。広島に消えていい紫の炎はない。


 長年チームを支えてきた宮地さんは言う。「いろんなチームを訪れて話を聞かせていただく機会がありましたが、本当の意味での“地域チーム”はアンジュヴィオレ広島が突出していると思います。アンジュヴィオレ広島は選手と応援していただいている方々との距離が近い。これからはもっとその距離を縮めて、広島から新しいスポーツモデルを発信したいです」


 アンジュヴィオレには現在、U−8〜U−18まである下部組織に合計で約80名、トップチームを含めると約100名の選手が所属している。これからサンフレッチェが作るプロチームとは別に、広島に女子サッカー選手のプレー機会や夢を叶える場を作ってきたアンジュヴィオレの存続が必要なことは言うまでもないだろう。


 2021年秋にWEリーグが幕を開けるため、今後はプロ選手やプロを目指す女子選手も増えるはずだ。ただ、これまでのように働きながらや、セカンドキャリアを考えながらプレーする選手もいる。プロの世界だけではなく、多様なプレー機会がサッカーの発展には必要だ。アンジュヴィオレは、プロ以外にも様々なキャリアを描く選手たちの居場所になる。そこには、常にトップを目指すプロチームにはない価値がある。


「女子サッカー・スポーツを通じて、夢や生き方の多様性にあふれ、一人ひとりが輝く社会の実現・発展に貢献する」。そんな理念を掲げるプロリーグが誕生する今だからこそ、アンジュヴィオレのような“地域チーム”の価値を再認識しなければいけない。