クラブ創設30周年を迎えた今季、「タイトル獲得」を目標にシーズンをスタートさせたものの、序盤から下位低迷を余儀なくされた清水エスパルス。6月には平岡宏章監督との契約を解除し、ゼ・リカルド監督率いる新体制で再起を図っており、チーム状態は徐々に上向きつつある。


「監督が代わって、選手がすごく自信を持ってできるようになった。特にボールを持っている時に怖がる選手がいなくなった。だからこそ、僕がビルドアップに参加した時の選択肢も常に2〜3個ある状況になっている。そこが一番変わったところですね」と守護神の権田修一も前向きに語っている。


 その流れを押し上げているのが、今夏、加わった新戦力だ。セレッソ大阪を退団し、7月下旬に加入した乾貴士がその筆頭ではあるが、清水育ちの点取屋、北川航也の存在も大きい。


 オーストリアからJリーグへの復帰戦となった7月31日のサガン鳥栖戦は63分から出場。凄まじい気迫で前線に迫力を与え、81分に追撃の2点目をゲット。3−3のドローに追いつく狼煙を上げたのだ。


 そして、8月7日のFC東京戦も同じ63分から登場し、ゴールへの意欲を前面に押し出す。最たるプレーが68分のペナルティエリア左外からの強引なミドルだ。左で乾と絡んだ山原怜音からのボールを受け、背番号45は迷うことなく右足を一閃。GKヤクブ・スウォビィクの正面に飛び、枠を捉えることはなかったが、数字へのこだわりを色濃く感じさせた。


「FWである以上、数字が一番評価されるところ。オーストリアではそこに一番こだわってきました。向こうで監督やスタッフによく言われていたのは『自信を持ってやれ』ということ。実際、それをピッチでうまく表現できなかったから3年で戻ることにつながったので…。でも、自分はエスパルスでしっかり結果を残して、またチャンスがあれば欧州にもう一度挑戦したいと思っている。日本代表という目標もあるので、つねにゴールを目指したいです」と本人も目をギラつかせた。


 欧州挑戦前の北川はこういった野心を表に出すタイプではなかった。2019年アジアカップで負傷した大迫勇也に代わって1トップに抜擢された時も、どこか不安そうな様子が拭えなかった。決定機を外した後には「ネガティブにならないようにしないと…。でも難しかったですね」と伏し目がちに話すケースが多く、そのメンタル的な脆さが代表定着の足かせになっていたようにも映った。


 オーストリアの名門、ラピード・ウィーンで過ごした3年間も苦悩の連続だったはずだ。コロナ禍の難しい状況も重なったのだろうが、3シーズンでリーグ戦合計5ゴールという数字はやはり物足りなさが残る。2014年AFC U−19選手権をともに戦った盟友の南野拓実が同じリーグからリヴァプールへステップアップしていたのを間近で見て、挫折感を味わったこともあったのではないか。


 そんな紆余曲折を経て、古巣復帰を決断したのだから、J1残留危機に瀕するチームを救うことに徹するしかない。心身ともにスケールアップし、タフになった北川は今、新たな決意と覚悟を持って日本での戦いにのぞんでいるのだ。


「アジアカップから3年くらい経ちますけど、あの時のメンバーが僕を含めて乾選手、権田選手と3人いるので、少し不思議な気がします。海外経験、日本代表経験のある選手がこのチームにいることは若い選手、エスパルスにとって大きなことだと思います」


「そういう中、乾選手はチームに元気や活力を与えてくれる。明るく前向きな方向にもっていくことを練習から率先してやってくれています。アジアカップの時も乾選手が来てから全員が話すようになった。そういう姿勢は学ばないといけないと感じています」


 乾とピッチ内外で好連携を築きながら、清水の得点力アップを図っていこうとしている北川。今後はスタメン獲りも視野に入れることが肝要だ。彼が狙うのは、カルリーニョス・ジュニオが担っているセカンドトップの位置。ここにはケガで離脱中のパリ五輪世代のエースである鈴木唯人もいるため、定位置確保のハードルは想像以上に高い。


「メンバー18人を選ぶのは監督なので、自分が何か言うことはないですけど、やっぱり1週間のトレーニングが大事になってくる。その競争はどこのチームに行ってもあることだし、欧州ならなおさら激しい。トレーニングでしっかり準備できた選手がメンバーに入ると思っているので、いつどこにいても手は抜けない。今はすごくいい競争環境にいると前向きに捉えています」


 熾烈なサバイバルをポジティブに考え、自らの糧にできるようになったのも、3年間の成長だ。実際、26歳という年齢は決して若くない。自らが中心となってチームを引っ張るくらいの気概を見せてこそ、本当の意味で彼は一皮むけることができるはずだ。


「清水エスパルスのエンブレムを背負えることは誇りだし、責任を持ってプレーしなければいけない。常にチームを助けられる存在になるように戦っていきます」


 毅然と前を向く彼が着実にゴール数を伸ばし、名門の救世主となることを、多くの人々が強く願っている。


取材・文=元川悦子