まとわりつく不快な湿気もなんのその。FC東京の室屋成は走り続けていた。ひたすら右サイドでアップダウンを繰り返していた。


 30日の明治安田生命J1リーグ、アルビレックス新潟戦。引き分けに終わったが「自分の特長を出せる。すごくやりがいがある。可能性があるサッカーだなって」。


 採用して2試合目となる新布陣のことだ。


 4−2−3−1(4−4−2)から3−5−2へ。篠田善之監督の言葉を借りれば、より前からプレスをかけ、ピッチの横幅を広く使って攻めるための決断。右サイドバックだった室屋のポジションはMF、いわゆるウィングバックに変わった。守備時は最終ラインの右端を埋め、ボールを奪えば最前線へ。人の配置を頭に描いてみてほしい。これまで2列目との連係で対応していた右タッチライン際の攻守を、センターバックの手を借りつつ、ほぼ一人で担うようになった。


「僕の中では、サイドバックの時とあまり変わらない。パスを受ける位置が高くなっただけで、カウンターを浴びた時に最初に戻ろうとか、攻守の切り替えは常に意識してきたから」。もちろん、責任の重さも承知済みだ。「サイドで孤立する場面も多い。そこで、どれだけドリブルで前に運べるか、個の力で崩しきれるか。新システムの鍵になると思う。もっともっとチャンスメイクしていきたいし、もっともっとクロスを上げていきたい」


 実際、この夜、開始早々から3本続けてクロスとサイトチェンジを見舞った。逆襲からチアゴ・ガリャルドに独走された42分、いの一番に追いついて難を逃れた。


 それだけにとどまらない役割も増えた。左ウィングバックの小川諒也によれば「片方が攻め上がれば、もう片方は中に絞って守備に備えるのが4バック。3バックの場合、(センターバックが1人増えたので)両方とも上がって、逆側からのクロスに対して中に入っていくことがある」という。つまり、攻撃の仕上げへの積極的な関わりが求められる。


 新たな役割をまっとうしようと室屋は試みた。50分、小川のクロスが流れてきたところを左足でシュート。バーに嫌われた。4分と表示されたアディショナルタイムが2分を過ぎる頃、速攻から永井謙佑が入れたクロスを頭でたたいた。この一撃、体を張った新潟の堀米悠斗に阻まれた。


 あの苦しい時間帯にゴール前まで駆け上がれるのが室屋持ち前の運動量であり、決めきる力が今後の伸びしろでもある。「ヘディングシュートを決めていたら、高校生の時以来だったかな。絶対にチャンスは来る、と狙っていたんですが。ああいうところを突き詰め、自分の成長につなげていきたい」


 そうなのだ。FC東京が新布陣をものにする時、それは室屋が一皮むける瞬間にもなる。リオデジャネイロ五輪で全3試合にフル出場を果たしたサイドのスペシャリスト。新境地でプレーの幅を広げられれば、サイドバックで新しい世代の台頭が進まないA代表にとっても朗報になる。


 もう一つ、個人的にハッとさせられた局面に触れておきたい。


 15分だった。自陣でパスをカット。前を見渡すと、ピーター・ウタカが中央から右に動き出していた。間髪入れず、確実なグラウンダーのパスを届けてCKにつなげた。


 内田篤人(シャルケ)を彷彿とさせる視野と機転の利きっぷり。タッチ際のデュエルだけではない。こんな気づかいをできる選手は得難い。こんな選手がピッチの隅にいれば、チームは助かる。


文=中川文如