いつものように、時は流れていく。試合翌々日はいつもと同じ、オフ明けのフィジカルトレーニング。いつもと同じように人工芝のサブグラウンドで、いつもと同じようなメニューを、いつもと同じようにこなしていく。二人一組になって消化するメニューで、選手の組み合わせもだいたいいつも通りだ。


 しかし、いつもとは違うのだ。その練習風景にもう、ミシャ(ミハイロ・ペトロヴィッチ)の姿はない。パイプ椅子に腰掛けながら、選手たちが汗をかく様子を見守る名伯楽はもういない。練習前、選手とスタッフが円陣を組んで言葉に耳を傾ける時間があったが、話をしていたのはミシャからバトンを受け継いだ堀孝史・新監督だった。


「良い雰囲気でやることをやり、それが油断にならないようにやって、前に進もう」


 8月1日、新監督の元では初となるトレーニングが大原サッカー場で行われた(元々組まれていた練習試合は試合翌日に実施)。


 現在の状況を望んでいた者など誰もいないはずだ。ただ指揮官の交代は、それまで出場機会に恵まれていなかった選手にとっては控えという境遇から脱する千載一遇のチャンス到来でもある。


 矢島慎也はまさにそういった状況に置かれている選手の1人だ。


 ファジアーノ岡山での2年間の武者修行を経て今シーズンから浦和に復帰したが、ミシャの信頼を勝ち取るには至らなかった。スタメンで出られた公式戦は天皇杯の2試合のみ。リーグ戦では第12節の清水エスパルス戦で86分から途中出場した以外に出番はなく、ベンチ入りすらできないことも珍しくなかった。


 シーズン前の加入会見後の取材では「試合に出て、自分の良くないところがわかって、そこを練習で意識して、それを試合で試すというサイクルができたと思うし、あとはやはり試合感が大事だと痛感した」と岡山でコンスタントに試合に出ていたことが成長につながったと話していたが、浦和に戻ってからはそのことを逆説的に痛感せざるを得なかった。


 天皇杯でピンポイント的にプレーすることで試合感の欠如を実感することになり、ロアッソ熊本戦後には「それは否定できないが、今の自分の状況でそれを言ったところで言い訳にしか聞こえない」と唇を噛んでいた。


 だが監督が変われば、少なからず選手の序列に変化は生まれる。堀・新監督も競争させてメンバーを選ぶ考えを打ち出している。ほんの一瞬で全てが変わり得るのがプロの世界。不幸な状況から転がってきたものであっても、チャンスはチャンスだ。あらゆるものを糧に生存競争を生き抜いていかねばならない。


「ポジティブに取ったら、自分たちのような立場の選手にとってはチャンスだと思う」


 矢島は虎視眈々と苦境から抜け出る機会を狙っている。


文=神谷正明