チームにとっては7試合ぶり、彼にとっては16試合ぶりのゴールだった。8月5日のガンバ大阪戦で見事な決勝ゴールを決めたのはウイルソン。時間は88分、彼は力強いカットインで米倉恒貴を振り切り、ゴール左から対角のネットにしっかり叩き込んだ。これがそのまま甲府の決勝点になった。


 ウイルソンはこう振り返る。「リマが後ろから攻撃参加して、ドゥドゥも絡めて3人の良いパス回しができた。最後のところで相手をかわして、いいコースを突くことができた」


 J1の18クラブを見渡して、これだけエースが得点と縁のないチームは他にないだろう。ウイルソンにとっても、これだけの長い期間ゴールを奪えなかったのは、プロになって初めて。何しろ彼は今季の第20節、出場17試合目でまだ2点しか決められていない。


 ただ彼はともかく試合に出続けていた。吉田達磨監督は起用の理由をこう説明する。「信じ続けて使ってきたというよりは、もっとできるだろうということがあった。あと(ウイルソンは)賢いし、点を取る以外での貢献は元々大きかった」


 ウイルソンを使わざるを得なかった“負の背景”もある。指揮官は続ける。「ウイルソンからポジションを取ってしまえというのもあったんですけれど、なかなか上手く行かず、日本人選手も発奮して欲しいなと思いながらやってきた」


 ウイルソンは第2節・鹿島アントラーズ戦でPKを失敗し、その後も「決めて欲しい決定機」を何度も外していた。第13節・FC東京戦の後半ロスタイムは「決まれば決勝点」の一対一を止められた。直近の第19節・鹿島戦でも72分に「ゴール正面フリー」の状況から決め損ねている。シュートミスが連鎖する負のサイクルに陥っているようにも見えた。他の選手との相対的な比較で起用され続けていたが、それはおそらくギリギリの選択だった。


 指揮官は言う。「僕の経験上ですが、日本人の選手たちは点が取れない助っ人に対して文句を言いたくなるし、何のために来ているんだってこともきっと思う。ただ、そういう中でも(ウイルソンを)仲間として見捨てず、裏切らずにやってきたと言うことはヴァンフォーレらしさ」


 もちろんウイルソンの甲府での戦いがこれで”ハッピーエンド”ということではない。エースが前半戦以上のペースで点を取らなければ、甲府の残留もないだろう。


 一方で間違いなく言えることは、彼が“助っ人”としての期待に応えられない中でも、吉田監督がいうようにチームから浮いていなかったということだ。


 DF新井涼平は言う。「(ウイルソンは)責任感の強い選手ですし、自分が助っ人としてチームのエースとしてやらなければ行けないという重圧もあったと思う。そういう中で自分の思うようなボールを出してくれないとか、自分が思うような試合運びをしてくれてないというのがあったと思う。でもそこを表に出すことなくやり続けて、(戦術や守備に対して)責任感を強く持ってやってくれていた。それがウイルソンのゴールで勝つという(G大阪戦の)結果につながった」


 ストライカーという“蛮族”は、自分のミスを周りのせいにする図太さがあった方がいいのかもしれない。ただウイルソンは良くも悪くもそういう姿勢とは真逆な性格。不甲斐ない成績を自分のモノとして背負い、周りに対して負の空気を発信することが無かった。


 記者からは繰り返し「点が取れていない理由」「点が取れるようになる方法」について質問が飛んでいた。吉田監督もG大阪戦後の会見で「僕にも厳しい、地獄に落ちるかのようなことも言われながら、それでもプレーを続けて今日は点を取った」と述べていた。フロントも含めて風当たりは間違いなく強まっていただろう。しかしウイルソンは我々に対して常に紳士的で、言葉や態度から投げやりな姿勢を全く感じなかった。


 彼が「ハードワークをやってきた。最後の最後のところもアジリティの個人練習が無ければ入ってなかったかもしれない」と振り返るように、フィットネスを高め、身体の切れを出す居残り練習も積んでいた。


 ウイルソンは言う。「やり続けたこと、諦めないこと、それを今日の試合のあのゴールにつながった」


 今の結果はともあれ、人間として応援したくなるのがウイルソンという男だ。体重も夏前の82キロから、今は79キロに絞れているとのこと。「夏が得意」と自任するウイルソンだけに、ここからの浮上に期待したいところだ。


文=大島和人