パリ天文台の博士課程学生Andrea Saccardiさんを筆頭とする研究チームは、初期の宇宙に存在していたガス雲に関する研究成果を発表しました。そのなかには宇宙最初の世代の星である「初代星(ファーストスター)」が超新星爆発を起こした後に残したとみられるガス雲も含まれており、初代星の超新星爆発の痕跡を初めて特定できたと研究チームは述べています。

【▲ 様々な元素を含む遠方宇宙のガス雲のイメージ図(Credit: ESO/L. Calçada, M. Kornmesser)】

【▲ 様々な元素を含む遠方宇宙のガス雲のイメージ図(Credit: ESO/L. Calçada, M. Kornmesser)】

■初代星の超新星爆発後に予想される化学組成と一致するガス雲を発見

私たちの周辺には水分子を構成する水素と酸素をはじめ、地球の生命に欠かせない炭素や窒素、人類の文明活動に用いられている鉄・金・ウランなど、様々な元素が存在しています。しかし、今から約138億年前のビッグバンから始まったとされる宇宙の歴史の最初期には、水素・ヘリウム・ごくわずかなリチウムといった軽い元素しか存在していなかったと考えられています。

天文学で「金属」や「重元素」と総称される水素やヘリウムよりも重い元素のうち、鉄までの元素は恒星内部の核融合反応で、鉄よりも重い元素は超新星爆発などの激しい現象にともなって生成されたとみられています。生成された金属は恒星の星風や超新星爆発によって周囲に放出され、やがて新たな世代の星に受け継がれていくため、宇宙の金属量は恒星の世代交代が進むとともに増えていくことになります。生命や文明を支える多様な元素は、星々が長い時間をかけて生み出してきたものなのです。

その長い歴史を過去に向かって辿っていくと、今から135億年前頃に誕生したと考えられている最初の世代の星「初代星」(ファーストスター、種族IIIの星※)は、当時の宇宙に存在していた水素やヘリウムだけを材料に形成されたことになります。太陽数十個〜数百個分の質量があったとみられる初代星はその内部で初めて金属を生成し、超新星爆発を起こした時に周囲へ金属を撒き散らしたはずです。

今回、研究チームが今から120億年前頃(赤方偏移z=3〜4)に存在していた幾つものガス雲の化学組成を分析したところ、恒星の内部で生成される元素のうち炭素などは豊富に含むものの、鉄はほとんど含まないガス雲が3つ見つかりました。研究チームによると、一部の初代星が起こした超新星爆発はエネルギーが低く、星の外層に存在していた炭素・酸素・マグネシウムなどは放出されるものの、中心核(コア)に存在していた鉄はほとんど放出されない場合もあった可能性が過去の研究で指摘されていました。今回見つかった3つのガス雲の化学組成は、このような爆発で予想されるものに一致するといいます。

【▲ ESOによる今回の研究成果の解説動画(英語)】
(Credit: ESO)

また、天の川銀河で見つかっている古い星のなかには、鉄に対する炭素の割合が高い「炭素過剰金属欠乏星」と呼ばれるものがあります。炭素過剰金属欠乏星は初代星が放出した物質から形成された“第2世代の星”である可能性が指摘されていましたが、今回研究チームが発見した3つのガス雲はまさにそのような物質に相当するといいます。

Saccardiさんは「史上初めて、初代星の爆発の科学的な痕跡を遠方宇宙のガス雲にて特定することができました」とコメント。また、研究に参加したフィレンツェ大学のStefania Salvadori准教授は「私たちの発見は初代星の性質を間接的に研究する新たな方法を開くとともに、天の川銀河の星の研究を完全に補完するものでもあります」とコメントしています。

■ガス雲を通過してきたクエーサーの光を地上の望遠鏡で分析

【▲ クエーサー(右上)を利用してガス雲(中央)の化学組成を調べる方法を示した図。虹色のバーで示されているのはクエーサーのスペクトル。ガス雲を通過した後のスペクトルには暗い吸収線が現れている(Credit: ESO/L. Calçada)】

【▲ クエーサー(右上)を利用してガス雲(中央)の化学組成を調べる方法を示した図。虹色のバーで示されているのはクエーサーのスペクトル。ガス雲を通過した後のスペクトルには暗い吸収線が現れている(Credit: ESO/L. Calçada)】

今回の研究では、ヨーロッパ南天天文台(ESO)が運営するパラナル天文台(チリ)の「超大型望遠鏡(VLT)」に搭載されている多波長分光観測装置「X-shooter」によるクエーサー(Quasar)の観測データが利用されました。クエーサーは銀河中心部の狭い領域から強い電磁波を放射する活動銀河核(AGN)の一種で、活動銀河核のなかでも特に明るいタイプを指します。

クエーサーと地球の間にガス雲があると、クエーサーから放出された光の一部はガス雲に含まれている物質に吸収されます。天体のスペクトル(電磁波の波長ごとの強さ)を得る分光観測を行い、クエーサーのスペクトルに現れた吸収線(原子や分子が特定の波長の電磁波を吸収したことで生じる暗い線)を調べることで、ガス雲に含まれている金属の種類や量を知ることができるのです。

X-shooterのような分光観測装置は、現在ESOが建設を進めている口径39mの大型望遠鏡「欧州超大型望遠鏡(ELT)」にも搭載される予定です。研究に参加したイタリア国立天体物理学研究所(INAF)のValentina D’Odoricoさんは、今回見つかったようなガス雲をELTの分光観測装置でより多く、より詳しく調べることで「初代星の謎めいた性質を明らかにできるでしょう」と期待を寄せています。

※…スペクトルから判明する金属量をもとに、金属が多い若い星は「種族I」、金属が少ない古い星は「種族II」に分類されています。金属が少ない星は「金属欠乏星」、金属がほとんど含まれない星は「超金属欠乏星」とも呼ばれています。また、金属を含まない星、すなわち最初の世代の星は「種族III」に分類されていますが、まだ見つかったことはありません。

 

Source

Image Credit: ESO/L. Calçada, M. Kornmesser, ESO/L. Calçada ESO - Astronomers find distant gas clouds with leftovers of the first stars Saccardi et al. - Evidence of first stars-enriched gas in high-redshift absorbers (the Astrophysical Journal)

文/sorae編集部