イタリア国立天体物理学研究所(INAF)のFederico Tosiさんを筆頭とする研究チームは、アメリカ航空宇宙局(NASA)の木星探査機「Juno(ジュノー)」による2021年の観測データを分析した結果、木星の衛星「ガニメデ」の表面に存在する塩と有機物が検出されたとする研究成果を発表しました。研究チームの成果をまとめた論文はNature Astronomyに掲載されています。

【▲ 木星の衛星ガニメデ。アメリカ航空宇宙局(NASA)の木星探査機「Juno(ジュノー)」」の可視光カメラ「JunoCam」で2021年6月に撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS/Kalleheikki Kannisto)】

【▲ 木星の衛星ガニメデ。アメリカ航空宇宙局(NASA)の木星探査機「Juno(ジュノー)」」の可視光カメラ「JunoCam」で2021年6月に撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS/Kalleheikki Kannisto)】

直径5268kmのガニメデは直径4880kmの水星よりも大きな太陽系最大の衛星です。これまでの観測・研究によってガニメデは独自の磁場を持つことが明らかになっており、その内部は氷・岩石・鉄が分化した層状の構造を成していると考えられています。

日本時間2021年6月8日、Junoは34回目の木星フライバイ(近接通過)「Perijove 34(PJ 34)」の一環としてガニメデの表面から1046kmまで接近して観測を行いました。ガニメデにここまで接近したのは2000年5月の木星探査機「Galileo(ガリレオ)」以来21年ぶりとなります。

この接近時に、Junoに搭載されている「赤外線オーロラマッピング装置(JIRAM)」を使用してガニメデ表面のデータが収集されました。イタリア宇宙機関(ASI)が開発したJIRAMは木星の深部から放射される赤外線を捉えて表面(雲頂)から深さ50〜70kmを探査するために開発された観測装置ですが、木星の衛星についての知見を得るためにも使用されています。

【▲ PJ 34実施時にJunoCamで撮影された画像をもとに作成されたガニメデと木星の動画】
(Credit: NASA/JPL-Caltech/SwRI/MSSS)

2021年6月のガニメデ接近時に行われたJIRAMの観測では、ガニメデの木星に面した半球の一部(北緯10度〜30度・東経マイナス35度〜プラス40度の範囲)における細長い線状のエリアについて、1km以下というこれまでになく高い空間分解能で赤外線画像と赤外線スペクトルが取得されました(スペクトルとは電磁波の波長ごとの強さのこと)。研究チームがデータを分析したところ、水の氷以外に塩化ナトリウム水和物、塩化アンモニウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸水素ナトリウム、それに脂肪族アルデヒドを含む可能性がある有機化合物などが存在することを示すスペクトルの特徴が検出されたといいます。

論文の筆頭著者であるTosiさんによると、アンモニアを凝縮するのに十分なほど低温の物質がガニメデの形成時に蓄積されたことや、炭酸塩の存在からはもともと二酸化炭素を豊富に含んでいた氷が蓄積したことが考えられるといいます。また、特定の場所に存在するナトリウムは地球・エンケラドゥス・エウロパ・ケレスといった他の天体と同様に液体の水と岩石の相互作用を示しており、生命の起源にも関わるプレバイオティック分子として重要な役割を果たすアルデヒドは古代の熱水環境に存在していた可能性があるともコメントしています。

【▲ JIRAMの観測で得られたデータのひとつをガニメデの地図に重ねて示した図。画像右下の断層付近で塩化アンモニウムに由来するとみられるスペクトルの兆候が強くなっていることが示されている(Credit: NASA/JPL-Caltech/SwRI/ASI/INAF/JIRAM/Brown University)】

【▲ JIRAMの観測で得られたデータのひとつをガニメデの地図に重ねて示した図。画像右下の断層付近で塩化アンモニウムに由来するとみられるスペクトルの兆候が強くなっていることが示されている(Credit: NASA/JPL-Caltech/SwRI/ASI/INAF/JIRAM/Brown University)】

JIRAMはガニメデの外観を特徴付けている明るい領域と暗い領域の様々な地形におけるデータを取得することに成功しました。Tosiさんによれば、暗い領域をはじめ明るい領域の断層付近でもより豊富な塩や有機物が検出されており、断層ごとの組成に違いはあるものの、地下からの塩水の噴出といった内部に起因するプロセスが物質の組成を決定付けた可能性が示唆されるといいます。NASAによると、ガニメデの表面に塩や有機物が存在する可能性は「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope:HST)」などによるこれまでの観測でも示唆されていたものの、局所的な分布を決定付けられるほど解像度の高いデータは得られていなかったといいます。

またTosiさんは、内部と外部それぞれに起因するプロセスが組み合わさるために表面組成の研究は複雑であり、検出されたガニメデ表面の組成は必ずしも内部の組成を代表しているわけではないと述べています。今回の研究を紹介したINAFは、検出された塩や有機物と探査エリアとの関係性について、過去のある時代までに液体の水と岩石のマントルとの間で起きた相互作用の“化石”であることが示唆されると説明。JIRAMのプロジェクトサイエンティストを務めるASIのChristina Plainakiさんは「今回の研究はガニメデの表面で起こっている複雑な化学反応を実証しています」とコメントしています。

【▲ 木星探査機「Juno(ジュノー)」の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

【▲ 木星探査機「Juno(ジュノー)」の想像図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

前述の通りガニメデは独自の磁場を持つことが知られていて、木星の強力な磁場に捉えられて衛星へと降り注ぐ荷電粒子から表面の一部(赤道から緯度40度までの範囲)を保護する役割を果たしていると考えられています。Junoミッションの主任研究員であり今回の研究にも参加している米国サウスウエスト研究所(SwRI)のScott Boltonさんは、磁場に保護されている領域で検出された塩と有機物について、内部海から表面に到達した海水の名残を私たちが見ていることを示唆しているとコメントを寄せています。

なお、ガニメデは2023年4月に探査機が打ち上げられた欧州宇宙機関(ESA)の木星系探査ミッション「JUICE(ジュース)」の探査目標でもあります。日本語では「木星氷衛星探査計画」と呼ばれるJUICE(「JUpiter ICy moons Explorer」の略)には宇宙航空研究開発機構(JAXA)も参加しており、ミッションの前半では木星を周回しながらエウロパ・ガニメデ・カリストの3つの衛星を探査します。ミッションの後半ではガニメデの周回軌道に入って探査を行う予定になっており、さらなる知見が得られることが期待されます。

 

Source

NASA - Salts and Organics Observed on Ganymede’s Surface by NASA’s Juno MEDIA INAF - Jiram trova sali minerali su Ganimede Tosi et al. - Salts and organics on Ganymede’s surface observed by the JIRAM spectrometer onboard Juno (Nature Astronomy)

文/sorae編集部