恒星間天体の可能性が極めて高い彗星「C/2019 Q4」が発見されたことは、先週soraeでもお伝えしました。発見者のGennady Borisov氏にちなんで「ボリソフ彗星」と呼ばれるようになったC/2019 Q4は、その後にハワイのジェミニ北望遠鏡によって初のカラー画像(赤と青のフィルターを使用)が撮影されるなど、にわかに注目度が高まっています。

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ジェミニ北望遠鏡が撮影したボリソフ彗星(C/2019 Q4)。赤と青のフィルターで撮影した複数の画像を合成したもの(Credit: Gemini Observatory/NSF/AURA)

そんなボリソフ彗星に「今から準備すれば探査機によるフライバイ探査(※)のチャンスがある」とする興味深い論文がInitiative for Interstellar Studiesに所属するAdam Hibberd氏らによってまとめられたことを、複数の海外メディアが報じています。論文は現在プレプリントサーバーのarXivにて公開されています。

(※…接近して通過する一回きりの探査)

■ボリソフ彗星への探査を行うためにベストな打ち上げ日はいつ?

今回Hibberd氏らの研究チームは、探査機の軌道を計算するシミュレーションプログラムを使って、ボリソフ彗星のフライバイ探査を前提とした2つの可能性を検討しました。

1つ目は「探査機を最適なタイミングで直接送り込む」場合です。どこかの天体に探査機を送り込む場合、探査機の重量は天体へ到達するための「最終的に必要な速度」によって制限を受けます。必要な速度が遅ければ遅いほど探査機の重量を増やせるので、設計にもそれだけ余裕が生まれます。

そこで、一番遅い速度でボリソフ彗星に到達できるベストなタイミングを計算したところ、打ち上げ日は2018年7月13日、ボリソフ彗星への最接近は2019年10月26日と算出されました。残念ながら、ベストタイミングは14か月前に過ぎてしまっていたのです。

なお、仮にこのタイミングで打ち上げることができた場合、スペースXの「ファルコン・ヘビー」ロケットを使用すれば、重さ2tの探査機を送り込めた可能性があるとしています。冥王星をフライバイ探査した「ニュー・ホライズンズ」の重量がおよそ460kg、現在木星を周回している探査機「ジュノー」がおよそ3.6tですから、その中間サイズくらいの探査機を送り込めたことになります。

■木星と太陽でスイングバイを行えば2045年にボリソフ彗星へ到達

2つ目に検討されたのは「スイングバイを利用してこれからボリソフ彗星への接近を試みる」場合です。

限られたロケットの性能でなるべく大きな探査機を打ち上げるには燃料(推進剤)を減らすしかありませんが、そうすると最終的に達成できる速度が遅くなってしまうため、目標の天体に届かなくなります。このジレンマを解消するために、現在では地球や木星といった惑星の重力を利用して探査機を加速させたり減速させたりする「スイングバイ」という航法が広く用いられています。

研究チームがスイングバイに利用することを検討したのは、なんと太陽でした。シミュレーションでは、まず探査機を木星へと向かわせて、固体燃料ロケットも併用したスイングバイによって太陽へかなり接近する軌道に乗せます。そして、太陽の重力を利用して探査機を加速させつつ軌道を変えることで、ボリソフ彗星に追い付くことが可能だとしています。

気になるタイミングは、打ち上げが2030年1月16日、木星最接近が2031年11月13日、太陽最接近が2032年7月22日。そしてボリソフ彗星への最接近は、打ち上げから15年後の2045年3月21日と算出されています。

Hibberd氏らが示した探査機の軌道シミュレーション結果を示した図(論文から引用)。地球から木星(緑)、木星から太陽(水色)の軌道を経て、太陽からボリソフ彗星(赤)への軌道に乗る(Credit: Hibberd et al.)

探査機の打ち上げには現在NASAで開発中の「スペース・ローンチ・システム(SLS)」が想定されており、固体燃料ロケットなどを除く探査機本体の重さはわずか3kg。超小型衛星クラスではありますが、十分な準備期間を確保した上で探査機が送り込める可能性が示されています。

課題のひとつに、太陽への接近時に浴びる太陽放射があります。シミュレーションでは、探査機は太陽の表面から「半径の2倍」、つまり太陽の直径と同じ距離までその表面に接近することになるため、かなりの放射エネルギーを受けることになります。この点について研究チームは、NASAの太陽接近探査機「パーカー・ソーラー・プローブ」の耐熱シールドを改良することで、太陽放射を乗り越えられるとしています。

耐熱シールドを装備した太陽接近探査機パーカー・ソーラー・プローブの想像図。太陽スイングバイを実行するには、この探査機の耐熱シールドを改良したものが必要とされる(Credit: Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory)

現在、欧州宇宙機関(ESA)では、彗星や恒星間天体の接近を宇宙空間で待ち受ける「Comet Interceptor(コメット・インターセプター)」の開発を進めており、2028年に打ち上げられる予定となっています。こうした「迎撃型」ではなく「追跡型」のコンセプトを打ち出した今回の研究結果、果たして実を結ぶことになるのでしょうか。

 

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Image Credit: Hibberd et al.
Source: arxiv – gemini
文/松村武宏