その存在を人類が知ってから200年以上が経つ火星の大気。欧州宇宙機関(ESA)とドイツ火星協会では現在、火星の大気や地質構造をより深く知るために、バルーンを備えた探査機の研究を進めています。

■上層から地上までゆっくりと降りていきながら大気や地表の観測を実施

地上でテストを受けるバルーンのプロトタイプ(Credit: ESA)

ドイツ火星協会が計画している「ARCHIMEDES(※)」は、重量約10kgの観測装置等と直径およそ10mのバルーンを組み合わせた探査プローブです。ドイツ火星協会によると、磁力計、大気観測装置、高解像度カメラ、加速度計などを搭載したARCHIMEDESは探査機によって火星まで運ばれ、バルーンを展開した状態で火星の大気に突入。30分から1時間ほどかけてゆっくりと降下しながら、大気の観測や地上の撮影などを行うとされています。

※…Aerial Robot Carrying High resolution Imaging, Magnetometer Experiment and Direct Environmental Sensorsの略

火星へ降下する探査機や探査車は耐熱シールドに保護されながら高速で大気に突入し、短時間で地表へ到達してしまうため、長い時間をかけて大気を観測することはできません。また、来月打ち上げ予定となっているNASAの火星探査車「パーセベランス」には技術実証を目的とした小型ヘリコプター「インジェニュイティ」が搭載されていますが、ヘリコプターはある程度の大気圧がないと飛行できないため、高高度の希薄な大気の観測には不向きです。

これに対し、軽量のARCHIMEDESは空気抵抗を利用して減速しつつ、上層から地上まで広い範囲の大気を比較的長い時間観測することが可能です。ドイツ火星協会では、気温・気圧・相対湿度の計測をはじめ、磁力計と高解像度カメラの組み合わせによる地磁気と地質構造の関連性の理解、地表の高解像度撮影、上層大気密度の測定などを目指すとしています。

ARCHIMEDESではもっと大きなバルーンを使ったより長時間の観測も検討されていたものの、火星の周回軌道に残る探査機が通信を中継する都合などの理由により、観測時間は1時間以内となっています。今後、火星のどこからでも地球と通信できるようになれば、地球における観測気球のように、火星の大気を長期間観測する探査プローブが数多く活躍するようになるかもしれません。

ARCHIMEDESのコンセプトイメージ。探査機から切り離されたARCHIMEDESは宇宙空間で展開され、火星の大気に突入した後はゆっくりと降下する(Credit: Mars Society Deutschland)

 

Image Credit: Mars Society Deutschland
Source: ESA / Mars Society Deutschland
文/松村武宏