降着円盤に囲まれた超大質量ブラックホール(中央)と、破壊された恒星の残骸(中央左)を描いた想像図。ブラックホール周辺には高温プラズマのコロナが存在する(Credit: NASA/JPL-Caltech)

ブラックホールに吸い込まれていくガスは高速で周回しながら降着円盤を形成しており、ブラックホールの周辺では高温のプラズマでできたコロナが生じていると考えられています。ブラックホールそのものを見ることはできませんが、その周囲にある降着円盤やコロナから放射された電磁波を捉えることで、間接的に観測することが可能です。今回、ある銀河の活動銀河核から放射されるX線が急激に弱まった現象について、超大質量ブラックホールに破壊された恒星が原因ではないかとする研究成果が発表されています。

■恒星の残骸が降着円盤に衝突し、ブラックホールの「食事」を中断させたか

「りゅう座」の方向およそ3億光年先にある「1ES 1927+654」は、活動銀河核を持つ銀河(セイファート1型)のひとつです。この銀河では2年前、X線の強さが約40日間で1万分の1まで弱まり、その約100日後には弱まる前の20倍も強くなるという大きな変化が観測されていたといいます。

Claudio Ricci氏(ディエゴ・ポルタレス大学)らの研究グループは、1ES 1927+654で観測されたX線の変化はブラックホールに吸い込まれる物質が一時的に途絶えたことで生じたものであり、ブラックホールの重力がもたらす潮汐作用によって破壊(潮汐破壊)された恒星の残骸と降着円盤の相互作用がその原因として考えられるとする研究結果を発表しました。

発表によると、ブラックホールコロナからの放射はブラックホールに吸い込まれていく物質の増減にあわせて明るくなったり暗くなったりすることが知られているものの、その変化は最大100倍ほどとされています。1ES 1927+654で観測されたX線の大幅な減光についてRicci氏は「最初は観測データに問題があるのではないかと思いました。本物だとわかったときには興奮しましたが、何を扱っているのかさえわかりませんでした。このような現象を私たちは見たことがなかったのです」と振り返ります。

いっぽう、X線の減光が観測される数か月前、1ES 1927+654が可視光(人の目で見える光)でかなり明るくなった様子が観測されていたといいます。分析を進めた研究グループは、超大質量ブラックホールに接近したために破壊された恒星の残骸が降着円盤に衝突し、ブラックホール周辺の物質を分散させたことで物質の供給が一時的に断たれた結果、X線の放射が大幅に弱まった可能性を見出しました。X線で暗くなる数か月前に観測された可視光の増光は、恒星の残骸と降着円盤が衝突したことで生じた可能性があるとされています。

恒星の残骸が降着円盤に衝突した後の様子を描いた想像図。ブラックホール周辺の物質が分散したために吸い込まれる物質が一時的に断たれ、ブラックホールコロナも消えている(Credit: NASA/JPL-Caltech)

ただ、国際宇宙ステーション(ISS)の中性子星観測装置「NICER」やガンマ線観測衛星「ニール・ゲーレルス・スウィフト」などによる観測では、X線の減光がスムーズではなかったことがわかったといいます。NICERは低エネルギーのX線が日々変動する様子を捉えており、極端なケースではわずか8時間で100倍もの変化が確認されていることから、研究グループは恒星の残骸以外の原因が存在する可能性にも言及。超大質量ブラックホールとその周辺が減光の前後でどう変わったのかを知るためにも、観測を継続するとしています。

 

Image Credit: NASA/JPL-Caltech
Source: NASA/JPL
文/松村武宏