ハッブル宇宙望遠鏡が撮影した銀河団「SpARCS1049」の画像に、X線観測衛星チャンドラによるX線の観測データ(水色)を重ね合わせたもの。星形成活動はそれぞれ矢印で示された中央の銀河(central galaxy)と高密度の高温ガス(densest hot gas)の中間の領域において活発とされる(Credit: X-ray: NASA/CXO/Univ. of Montreal/J. Hlavacek-Larrondo et al; Optical/IR: NASA/STScI)

数多くの銀河が集まっている銀河団は、広大な宇宙のなかでも大規模な構造のひとつです。今回、地球から100億光年近く離れたある銀河団における急速な星形成活動と超大質量ブラックホールの関係に迫った研究成果が発表されています。

■ブラックホールに加熱されなくなったガスから大量の星々が形成される

おおぐま座の方向およそ99億光年先にある銀河団「SpARCS104922.6+564032.5」(以下「SpARCS1049」)では、天の川銀河の300倍以上というペースの星形成活動が観測されています。これは、現在の天の川銀河を構成する星々すべてがおよそ1億年で形成されるほどのペースだといいます。

Julie Hlavacek-Larrondo氏(モントリオール大学)らの研究グループは、銀河団SpARCS1049の急速な星形成活動が超大質量ブラックホールの静穏化によって引き起こされたとする研究結果を発表しました。

ブラックホールの活動と星形成にはどのような関係があるのでしょうか。銀河団にはX線を放つ大量の高温ガス(銀河団ガス)が広がっていますが、銀河団に存在する超大質量ブラックホールの活動は、銀河団のガスを加熱するとみられています。ガスは温度が下がると収縮して星が形成されるようになるものの、ブラックホールの活動によってガスの温度が高温に保たれることで、結果として星形成活動が抑制されると考えられています。

研究グループがNASAのX線観測衛星「チャンドラ」による銀河団SpARCS1049の観測データを分析したところ、銀河団のほとんどの場所ではガスの温度が摂氏およそ6500万度だったのに対し、銀河団の中心から8万光年ほど離れたところにある星形成が活発な領域ではガスの密度が平均よりも高く、温度は周囲よりも低い摂氏およそ1000万度であることが判明しました。この観測結果は、大量の星々の形成につながるさらに低温のガスの集まりが存在することを示すものだとされています。

超大質量ブラックホールを描いた想像図。高温の降着円盤に囲まれたブラックホールがジェットを放出させている(Credit: NASA/JPL-Caltech)

研究グループによると、積極的に物質を取り込んでいる活発なブラックホールによって放出されるジェットは電波で、ブラックホールに飲み込まれつつある高温の物質はX線で観測されるものの、銀河団SpARCS1049の中心にある銀河ではこうした超大質量ブラックホールの活動を示す証拠が見つかっていないといいます。研究グループでは、銀河団どうしの衝突などによって高密度のガスが遠ざかり超大質量ブラックホールの活動が静穏化したことで、銀河団のガスが加熱されなくなったために、急速な星形成活動が引き起こされたのではないかと考えています。

研究に参加したCarter Rhea氏(モントリオール大学)は、「ブラックホールからエネルギーが送り込まれなくなったガスが十分に冷えたために、これほどの速度で星が形成されるようになった可能性があります。ブラックホールの静穏化は、初期の宇宙における星形成にとって重要な出来事だったのかもしれません」とコメントしています。

 

Image Credit: X-ray: NASA/CXO/Univ. of Montreal/J. Hlavacek-Larrondo et al; Optical/IR: NASA/STScI
Source: chandra.harvard.edu
文/松村武宏