火星探査機「インサイト」を地下の様子とともに描いた想像図(Credit: IPGP/Nicolas Sarter)

火星探査機「インサイト」を地下の様子とともに描いた想像図(Credit: IPGP/Nicolas Sarter)

アメリカ航空宇宙局(NASA)のジェット推進研究所(JPL)は1月14日、現在火星のエリシウム平原でミッションを行っている火星探査機「InSight(インサイト)」の観測装置のひとつである地中熱流量計測装置「HP3(Heat Flow and Physical Properties Package)」について、運用を終えることを明らかにしました。

HP3は火星地下の熱流量を測定することで「火星の核(コア)は固体か液体か」という謎に迫ることを目的に開発された観測装置です。その中核となるのは内部にハンマーを内蔵した通称「the mole(モール、もぐらの意)」と呼ばれる地中センサーで、周囲の土から得られる摩擦を頼りに地下5mまで掘り進む計画でした。

土の状態は過去の火星探査ミッションで得られた経験をもとに推定されていたものの、インサイト着陸地点の地下はこれまでの経験とは異なり土が凝集しやすく、モールが穴を掘り進んでいくだけの摩擦を得ることができませんでした。

モールの地下に向けた前進は2019年2月に始まりましたが、予想外の土の状態に数十cm程度しか掘り進めることができず、2019年10月には崩れた土が徐々に穴を埋めたことでモールが地上へ逆戻りする事態に。その後はインサイトのロボットアームに取り付けられているスコップでモールを押さえながら再度掘り進めることに成功し、2020年6月にはようやくモール全体が地下に埋まるところまで前進していました。

穴が土に埋められたことで地上に半ば飛び出してしまったモール(画像左の筒状の装置)。ロボットアームは摩擦を強めるために用いられた(Credit: NASA/JPL-Caltech)

穴が土に埋められたことで地上に半ば飛び出してしまったモール(画像左の筒状の装置)。ロボットアームは摩擦を強めるために用いられた(Credit: NASA/JPL-Caltech)

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その後もモールの上に土をかぶせるなどして摩擦を強める努力が重ねられましたが、2021年1月9日に内蔵されたハンマーを500回作動させたものの進展はなく、HP3の運用が終わることになりました。地下5mでの温度測定という当初の目的は果たせませんでしたが、2年近くに渡る試行錯誤は今後の探査に活かされることになります。

JPLのTroy Hudson氏が「小さな装置でこれほど深く掘り下げようとした前例はありません」と語るように、過去の火星探査において地表を削ったりドリルで穴を開けたりすることはありましたが、地中深くに装置を潜り込ませようとしたミッションはありませんでした。HP3の主任研究者を務めるドイツ航空宇宙センター(DLR)のTilman Spohn氏は「地下へと掘削する将来のミッションに役立つ多くの経験が得られたのは幸運でした」と語ります。

また、モールを横から押したり上から押さえたりといった予定外の運用を行ったことで、運用チームはロボットアームの操作に関する貴重な経験を積むことができたといいます。

先日もお伝えしたようにインサイトのミッション自体は2022年12月まで延長されており、より長い期間に渡る高品質な火震(火星の地震)のデータセット作成が予定されています。地表に設置されたインサイトの火星地震計「SEIS(Seismic Experiment for Interior Structure)」は探査機本体とケーブルでつながっていますが、このケーブルにロボットアームのスコップを使って土をかぶせることで温度変化を抑制し、データに含まれるノイズを減らすことが計画されています。モールをサポートするためにロボットアームを利用した際の経験が、早速この運用に活かされることになりそうです。

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Image Credit: IPGP/Nicolas Sarter
Source: NASA/JPL
文/松村武宏