【▲ 宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ」を描いた想像図(Credit: Adriana Manrique Gutierrez, NASA Animator)】

アメリカ航空宇宙局(NASA)と欧州宇宙機関(ESA)は、NASA・ESA・カナダ宇宙庁(CSA)の新型宇宙望遠鏡「ジェイムズ・ウェッブ(James Webb)」が地上での試験をすべて完了し、打ち上げが行われる南米のギアナ宇宙センターへの輸送準備が始まったことを発表しました。当初は2007年に予定されていたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げが、いよいよ間近に迫ってきました。

■赤外線を捉えるジェイムズ・ウェッブは初期宇宙の謎に迫る

ジェイムズ・ウェッブは六角形の鏡を18枚組み合わせた直径6.5mの主鏡を持ち、赤外線の波長で天体を観測する宇宙望遠鏡です。今年で打ち上げから31周年を迎えた「ハッブル」宇宙望遠鏡(主鏡の直径2.4m)は地球を周回していますが、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は地球と太陽の重力が釣り合うラグランジュ点のひとつ「L2」(地球からの距離は約150万km)まで移動して観測を行います。

地上試験は製造を担当したノースロップ・グラマンのカリフォルニア州にある施設で行われてきましたが、打ち上げには欧州の「アリアン5」ロケットが用いられるため、ジェイムズ・ウェッブはフランス領ギアナのクールーにあるギアナ宇宙センターに向けて船で輸送されることになります。打ち上げは2021年11月〜12月の予定で、機器の冷却や較正などを終えて観測が始まるのは打ち上げからおよそ6か月後とされています。

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げを描いた想像図(Credit: ESA – D. Ducros)】

赤外線を利用するジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の重要な役割の一つが、遠方宇宙の観測です。遠くの宇宙を観測することは、初期の宇宙を観測することでもあります。地球上では一瞬で届くように感じる光(電磁波)も、実際には秒速およそ30万kmという限られた速度で進みます。天文学で用いられる「光年」という単位は、光が1年間に進む距離をもとに定められています。そのため、100億光年先の銀河から届いた光は、今から100億年前にその銀河から放たれた光ということになるわけです。

ただ、この宇宙は膨張しているので、宇宙空間を進む光の波長は距離が長くなるほど伸びていきます。人の目に見える可視光線であれば、遥か彼方にある銀河から地球に届くまでのあいだに波長が伸びて、赤外線になってしまいます。ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は遠方宇宙から届いた赤外線を捉えることで、初期宇宙で誕生した宇宙最初の世代の星(初期星、ファーストスター)や最初の世代の銀河を観測し、宇宙の起源に迫ることが期待されています。

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■畳んだ状態でロケットに搭載し、打ち上げ後に各部を展開

【▲ すべての地上試験を終え、打ち上げのために各部が畳まれたジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(Credit: NASA/Chris Gunn)】

赤外線は天体だけでなく熱を持つ物体からも放射されます。宇宙望遠鏡自体も例外ではなく、主鏡や副鏡、観測装置、機体の温度をできるだけ低く保っておかないと、自身が放射した赤外線が観測の妨げになってしまいます。そのため、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、鏡や機体を温める太陽光を遮断するために展開式のサンシールド(日除け)を装備しています。

サンシールドは展開すると約21m×14mという巨大なものですが、直径6.5mの主鏡も含めて、そのままではアリアン5ロケットの直径5mのフェアリング(ロケットの先端にある人工衛星や探査機などを搭載する部分)に収まりません。そこで、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡では主鏡・副鏡・サンシールド・太陽電池パネルをすべて畳んだ状態で打ち上げ、宇宙空間で展開する方法が採用されています。

2014年に公開されたこちらの動画では、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられてから太陽と地球のL2に到達するまでの1か月間、各部の展開や軌道修正がどのような手順で行われるのかが示されています。巨大なサンシールドの展開手順は特に複雑ですが、地上試験では予定通りに展開されています。

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▲ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡各部の展開手順を示した動画(英語)▲

冒頭でも触れたように、ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の打ち上げは2007年が予定されていましたが、これまでに何度も延期を繰り返しており、直近では新型コロナウイルス感染症の影響を受けて2021年3月から10月末に延期されていました。

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初期宇宙の銀河や初代星だけでなく、太陽系内の惑星・衛星や太陽系外惑星の観測などでも活躍が大いに期待されているジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡。打ち上げが成功し、無事に観測が始まることを願うばかりです。

 

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Image Credit: NASA
Source: NASA / ESA
文/松村武宏