りゅうこつ座AG星と周囲に広がる星雲。赤はイオン化した水素・窒素ガス、青は塵の分布に対応する(Credit: ESA/Hubble and NASA, A. Nota, C. Britt)

【▲ りゅうこつ座AG星と周囲に広がる星雲。赤はイオン化した水素・窒素ガス、青は塵の分布に対応する(Credit: ESA/Hubble and NASA, A. Nota, C. Britt)】

こちらは南天の「りゅうこつ座」(竜骨座)の方向およそ1万5000光年先にある「りゅうこつ座AG星」(AG Carinae)と、その周辺に広がる星雲の様子です。星雲の色はイオン化した水素および窒素のガス(赤色)と、星の光を反射する塵(青色)の分布に対応しています。欧州宇宙機関(ESA)が公開しているこちらのページ(https://esahubble.org/images/comparisons/potw2137a/)では、ガスの分布のみを示した画像(次に掲載)とスライダーを使って比較することもできるようになっています。

りゅうこつ座AG星は「高光度青色変光星」(LBV:Luminous Blue Variable)と呼ばれる短命な大質量星のひとつで、ESAによると質量は太陽の約70倍、明るさは太陽の100万倍もあります。太陽の寿命は誕生から約100億年と言われていますが、高光度青色変光星の寿命は数百万年程度で、最後は超新星爆発に至ると考えられています。

太く短く輝く高光度青色変光星は不安定な恒星で、比較的穏やかな時期を過ごしたかと思えば、時折ガスや塵を爆発的に放出するといいます。りゅうこつ座AG星を取り巻く星雲は星自身の外層が吹き飛んだ時に放出された物質でできていて、星雲の質量だけでも太陽およそ10個分に相当するといいます。星雲は幅およそ5光年に渡り広がっていますが、これは太陽から最寄りの恒星であるプロキシマ・ケンタウリまでの距離(約4.22光年)とほぼ同じスケールです。

りゅうこつ座AG星と周囲のガスの分布のみを示したもの(Credit: ESA/Hubble and NASA, A. Nota, C. Britt)

【▲ りゅうこつ座AG星と周囲のガスの分布のみを示したもの(Credit: ESA/Hubble and NASA, A. Nota, C. Britt)】

今回ESAから公開された画像は、「ハッブル」宇宙望遠鏡の観測データをもとに作成されました。ハッブル宇宙望遠鏡は今年の4月に打ち上げ31周年を迎えており、りゅうこつ座AG星は31周年の記念画像としても公開されています。記念画像では現在活躍している「広視野カメラ3(WFC3)」の観測データが使われましたが、今回は2014年と2020年に取得されたWFC3のデータに加えて1994年当時ハッブルに搭載されていた「広域惑星カメラ2(WFPC2)」のデータも用いられています。

りゅうこつ座AG星を取り囲む星雲の形はリング状に見えますが、実際には内部に空洞ができた殻状の構造をしています。ESAによると、現在観測されている星雲はガスや塵が放出されてからおよそ1万年が経っており、ガスの移動速度は秒速約70km。その内部にできた空洞は、りゅうこつ座AG星から吹く秒速約200kmの恒星風によって形成されたとみられています。星雲のガスは太いリング状に見えるいっぽうで、塵の構造は恒星風によって形成された塊状、泡状、紐状の様々な姿をしています。

また、りゅうこつ座AG星と周囲の星雲を調べた研究者らは、星雲が完全な球形ではなく双極的な形をしていることに気づいたといいます。このことから、ガスや塵の爆発的な放出を引き起こすメカニズムには星を取り囲む円盤、単独の星ではなく連星で起こる相互作用、あるいは多くの大質量星でみられる高速自転が関わっている可能性が考えられています。

画像はハッブル宇宙望遠鏡のWFC3とWFPC2による紫外線・可視光線・赤外線の観測データから作成されたもので、ハッブルの今週の一枚「A Closer Look at Hubble’s 31st Anniversary Snapshot」として、ESAから2021年9月13日付で公開されています。

 

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Image Credit: ESA/Hubble and NASA, A. Nota, C. Britt
Source: ESA/Hubble
文/松村武宏