恒星を中心として惑星が公転しているとき、生命が存在できる軌道の範囲(中心星からの距離)のことを「ハビタブルゾーン」と呼びます。具体的には惑星の表面に液体の水が存在できることを指しています。ここでいう「生命」とは「地球型生命」のことを意味していて、地球型生命が存在するためには、惑星表面に液体の水の存在が必要と考えられているからです。

液体としての水の存在を考えたとき、ハビタブルゾーンには「内側境界」(中心星に近い境界)と「外側境界」(中心星から遠い境界)が想定されます。

内側境界では温度が上がり、水が蒸発し、水蒸気による温室効果により、さらに温度が上がり続けます。この温度上昇は惑星表面から水がなくなるまで続きます。このような状態は「暴走温室状態」と呼ばれます。つまり、ハビタブルゾーンの内側境界とは、暴走温室状態に入る直前の位置を示していることになります。

一方、外側境界では温室効果ガスの存在が重要な役割を果たしています。もし温室効果ガスが全くなかったとしたら、現在の地球の軌道では温度が低すぎて、表面の水は全て凍りついてしまいます。このような状態は「全球凍結状態」とも呼ばれます。

現在、地球温暖化で問題となっている二酸化炭素が、ここでは最も重要な役割を担う温室効果ガスとなっています。そこで、地球と同じような大気を持った惑星を想定した場合、ハビタブルゾーンの外側境界とは、二酸化炭素が凍りついてしまって十分に温室効果が効かなくなる位置を示していることになります。ハビタブルゾーンの外側境界を決めるとき、一般に「地球と同じ大気を持つ」ことが暗に仮定されている、ということです。

現在の地球の大気や海がどのようにして形成されたのかを知ることは、単に地球の起源を解明するだけではなく、ハビタブルゾーンや系外惑星での生命探査の研究にも寄与する可能性を秘めています。

news-28756-p1(Credit: Alan Brandon/Nature)

【▲多数の小天体の衝突によって形成される地球(想像図)(Credit: Alan Brandon/Nature)】

2021年11月、東京工業大学の研究チームは、地球の炭素・窒素・水の量の起源を理論的に研究し、地球の大気と海を同時に再現する地球形成モデルを構築することに成功したと発表しました。

地球の大気や海、そして生命の主要構成要素である炭素・窒素・水の起源は太陽系や地球の科学的研究で最も大きな謎の一つでした。

現在最も有力視されている起源は、小惑星帯に多数存在する、はやぶさ2が探査した小惑星「リュウグウ」のような「C型小惑星」と呼ばれるタイプの小惑星です。C型小惑星から飛来したとされる「炭素質コンドライト隕石」の分析から、これらの小惑星は炭素・窒素・水を含むと考えられています。

C型小惑星が地球の大気や海の起源であるならば、両者の炭素・窒素・水の存在比は一致するはずです。しかし、地球と炭素質コンドライト隕石と比較すると、地球では窒素・炭素・水の順に欠乏の度合いが大きく、元素存在度は一致しません。

news-28756-p2(Credit:Sakuraba et al. (2021) Scientific Reports)

【▲a:マグマオーシャンに覆われていた形成期の地球。b:すでに海が存在していた後期天体集積期の地球(Credit: Sakuraba et al. (2021) Scientific Reports)】

地球は多数の小天体の衝突(天体集積)によって形成されました。天体衝突のエネルギーによって、形成期の地球は原始地球を覆っていた、溶融した岩石(マグマ)の層である「マグマオーシャン」に覆われていました。また、この時期には、天体衝突によって大気の一部は宇宙空間に流出します。

さらにまた、重い金属鉄はマグマから分離しコアへと沈み込み、炭素・窒素・水の一部は鉄とともにコアへと取り去られてしまいます。研究チームは、これらの過程を網羅的に考慮したシミュレーションによって、マグマへ溶け込みやすい水が選択的に地球に残されることを突き止めました。しかし、この段階では大気中に窒素が過剰に残ってしまいます。

そこで次に、マグマオーシャンが固化し、海が形成された後の地球への天体集積(後期天体集積)に着目しました。海が形成された初期の地球では炭素の大部分が炭酸塩鉱物(炭酸塩岩)となることで、大気には窒素のみが残されます。

これらの過程を考慮したシミュレーションを行った結果、多数の小惑星の衝突によって大気の7割以上が失われる場合に、現在の地球の炭素・窒素・水の量と一致することが明らかになりました。

この結果は後期天体集積期に地球に集積する天体サイズに依存し、多数の小さな天体が集積した場合のみ、地球の元素存在度が再現されたということです。

news-28756-p3(Credit:Sakuraba et al. (2021) Scientific Reports)

【▲シミュレーションによって得られた炭素・窒素・水(水素)量の時間進化。各線の凡例の数字は、地球が現在の質量の何%に達した時点かを示しています。緑色の領域は現在の地球(コアを除く)の元素量。(a:マグマオーシャン形成期、b:後期天体集積期)(Credit: Sakuraba et al. (2021) Scientific Reports)】

小惑星リュウグウ試料の分析から、C型小惑星と炭素質コンドライト隕石のつながりが確認された場合、その結果は、多数の小惑星の衝突で地球大気の大部分が失われたとする本研究チームの仮説を支持することになります。

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研究チームは、水の取り込みに寄与するマグマオーシャンの形成、後期天体集積による窒素に富んだ大気の損失がいずれも、ハビタブルゾーンに地球サイズの惑星が形成される過程で必然的に生じるため、太陽系外の地球サイズの惑星も必然的に地球と似た環境となると予想しています。

惑星の炭素・窒素・水の量が生命の誕生・維持に与える影響は未解明ながら、太陽系外の地球型惑星が地球と似た環境になりやすいという傾向は、地球のような環境に生きる生命(地球型生命)を探す試みを後押しする結果であるとしています。

 

Image Credit: Alan Brandon/Nature、Sakuraba et al. (2021) Scientific Reports
Source: 東京工業大学 / 論文、EXOKYOTO
文/吉田哲郎