1977年に打ち上げられたアメリカ航空宇宙局(NASA)の惑星探査機「ボイジャー1号」と「ボイジャー2号」は、木星などを観測した後に太陽圏を脱出して星間空間を飛行しています。太陽系外の天体を直接探査するミッションは今のところ構想段階でしかありませんが、いつの日か人類は広大な星間空間に向けて探査機を送り出し、別の恒星や太陽系外惑星をその場で観測するようになるかもしれません。

もしも、この宇宙に人類よりも進歩した知的生命体が存在していて、星間空間に進出しているとすれば、彼らの無人探査機や生命体が乗った宇宙船は遠く離れた母星との間で、片道何年、何十年もかかる通信を行っていることでしょう(超光速通信を使っていなければの話ですが)。ひょっとしたらその信号を、地球外知的生命体探査(SETI:search for extraterrestrial intelligence)で検出することができるかもしれません。

ペンシルベニア州立大学大学院生(SETIコース)のNick Tusayさんを筆頭とする研究チームは、ある仮定にもとづいて、太陽系を通過しているかもしれない地球外文明の通信を検出することを試みました。その仮定とは、「恒星による重力レンズ効果を利用する星間通信用の装置が太陽系内に存在する」というものです。

■太陽重力レンズを利用した通信装置が存在すると仮定して観測を実施

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した銀河団「SMACS 0723-73」(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI)】

【▲ ジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が撮影した銀河団「SMACS 0723-73」(Credit: NASA, ESA, CSA, STScI)】

重力レンズとは、手前にある天体(レンズ天体)の質量によって時空間が歪むことで、その向こう側にある天体(光源)から発せられた光の進行方向が変化し、地球からは像が歪んだり拡大して見えたりする現象のことです。

銀河団がもたらす重力レンズ効果によってその向こう側にある銀河の像が歪んでいる様子は、「ハッブル」宇宙望遠鏡などによって観測されています。2022年7月12日に高解像度画像が初めて公開された「ジェイムズ・ウェッブ」宇宙望遠鏡も、最初に公開されたのは銀河団による重力レンズ効果を捉えた画像でした。

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いっぽう、銀河や銀河団と比べてずっと軽い恒星も「重力マイクロレンズ効果」をもたらすことがあります。重力マイクロレンズとは、遠くにある恒星(光源)と地球の間を別の天体(レンズ天体)が通過する時に、光源となる星を発した光の進む向きがレンズ天体による時空間の歪みによって変わることで、光源星の明るさが時間とともに変化する現象のことです。

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重力レンズを「天然の望遠鏡」として利用すると、通常の方法では遠すぎたり暗すぎたりして観測が難しい天体を研究できる場合があります。たとえば、先日発見が報告された約129億光年先の恒星とされる「エアレンデル」も、重力レンズ効果を利用して観測が行われました。また、重力マイクロレンズも太陽系外惑星やブラックホールを捜索するために活用されていて、その手法は「重力マイクロレンズ法」と呼ばれています。

【▲ エアレンデル(Earendel)周辺の注釈付き拡大図。エアレンデルの像は銀河団が生じさせた時空の波紋(点線)によって拡大されており、近くにはエアレンデルと同じ銀河に属する星団の2つの像(mirrored star cluster)が、波紋を挟むようにして見えている(Credit: SCIENCE: NASA, ESA, Brian Welch (JHU), Dan Coe (STScI); IMAGE PROCESSING: NASA, ESA, Alyssa Pagan (STScI) )】

【▲ エアレンデル(Earendel)周辺の注釈付き拡大図。エアレンデルの像は銀河団が生じさせた時空の波紋(点線)によって拡大されており、近くにはエアレンデルと同じ銀河に属する星団の2つの像(mirrored star cluster)が、波紋を挟むようにして見えている(Credit: SCIENCE: NASA, ESA, Brian Welch (JHU), Dan Coe (STScI); IMAGE PROCESSING: NASA, ESA, Alyssa Pagan (STScI) )】

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この重力レンズ効果を積極的に利用する宇宙望遠鏡も提案されています。NASA・ジェット推進研究所(JPL)のSlava Turyshevさんは、太陽系外惑星の高解像度画像を取得するために、太陽がもたらす重力レンズ効果を利用した望遠鏡のアイディアを提案。太陽から547.6天文単位(※)以上離れたところにソーラーセイルを備えた複数の小型宇宙望遠鏡を送り込むことで、100光年離れた系外惑星の表面を25kmの解像度で撮影できるといいます。

※…1天文単位(au)=約1億5000万km、太陽から地球までの平均距離に由来

【▲ 太陽による重力レンズ効果を利用して撮影された系外惑星のイメージ図。遠く離れた系外惑星を高い解像度で観測できるという(Credit: Slava Turyshev)】

【▲ 太陽による重力レンズ効果を利用して撮影された系外惑星のイメージ図。遠く離れた系外惑星を高い解像度で観測できるという(Credit: Slava Turyshev)】

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今回、Tusayさんたちが仮定・捜索した地球外文明の星間通信システムは、JPLのTuryshevさんが提案している「太陽重力レンズ望遠鏡」に似たところがあります。

Tusayさんたちは、地球外の知的生命体が数光年以上の距離を越えて情報を送受信するために、恒星による重力レンズを利用して信号を増幅するための通信装置があちこちに配置されていて、広大な星間空間に通信ネットワークが構築されているかもしれないと考えました。その通信装置が太陽系にも存在するかもしれないというのです。

太陽重力レンズを通信に利用するには、「通信装置・太陽・通信相手」が一直線状に並ぶ必要があります。そのため、系外惑星などの潜在的な通信相手に対応した通信装置の位置(太陽を挟んで反対側にあるはず)を推定して、信号を捜索することが可能です。

【▲ 太陽重力レンズを利用した星間通信システムの概念図(Credit: Dani Zemba / Penn State)】

【▲ 太陽重力レンズを利用した星間通信システムの概念図(Credit: Dani Zemba / Penn State)】

研究チームは、地球外文明の通信が4.37光年離れた最寄りの恒星系「アルファ・ケンタウリ」との間で行われていて、アルファ・ケンタウリとは反対の方向へ太陽から550天文単位以上離れたところに通信装置が存在すると想定。2021年11月6日にグリーンバンク天文台の電波望遠鏡「グリーンバンク望遠鏡(GBT)」を使って観測を行い、SETIプロジェクト「ブレイクスルー・リッスン」と共同で分析を行いました。

今回の観測では地球外文明の信号は検出されませんでしたが、仮に通信装置が実在するとしても1晩限りの観測では信号を見落とす可能性があり、今回は太陽重力レンズを利用した星間通信の信号を捜索できるかどうかを試す良いテストになったとTusayさんは振り返ります。

ペンシルベニア州立大学によると、大学院レベルでSETIコースが設けられているのは、世界でも同大学とカリフォルニア大学ロサンゼルス校の2校のみだといいます。SETIコースで教壇に立つJason Wright教授は「SETIの分野はとても若く、学生たちは実際に貢献して研究を発表できるという優れた点がこのクラスにはあります」と語っています。

研究に参加したSETIコースの大学院生Macy Hustonさんは、同コースの後輩によって信号の捜索が拡大されることを期待しています。想定される通信装置の位置を増やしたり、幅広い周波数帯を対象とした継続的な観測を行ったりすることで、もしかしたら将来何らかの成果が得られるかもしれません。

 

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Source

Image Credit: Dani Zemba / Penn State ペンシルベニア州立大学 - Could we eavesdrop on communications that pass through our solar system? Tusay et al. - A Search for Radio Technosignatures at the Solar Gravitational Lens Targeting Alpha Centauri (arXiv)

文/松村武宏