高額放送権はDAZN(ダゾーン)が獲得

2021年9月に始まったサッカーの2022年ワールドカップ(W杯)カタール大会のアジア最終予選で異変が起こっているのは、日本代表の戦いぶりだけではない。かつての日本代表戦は人気絶頂の時代、テレビの高視聴率を稼ぐキラーコンテンツだったが、アウェー戦のテレビ地上波中継がお茶の間から消えた。

その理由は高騰した放送権を、有料のスポーツ映像配信サービス「DAZN」(ダゾーン=本社・ロンドン)が獲得したことにある。国民の誰もが無料で視聴できるテレビの地上波放送はホーム戦のみの放送権を獲得したが、アウェー戦は中継できない。11月11日、ハノイで行われたベトナム代表とのアジア最終予選B組第5戦も地上波の中継はなかった。

アジア最終予選で序盤から苦戦する日本はベトナムに1―0で辛勝し、3勝2敗の勝ち点9に伸ばした。10月のオーストラリア戦に続く2連勝で波に乗りたいところだが、11月16日のオマーン戦もアウェーのため地上波での放送はない。

1998年のフランス大会から6大会連続でW杯に出場を続けている日本はこれまで、W杯出場の瞬間はすべて地上波で放送されてきた。ただ今回は日本代表が本大会出場を決める歓喜の瞬間をDAZNでしか見ることができない可能性も出ている。

巨額放送権は5倍に?

ではなぜ、地上波中継が当たり前だった日本代表戦が一部有料でしか見られなくなったのか。その背景には複雑な要素が絡み合う。

DAZNが日本で一躍有名となったのは2017年、Jリーグと10年間で2100億円の大型放映権契約を結んだ時だろう。巨額の契約はJリーグの歴史を変え「黒船」と呼ぶ人もいた。今回のW杯予選で放送権を管理するのはアジア・サッカー連盟(AFC)。契約金が跳ね上がる異変をもたらしたのは、2021年から2028年までAFCと大型契約を結んだ代理店、フットボール・マーケティング・アジア(FMA)だった。

香港に本社を置く同社は中国サッカー界の「爆買いブーム」にも乗り、8年で2000億円超ともされる高額値段を設定した。以前のテレビ朝日はアジア・カップなども含め4年推定200億円の契約だったことを踏まえると、金額は従来の約5倍に高騰した計算になる。

そんな右肩上がりだった中国経済に加え、2020年には世界中で新型コロナウイルスが大流行。日本国内での放映権の販売は電通がFMAと契約して請け負ったが、高騰する放映権に日本のテレビ局は手を出せない状況になってしまった。

2021年8月19日、DAZN(ダゾーン)はAFCと2028年までの長期契約を結び、W杯予選のほかアジア・カップやアジア・チャンピオンズリーグ(ACL)なども含めてW杯アジア最終予選の放送権獲得を発表した。

「絶対に負けられない戦い」を大々的に放送してきたテレビ朝日は“バラ売り”契約で、高視聴率が望める時間帯に行われるホーム戦のみを購入した。

「ドーハの悲劇」視聴率は48%前後

日本サッカー協会は「日本代表戦は誰もが視聴できる環境を」との立場を強調している。英国でも「スポーツを公共財」と位置付け、国民の関心が高い大会や試合を有料放送で独占中継することを認めていない。五輪やサッカーW杯、テニスのウィンブルドン選手権決勝などの注目イベントは公共のBBC放送など地上波で生中継されている。

「ドーハの悲劇」と語り継がれる1993年の米国大会予選イラク戦、マレーシアでW杯初出場を決め「ジョホールバルの歓喜」と呼ばれた1997年のフランス大会予選イラン戦は、ともに視聴率48%前後。お茶の間での一喜一憂は国民的な体験として残った。

日本協会にとって日本代表戦は4年に一度の「ドル箱」でもあったわけだが、地上波がなくなれば、代表戦に触れる機会が少なくなるのは必至。DAZNの契約者数は公にされていないが、日本国内では視聴者も限定されているのが現実だ。

一方で、Jリーグは2020年8月、DAZN(ダゾーン)と結んでいた10年総額約2100億円の大型放送権契約を2年延長した。2017年から2026年の期間が2028年までとなり、12年総額は約2239億円。有料のDAZNは映像出力機器やアプリを利用すれば、お茶の間で地上波と変わらない条件で視聴可能で「新たな時代」と現実を直視する関係者もいる。

W杯を主催する国際サッカー連盟(FIFA)やアジア最終予選を管理するAFCとしては、地上波だけでなくDAZNなどの配信サービスにも放送権を売れば収入も増える。スポーツはもちろん、映画や音楽などのエンタメ界でも各コンテンツが有料化となる流れは止まらない。

家族全員で無料の地上波中継を見ながらサッカー日本代表を応援する姿は理想的だが、現代の「スマホ世代」がテレビをあまり見ない現実を考えれば、テレビ放送権の在り方を考える時代に来ているのかもしれない。

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