米英豪カナダは人権問題に抗議、日本も閣僚派遣せず

来年2〜3月に中国で開かれる北京冬季五輪・パラリンピックを巡り、開会式などに首相や大統領など政府を代表する首脳を出席させない「外交ボイコット」が相次いでいる。

米国のバイデン政権が中国の新疆ウイグル自治区などでの人権問題に抗議し、12月6日に外交ボイコットを正式に表明すると、同盟国の英国やカナダ、オーストラリアが次々と追随した。

日本もぎりぎりの対応を迫られており、閣僚ら政府高官を派遣せず、東京五輪・パラリンピック組織委員会会長の橋本聖子参院議員らの出席にとどめる案を検討している。岸田文雄首相も「私自身の参加は予定していない」と述べた。

いずれの国も選手団は通常通り参加するが、中国側はこうした動きに対抗措置も含めて強硬に反発。一方でフランスのマクロン大統領は「五輪の政治化」に反対の立場で、外交ボイコットについて「小さく象徴的」な効果しか持たないとの認識を示した。

ロシアのプーチン大統領は北京五輪の開会式に出席すると表明し、中国やロシアを専制主義国家とみなす米国などに協調して対抗する狙いだ。五輪を舞台にした政治の駆け引きは水面下で早くも活発化している。

IOCは中国に配慮、沈静化に躍起

国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長は「中立的な立場」を強調しながら沈静化に躍起だ。

米政権の外交ボイコット表明を受けて「政府関係者や外交官の出席は各政府の純粋な政治的決定であり、政治的に中立なIOCはこれを全面的に尊重する」との声明を発表したが、五輪開催や選手団参加の是非に政治が踏み込まなかった点は「歓迎する」と付け加えた。

ここにある意味、安堵した本音がのぞく。選手団さえ参加すれば、大会には支障がなく、巨大利権がうごめくビジネスも成立するからだ。

人権問題はIOCにとっても頭痛の種。各国の動きに神経をとがらせる開催国の中国にも配慮しつつ、SNS時代で発信力のあるアスリートの声が大きくなることを恐れているというのがむしろ現状だろう。

東西冷戦期の1980年モスクワ五輪では、ソ連のアフガニスタン侵攻に対する制裁で日米など西側諸国が選手団をボイコットした歴史がある。

1984年ロサンゼルス五輪はソ連をはじめ共産圏の国々がその報復で不参加を決めた。しかし政治的な果実を得ることはなく、選手が犠牲になった。バッハ会長もフェンシングの選手時代に「幻のモスクワ五輪」で苦い経験をした一人だ。

IOCは12月11日、主要な国際競技連盟(IF)の会長らスポーツ界の首脳を集めた五輪サミットで「五輪とスポーツの政治化に断固として反対する」との共同宣言をまとめている。

「同調ドミノ」は不透明、IOCのジレンマ

五輪憲章は「いかなる種類の差別」も認めていない。しかしIOCのバッハ会長はあえて人権問題に踏み込まず「政治システムを変革するような力は持っていない」と地元ドイツメディアに語るなど、中国と欧米との対立と距離を置く姿勢に徹している。

中国の元副首相に性的関係を強要されたと告白した同国テニス選手、彭帥さんの問題を巡っても2度のビデオ通話で安全を確認したとアピールしながら「何世代にもわたって政治家が解決してこなかった問題を五輪は解決できない」と説明し、スポーツと政治の切り離しに懸命だ。

特に近年は冬季五輪を巡って巨額の開催コストを負担する招致に手を挙げる国が減少傾向にあり、2022年開催地に最終的に残ったのは北京とアルマトイ(カザフスタン)の2候補のみだった。IOCは「五輪開催のためには人権や強権政治などの問題に現実から目をそらさざるを得ない」(関係者)というジレンマを抱えている。

外交ボイコットの「同調ドミノ」が今後も起きるかどうかは不透明だ。バッハ会長はドイツ公共放送ZDFに「ほとんどの国がボイコットには追随しないだろう。90の各国・地域の国内オリンピック委員会(NOC)が北京五輪に参加するとして、70または80を超えるNOCの政府は外交ボイコットを表明していない」との楽観的な見方も示した。

新型コロナウイルスの新変異株「オミクロン」に加え、外交ボイコットの場外戦で白熱する北京冬季五輪。もちろん主役は世界各国のアスリートとはいえ、米中間で微妙なバランスを求められる日本政府の動きも含め、政治と五輪の線引きが改めて問われる異例の「平和の祭典」になりそうだ。

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