すべて完璧だった池添謙一騎手

様々な臨戦過程を経てここに集結したメンバーは横の比較が難しく、傑出馬不在の大混戦。前走成績がよくても人気を落とす、いわゆる死角に入る馬も多く、馬券検討のしがいのある一戦も、終わってみれば昨年のNHKマイルC1、2着が入れ替わった形で決着。考えすぎた方も多かったのではないか。

21年NHKマイルC、取材で検量室前にいたときに目撃した光景を思い出す。2着に敗れたソングラインと池添謙一騎手は勝ったシュネルマイスターより先に戻ってきた。2着馬のスペース近くで待っていた藤沢和雄調教師(当時)が、「(ハナ差は)なんとかならんかったのか」と声をかけ、池添騎手が思わず馬上で天を仰ぐ場面があった。

昨年のNHKマイルCはレースの前後半800mは45.3-46.3。最後の直線で抜け出したソングラインは手前を替えられず、苦しくなり、内にモタれ、そこをシュネルマイスターにハナ差交わされた。そのわずかな動きを池添騎手は悔やんだにちがいない。それから約1年。同じ東京マイルでシュネルマイスターをクビ差しのいだ。その間、サウジ遠征以外はすべて手綱を任されており、陣営の信頼に対する責任感の強さとソングラインを信頼しきった騎乗は池添騎手らしかった。

馬場状態を見極め、外枠を利用し、下げすぎないように馬群に入らない形を作り、2着サリオスの背後をとる。ここでひと呼吸置きつつ、勝負所は外目を進出。距離ロスを厭わず、不利がないように、伸び伸びと走らせようという意図は、ソングラインがどのぐらい脚を使えるか分かっていなければできない。

レースの前後半800m46.7-45.6は安田記念としては遅い類の流れ。当然、追走はみんな楽で、馬群は密集。2着シュネルマイスターが直線での進路どりに労したのとは対照的だった。レース上がり33.6、ソングラインの繰り出した末脚は32.9でシュネルマイスターと同タイム。クビ差は進路の差であり、池添騎手の好判断が導いた勝利といっていい。

一方でヴィクトリアマイルから安田記念というローテでの勝利は08、09年ウオッカ以来。同条件への連続出走は2着が多いローテ。それもヴィクトリアマイル3着以下から勝ったのはソングラインが初。中2週で牝馬を立て直すのはデータの通り簡単ではない。これがGⅠ初制覇の林徹厩舎の手腕も光った。サウジ遠征からヴィクトリアマイル、そして安田記念という歩みでGⅠ初制覇を達成したのだから、素晴らしいの一言。林調教師は開業5年目、池添騎手とは同じ79年生まれの同級生。その仕事ぶりに今後も注目していきたい。

秋の逆転へ! 期待膨らむセリフォス

結果的に掲示板にのった5頭はすべてマイルGⅠ・2着以内の経験があった馬たち。スプリンターのスピードや中距離型の緩急ではなく、マイル経験がカギを握ったレースだった。好発レシステンシアはあえて下げる作戦を選択、先手を奪ったホウオウアマゾンは前走マイラーズCでベステンダンクの大逃げを番手から2着に粘った。不要に飛ばすことはない。

12.2-11.0-11.5-12.0と先手を奪ってから向正面で徐々にラップは下降。12.0-11.2-11.0-11.4と3、4コーナーでためを作る流れ。スプリンターはこの地点でリズムが乱れた。ここから11.2と一気に加速、最後まで11秒台前半を維持する流れ。ラスト200mが11秒台後半まで落ちてくれれば、中距離型はスタミナを生かせたはずだ。ここを11.4で踏ん張れるのがマイラー。一旦先頭の6着ダノンザキッドは最後に苦しくなった。本質はマイルより中距離タイプではないか。

そういった意味で3着サリオスは意外だった。皐月賞、日本ダービーでコントレイルの2着があり、中距離志向。2歳時こそ結果を出したものの、マイルは合わない印象もあった。東京の良馬場、極端に速くない流れ、今回で【1-3-1-0】と好相性のレーン騎手起用と条件が重なった部分もある。今回3着でマイル路線ベストと判断するのは早計かもしれない。最適条件は東京の中距離ではないか。

2着シュネルマイスターは直線で前が壁になり、追い出しを待たされる場面もあった。抜け出してからの末脚はさすがグランアレグリアに迫った実力馬。ソングラインとは通ったコースの差。今回、ドバイ遠征後の難しい臨戦過程を考えれば、この2着で秋のタイトルは確信できる。

4着は3歳セリフォス。ダイワメジャー産駒らしからぬ末脚は鋭さを増しつつある。今回は緩めの流れで、最後まできっちり走れる瞬発力が問われるレース。ともすると合わないと考えられていた条件で外から伸びてきた。斤量のアドバンテージもあったが、上がり32.8はソングライン、シュネルマイスターを上回った。こちらも秋は得意な阪神が舞台、楽しみだ。

4連勝で挑戦した2頭。イルーシヴパンサー8着、ソウルラッシュは13着に終わった。イルーシヴパンサーは遅めの流れを後方待機策から上がり最速32.6。物理的に厳しく、最後は進路もなく、広いところに持ち出せなかった。結果的に上位馬が抜け出した後を追うしかなかった。

イルーシヴパンサーの目の前にいたソウルラッシュは、さらに進路が厳しかった。外に出すタイミングもなく、完敗といった印象。連勝のうち3勝は良馬場以外だったこともあり、スピードが試される良馬場の東京マイルは条件も合わなかった。もう少し時計を要する流れで見直したい。


2022年安田記念回顧展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。共著『競馬 伝説の名勝負』シリーズ全4作(星海社新書)。

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