阪神芝2200mだからこその競馬

阪神に代替された3年間、エリザベス女王杯はすべて8枠の馬が勝利した。これは同舞台宝塚記念で8枠が強いというデータに一致する。阪神芝2200mのエリザベス女王杯は昨年までの2年間、最初の600m34.9、34.1。その前の2年間(京都)は36.4、37.6。同じ芝2200mでも阪神と京都ではレースの入り方が異なる。外回り、内回りや急坂の存在以上に、序盤の流れが京都と阪神では別の適性といっていいほど開きがある。宝塚記念も直近2年の同区間は35.1、33.9。今年は異次元としても、宝塚記念も34秒台で突っ込んで入ることが多い。

阪神芝2200mはスタートから外回りの直線を一杯に使うため、1コーナーまでの距離が長く、その1コーナー入り口も半径が小さく、キツい。このため、ある程度スピードに乗った状態でコーナーに進入、ブレーキがかかりにくい。陸上のマラソンレースで序盤から突っ込んで入ることは滅多になく、大会主催者はペースメーカーを用意し、走破タイムを調整するぐらい。これは突っ込んで入れば、スタミナに響くからだ。

当然、日本の競馬にペースメーカーはいない。自然と突っ込んで入る阪神芝2200mは勝負所でのスタミナの有無を問う。ましてGⅠ、まして重馬場。今年の序盤600m35.3は馬場状態を差し引けば、良馬場の34秒台に相当する。今年もスタミナを問う競馬になった。そして8枠は自然と速くなる序盤の攻防からすり抜けるために都合がいい。内枠はせっかちな序盤に巻き込まれ、脚を使わされる心配がある。序盤の急流をすり抜けようと無理に引っ張れば、位置が下がりすぎてしまう。

完璧だったジェラルディーナの序盤

ジェラルディーナはオールカマーから連勝でGⅠ制覇を成し遂げた。スタートで位置をとり、1周目のゴール板手前までさっと抑えにかかり、外目で先行争いをやり過ごし、1コーナー手前でテルツェットの真後ろに入る。理想的な運びといっていい。外を走りすぎれば、前に壁がなく、急なコーナーでジェラルディーナのスイッチが入る可能性があり、単純に距離ロスも大きい。1コーナーまでに壁をつくり、最初の直線部分だけ大外に。クリスチャン・デムーロ騎手の完璧なエスコートにジェラルディーナも惚れたにちがいない。

レースは前半1000m1.00.3、このうち2コーナー付近600〜800m12.6が道中でもっとも遅いラップで、向正面に入ると12.4-12.3-12.2とじわじわと加速。ローザノワールの流れは予想外のダッシュ力で2番手をとったマジカルラグーンが追いかけたこともあり、休むところなし。3コーナー付近から11.8-11.9。直線までに脚を使い切った馬が多かった。

ジェラルディーナは前のテルツェットにつられず、ひと呼吸おいた仕掛けも好判断だったが、道悪の消耗戦への対応力は血統が持つ力でもあった。道悪になればロベルト。ブライアンズタイム全盛期にはよく聞いた格言が甦る。現代の主流ロベルト血統といえばグラスワンダー、スクリーンヒーロー、モーリス。ジェラルディーナはジェンティルドンナの娘といったイメージが全面にあるが、今回、道悪になったことでモーリスが伝えるロベルトの底力が頭をもたげた。

躍動したグランプリ血脈

3代父グラスワンダーはグランプリ3勝。2着同着ウインマリリンはその子どもスクリーンヒーロー産駒。このウインマリリンは序盤から先行争いに入り、勝負所では先に動いた。厳しいラップの只中にずっと身を置きながら、追い込んだライラックと同着に持ち込んだ。もっとも我慢強い競馬だったといっていい。これもロベルトのなせる業だろう。

モーリスの初年度産駒ピクシーナイトがすでに父系4代GⅠ制覇という偉業を達成したが、グラスワンダーの血統はGⅠの大舞台に滅法強い。そこにジェンティルドンナが加わるジェラルディーナは阪神JF以来2度目の挑戦でGⅠ奪取。道悪になり、ロベルトの血もその背中を押した。今後は母と同じく底力を問う牡馬相手の舞台でも活躍を期待したい。たとえスピード重視の前哨戦を落としても気にしない。いや、若いうちは失敗も多い晩成モーリスの血が開花したとなると、手がつけられないかもしれない。

2着同着ライラックは前回と同じく内回りでも追い込みにかけた作戦が当たった。周囲の脚があがっていた分、その迫力は余計に凄まじかった。父オルフェーヴルも宝塚記念V、有馬記念2勝。兄ドリームジャーニーは09年春秋グランプリ制覇のグランプリ血統。序盤突っ込んで入り、後半スタミナを問う阪神芝2200mはステイゴールド系の得意舞台でもある。

連覇を目指した4着アカイイトは11番人気。これに反発するかのような好走だった。とはいえ、ドン尻から直線に賭け、勝負圏内に入れたわけではなく、ややパフォーマンスを落としたのは事実。もっと最後に時計を要する厳しい流れが向く。

2022年エリザベス女王杯のレース展開,ⒸSPAIA



ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』(星海社新書)に寄稿。



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