レモンポップが引き出したスローペース

武蔵野Sはどちらかといえば翌年フェブラリーSへ向けて賞金加算したい組が集う。JRA最初のGⅠでもあり、フェブラリーSは例年ダート戦線のトップどころが一堂に介する。サウジアラビアにビッグレースが創設された分、いくらかそちらに向かう馬もいるものの、フェブラリーS出走ボーダーラインが高いことに変わりない。東京ダートを得意とする馬にとって2月は最大目標。その賞金加算の舞台は武蔵野Sと根岸S。できれば早めに賞金を積んでおきたい。

今年の中心は東京ダート1400mで4連勝、満を持して重賞の舞台に顔を出したレモンポップ。ここまで8戦6勝2着2回、東京ダートで全6勝。2着以下なし。1600mは2歳カトレアS1着以来も、その記録は良馬場で1.36.4。ルヴァンスレーヴが不良馬場でマークしたレコードに0.2差であり、破格の時計録。陣営がここまでレースを選び、大事に育てたレモンポップの重賞挑戦をファンは単勝オッズ1.7倍、圧倒的1番人気であと押しした。

レモンポップは好位から上がり最速の末脚で抜け出す形。ここまでは適性と性能の差で押し切ってきた。当然、ここも目標になり、レースの中心はレモンポップだった。対してレモンポップより前で運びたかったのがバスラットレオン。ゴドルフィンと似た勝負服だが、こちらは緑一本輪の広尾レース。ダートは3月ゴドルフィンマイル1着以来。JRAダートは昨年の武蔵野S13着。このときは3番手からの競馬。ゴドルフィンマイルで披露した逃げがベスト。当然、ここも逃げてレモンポップを封じたい。

バスラットレオンの逃げに対し、レモンポップは3番手追走、先頭へのプレッシャーより後方の警戒に徹する立ち回り。バスラットレオンは飛ばさずに2番手以降を離す、理想的な形に収まり、前半800mは48.0。武蔵野Sは例年前半800m46秒台が多く、今回は重賞としてはスローペースに近い。実際、2番手以下は大きな集団のまま進み、道中で揉まれた馬も多かった。

武蔵野SとフェブラリーSの違い

こうなれば基本は先行勢の流れ。レモンポップの思惑通り、後ろが差しにくい展開になった。マークされる立場ながらレースを支配できる、レモンポップの強さはここにある。後半800mは47.6で最後の600mは11.4-11.6-12.5。芝実績があるバスラットレオンはダートでも芝同様のラップを刻める強みを見せた。レモンポップはバスラットレオンを捕まえれば勝ち。のはずだった。ここまではバスラットレオンを利用したレモンポップの見事な競馬だったが、ゴール板でギルデッドミラーに捕まった。道中はレモンポップの真後ろに潜み、完全に目標にしていた。

ギルデッドミラーもまた芝でキャリアを重ね、ダートに矛先を変え開花した。芝では重賞2着2回3着2回であと一歩足りなかったが、ダート転向で最後の甘さを解消。最後600m35.5はギルデッドミラーにとって走りやすいラップでもあった。とはいえ、後脚で推進力を作る芝と前脚のかきこむ力を使うダートで相互に渡り合うのは容易ではない。レースを作ったバスラットレオン、支配したレモンポップ、勝ったギルデッドミラー。1、3着が芝・ダート兼用だったのは後半が速くなるラップ構成ゆえ。最後600mから200m11.4-11.6。ダート専用の馬にとってこれを上回る末脚を繰り出すのは難しい。ダートを主戦場にする差し馬は4着スマッシングハーツ以下にズラリと並んだ。今回は特殊な競馬だったと割り切ろう。

今年は例年と異なるラップ構成だったことを忘れてはいけない。武蔵野Sと同じくフェブラリーSも前半800m46秒台が定番。昨年前後半800m46.5-47.9、1.34.4、今年前後半800m46.8-47.0、1.33.8。前半は今回よりはるかに速く、後半は今回と同程度にまとまり、全体時計が速い。今回の武蔵野Sがつながるかどうかは疑問。もしギルデッドミラー、レモンポップ、バスラットレオンがフェブラリーSに出走した場合、今回よりさらに上積みがほしい。

2022年武蔵野S回顧展開,ⒸSPAIA


ライタープロフィール
勝木 淳
競馬ライター。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュース個人オーサーを務める。新刊『テイエムオペラオー伝説 世紀末覇王とライバルたち』(星海社新書)に寄稿。

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