「昨年最も逃げ切りが多かった騎手」は?

スタートから先頭に立ち、レースを支配する「逃げ」という作戦。統計上は最も勝率が高い戦法でありながら、同様の策を狙う他の人馬との兼ね合いや道中のペースメイクなど、一筋縄ではいかない部分もある。

さて、逃げ戦法での勝利、いわゆる「逃げ切り」が昨年最も多かった騎手をご存知だろうか。今回は2023年のJRA平地競走のデータを対象に「逃げ限定リーディング」を調査。逃げ切りの回数をランキング化した。

栄えある1位は……

「逃げ」での勝利数上位騎手,ⒸSPAIA


栄えある「逃げリーディングジョッキー」に輝いたのは坂井瑠星騎手。昨年の逃げ勝利数は32勝。年間107勝の約3割を逃げて稼いだことになる。レモンポップとのコンビでマイルチャンピオンシップ南部杯(集計外)を逃げ切り、チャンピオンズCは中京ダ1800mで“鬼門”とされる大外8枠15番から瞬時にハナを奪い、そのまま後続を抑え込んでみせた。

2位は25勝の松山弘平騎手。中京記念で8番人気セルバーグに騎乗して、道中に11秒台前半〜中盤のラップを5区間並べる締まった逃げで後続の脚を削ぎ、鮮やかに押し切った。ただし、重賞で逃げたのはこれとアーリントンC(ユリーシャ)の2回だけ。逃げ戦法の大半は下級条件でのものだ。

3位は23勝の横山武史騎手。昨年だと札幌2歳Sをセットアップで逃げ切った。ちなみに、昨年の横山武騎手は1700m以下で67勝に対し、1800m以上では59勝。これが「逃げ」に限定すると1700m以下8勝、1800m以上15勝と逆転する。中長距離戦での逃げが得意パターンと言えそうだ。

4位は21勝のC.ルメール騎手。年間165勝との比率でいえばそこまで多くないが、ルメール騎手の場合は“量より質”。芝レースで逃げた時は複勝率82.8%という異次元の数字を残している。また「逃げ切り」ではないが、菊花賞(ドゥレッツァ)で見せた「大外枠からハナに立ち、一度控えてまた差す」というレース運びは衝撃的だった。

5位は18勝の武豊騎手。重賞でも3つの逃げ切りがあった。チューリップ賞(モズメイメイ)は前後半35.2-34.1の楽なペースに持ち込んでコナコーストの猛追をハナ差しのぎ切り、大阪杯のジャックドールでは残り1200mから11.4-11.7-11.5-11.4-11.4-12.5と後続に脚を使わせて、これもハナ差勝ち。モズメイメイに再び騎乗した葵Sでは「超」のつくロケットスタートを決めて他馬を完封した。

「逃げ」に積極的⇔消極的な5名

ここで素朴な疑問が浮かぶ。「逃げ切りが多い騎手」は分かったが、勝ち負け問わず「よく逃げる騎手」は誰なのか。あるいは「めったに逃げない騎手」も、馬券検討のために把握しておきたいものだ。この点について追加調査する。

なお、調べてみるとリーディング下位の騎手には「逃げられる馬にほぼ乗っていない」というケースがしばしば見られた。そのため、ここからはリーディング50位以内の騎手を対象とする。

「逃げ」の割合が多い騎手と少ない騎手,ⒸSPAIA


騎乗数に占める「逃げ」の割合が高かった上位5名は、坂井瑠星騎手(13.4%)、武豊騎手(12.7%)、古川奈穂騎手(12.4%)、三浦皇成騎手(11.9%)、池添謙一騎手(11.5%)。最多勝の坂井騎手は、「逃げ」を選択する割合そのものもトップだった。

3位に古川奈騎手が入っていることも注目に値する。坂井騎手と同じ矢作芳人厩舎の所属だからだ。矢作厩舎といえばパンサラッサやバスラットレオン、ユニコーンライオンらを手掛ける「逃げ馬の名門」という顔も持つ。所属騎手にも逃げ戦法の有用性を説き、積極性を求めているのかもしれない。

反対に「逃げ割合」下位の5名は、内田博幸騎手(4.8%)、川田将雅騎手(4.6%)、大野拓弥騎手(4.1%)、戸崎圭太騎手(4.0%)、北村宏司騎手(3.9%)という顔ぶれだった。関東の中堅〜ベテラン騎手4名がここに偏った。

ひと口に「逃げない騎手」といっても、川田騎手の場合は逃げた時の勝率が47.8%。自身の勝率30.5%と比べてもハッキリ高い。めったに逃げないが、「逃げ」が苦手なわけではない。

一方、こちらもリーディング上位の戸崎騎手は逃げた際の勝率が16.1%で、自身の勝率14.4%からほとんど上がらない。冒頭に述べた通り、統計上「逃げ」の勝率はそれ以外の脚質より大幅に上がるのが普通。したがって戸崎騎手は「逃げ」があまり得意ではなく、それゆえ逃げ戦法をほぼとらないのでは、と考察できる。

「逃げ」に積極的かつ得意な坂井騎手や武騎手、積極的ではないが得意な川田騎手、苦手だがそれを踏まえてか選択しない戸崎騎手。トップジョッキーの中でも「逃げ」に対するスタンスには興味深い温度差が見られた。

「逃げ」の騎手リーディングのインフォグラフィック(2023年JRA平地競走のみ),ⒸSPAIA


<ライタープロフィール>
鈴木ユウヤ
東京大学卒業後、編集者を経てライターとして独立。中央競馬と南関東競馬をとことん楽しむために日夜研究し、X(Twitter)やブログで発信している。好きな馬はショウナンマイティとヒガシウィルウィン。

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