東京・上野公園の国立科学博物館で10月21日に開幕した『古代アンデス文明展』。2018年2月18日(日)まで開催される本展は、1989年から進められてきた「TBSアンデス・プロジェクト」の集大成と銘打たれた一大イベントだ。中央アンデス地域に人類が至った時代から、1533年にインカ帝国が滅亡するまでの約1万5000年の間に興った9つの文明・文化を約200点の展示で時代ごとに辿っていく。開幕に先立って行われたプレスプレビューの様子から本展の見どころを紹介しよう。

古代アンデス文明の9つの文化を一気に辿る

古代アンデス文明が興った地域は、アンデス山脈を中心とした南米大陸北西部の南北4000kmにわたる。アンデス文明というと、日本人にとってはペルーのマチュピチュ、ひいてはインカ帝国に対するイメージがとりわけ強いが、実はインカは古代アンデス文明の中で最後の文化。現在のエクアドルからペルー、ボリビア、そしてチリ北部に至る広大な版図を誇ったインカ帝国だが、その繁栄は15世紀後半から16世紀前半のわずか60年ほどに過ぎない。それ以前には「プレ・インカ」と呼ばれる大小20以上の文化が各地で興っている。

リャマ像が迎えてくれる会場入り口

リャマ像が迎えてくれる会場入り口

「TBSアンデス・プロジェクト」ではこれまで数年ごとに特別展を行ってきたが、今回の『古代アンデス文明展』は古代アンデス文明全体を通覧する集大成的な展覧会だ。カラル、チャビン、ナスカ、モチェ、ティワナク、ワリ、シカン、チムー、インカという9つの文明・文化を取り上げ、複雑な古代アンデスの歴史を時代ごとにわかりやすく紹介している。

まず初めに今回のテーマである9つの文化について映像で紹介。それぞれの文化が興った時代や地域を把握しておきたい

まず初めに今回のテーマである9つの文化について映像で紹介。それぞれの文化が興った時代や地域を把握しておきたい

ひとまとめに古代アンデス文明といえど、各文化は海抜0メートルの場所から標高3000メートル以上にある複雑な自然環境の中で独自の様式を築いている。会場ではまず初めに古代アンデス文明が興った時代と場所を映像で見た後、各々の文化を時代順に追っていく。

《未焼成の小型男性人像》 レプリカ  先土器時代後期(紀元前3000〜前1500年頃)ペルー文化省・カラル考古学地区コレクション所蔵

《未焼成の小型男性人像》 レプリカ 先土器時代後期(紀元前3000〜前1500年頃)ペルー文化省・カラル考古学地区コレクション所蔵

《テノンヘッド》  チャビン文化(紀元前1300年頃〜前500年頃)ペルー文化省・国立チャビン博物館所蔵

《テノンヘッド》 チャビン文化(紀元前1300年頃〜前500年頃)ペルー文化省・国立チャビン博物館所蔵

文字を持たない人々の“メッセージ”

序盤の展示はカラル文化、チャビン文化と進んでいくが、その後のモチェ文化の彩色土器は古代アンデスの工芸品の中でも見事な彫刻でよく知られている。古代アンデスの人々は文字を持たなかったが、彼らは自分たちの宗教観や世界観を土器や織物などの立体物の中で表現したという。特に、西暦200年から800年ごろに現在のペルー北海岸で栄えたモチェ文化の土器の装飾はメッセージ性が強く、当時の暮らしや信仰、自然との繋がりを知る資料として貴重だという。

右上/《リャマの背に乗る男をかたどった土器》モチェ文化 ラルコ博物館所蔵 右下/《同じ人物の人生の3つの時期の顔を表現した肖像土器》モチェ文化 ラルコ博物館所蔵 左上/《チチャ造りをする男女を表した鎧型注口土器》モチェ文化 ペルー文化省・国立ブリューニング考古学博物館所蔵 左下/《死んだ男性と生きている女性の性行為を描写した鎧型注口土器》モチェ文化 ラルコ博物館所蔵

右上/《リャマの背に乗る男をかたどった土器》モチェ文化 ラルコ博物館所蔵 右下/《同じ人物の人生の3つの時期の顔を表現した肖像土器》モチェ文化 ラルコ博物館所蔵 左上/《チチャ造りをする男女を表した鎧型注口土器》モチェ文化 ペルー文化省・国立ブリューニング考古学博物館所蔵 左下/《死んだ男性と生きている女性の性行為を描写した鎧型注口土器》モチェ文化 ラルコ博物館所蔵

会場ではモチェの土器として、神様の姿や生命力に満ちた人々の表情を象ったもの、あるいは裸の捕虜の姿など多彩な土器が紹介されている。こうした土器が作られた時代の生活の豊かさが見えてくるようだ。

日本初公開!
ティワナク文化とワリ文化の品々

その後、ナスカ文化の展示に続いて観られるのは、ティワナク文化とワリ文化の遺物だ。どちらの文化も日本に本格的に紹介されるのは初のこと。

《2人の男性の顔が彫られたティワナク様式の石のブロック》 ティワナク文化 国立考古学博物館/ボリビア所蔵

《2人の男性の顔が彫られたティワナク様式の石のブロック》 ティワナク文化 国立考古学博物館/ボリビア所蔵

ティワナクは西暦500年から1100年ごろに栄えた文化。ボリビアの標高3800メートル地点に遺るティワナク遺跡は、ユネスコの世界文化遺産にも登録されている。ティワナク遺跡は石造建築でよく知られ、本展にも石のブロックが来日。祭礼都市としての機能も色濃く、精巧な金銀の彫刻、幾何学的な文様や動物のモチーフなどが描かれた土器も見ものだ。

《多彩色の水筒型壺》2点 ワリ文化 ペルー文化省・国立考古学人類学歴史学博物館

《多彩色の水筒型壺》2点 ワリ文化 ペルー文化省・国立考古学人類学歴史学博物館

一方のワリ文化は、西暦650年から1000年ごろに現在のペルー海岸部で帝国を築いた文化。会場の入り口で迎えてくれるリャマ像もこのワリの時代に作られたものだ。こちらの文化も複雑に織り込まれた不思議な模様のチュニックや、何となくコミカルにも見える独創的文様の土器など見どころが多い。

やっぱり気になる、インカ帝国の文化

過去の多様な文化を吸収しながら、15世紀にアンデス地域一帯を統一したインカ帝国。その都だったクスコにはかつて黄金の神殿や宮殿が建っていたとも伝わるが、スペイン人による征服後、その黄金なども略奪されてしまったため今日まで遺る貴金属の品は数少ない。それゆえにこの会場で観られる注口容器や人物像はとても重要なものだ。また、文字を持たない古代アンデスにおいて重要なコミュニケーションツールとなった「キープ」と呼ばれる紐も見逃せない。

《木製の葬送行列のミニチュア模型》 チムー文化 ペルー文化省・モチェ神殿群博物館所蔵

《木製の葬送行列のミニチュア模型》 チムー文化 ペルー文化省・モチェ神殿群博物館所蔵

《インカ帝国のチャチャポヤス地方で使われたキープ》 インカ文化 ペルー文化省・ミイラ研究所・レイメバンバ博物館所蔵

《インカ帝国のチャチャポヤス地方で使われたキープ》 インカ文化 ペルー文化省・ミイラ研究所・レイメバンバ博物館所蔵

ミイラから読み解く、古代アンデスの死生観


そして最後の第6章で観られるのが古代のミイラだ。ここでは頭蓋骨を人為的に変形させたり、生きたまま穴を開けたりといった頭部への執着を中心に、アンデスの人々の身体観を解説している。

《少女のミイラとその副葬品》 チリバヤ文化 ペルー文化省・ミイラ研究所・チリバヤ博物館所蔵

《少女のミイラとその副葬品》 チリバヤ文化 ペルー文化省・ミイラ研究所・チリバヤ博物館所蔵

右/男児のミイラとその副葬品 チリバヤ文化 ペルー文化省・ミイラ研究所・チリバヤ博物館所所蔵 左/ミイラ ワリ文化 ペルー文化省・国立考古学人類学歴史学博物館所蔵

右/男児のミイラとその副葬品 チリバヤ文化 ペルー文化省・ミイラ研究所・チリバヤ博物館所所蔵 左/ミイラ ワリ文化 ペルー文化省・国立考古学人類学歴史学博物館所蔵

一方でアンデス地域には死者崇拝があり、インカの王様は死後もミイラにされて影響力を持ったと伝えられている。会場ではそうした死生観を伝える3体のミイラを観ることができ、全身をミイラ包みに包まれたままの男児、顔だけむき出しになり穏やかな表情が見られる女児、そして紐を噛みながら苦しい表情にも見えるミイラが副葬品とともに展示されている。

音声ガイドはタッチパネルのビジュアル付きでわかりやすい

音声ガイドはタッチパネルのビジュアル付きでわかりやすい

古代アンデス文明の始まりから終わりまでをギュッと凝縮したチャレンジングな特別展。インカ帝国の名前やマチュピチュの風景は知っていても、なかなか深くまでは知ることのない古代アンデスの歴史だが、ひとつひとつの文化を時系列で追っていくことで理解も深まるはず。この冬科博で、1万5000年の歴史の旅を体験してみてはいかがだろうか。

◆イベント情報

◆古代アンデス文明展   会期:2017年10月21日(土)〜2月18日(日) 会場:国立科学博物館(東京都台東区上野公園7-20) 時間:9:00〜17:00(金・土曜は20:00まで)※入館は各閉館の30分前まで 休館日: 月曜(1月8日・2月12日は開館)、12月28日(木)〜1月1日(月)、1月9日(火) 入場料: 一般・大学生1600円、小学生・中学生・高校生600円