珠玉のフランス絵画コレクションを誇るモスクワのプーシキン美術館。その中から、風景画をテーマに全65点のフランス近代絵画を選りすぐった展覧会『プーシキン美術館展ー旅するフランス風景画』(会期2018年4月14日〜7月8日)が東京都美術館で開催される。来日作品のうち約50点が日本初公開となり、コロー、モネ、ルノワール、セザンヌ、ゴーガン、ルソーなど名だたるフランス画家の作品が集う充実のラインナップだ。

ロシア大使館にて開催されたプレス発表会より、本展覧会の目玉作品、青春期のモネが描いた《草上の昼食》の見どころも交えつつ、展覧会の魅力を紹介しよう。


プーシキン美術館館長 マリーナ・ロシャク氏

プーシキン美術館館長 マリーナ・ロシャク氏

「旅」をキーワードに、近代フランス風景画の変遷をたどる

本展は2部構成から成り、第1部では「風景画の展開 クロード・ロランからバルビゾン派まで」と題し、17世紀から印象派に至るまでの風景画の流れを追う。第2部「印象派以後の風景画」では大都市パリを起点として、パリ近郊、南フランス、海を越えた異国の地など、地理的な広がりも合わせて、風景画の表現の展開を辿っていく。

19世紀半ば、「パリの大改造」により、街の広場や大通りが整備されると、パリの都市風景は大きく変化し、新しい街の見え方に多くの画家が関心を抱いた。さらに、鉄道網の発達により、画家たちは郊外へ取材したり、移住したりすることが可能になった。


ジャン=フランソワ・ラファエリ 《サン=ミシェル大通り》 1890年代
(c)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.

 

東京都美術館学芸員の大橋菜都子氏は、本展のサブタイトルにある「旅」がひとつのキーワードになっているという。

「画家たちにとって、旅がどのような刺激になったのか。旅先で出会った風景がどのように描かれていたのか、画家はどのような眼差しで風景を見ていたのか。そうしたことにも注目しながら、会場の中を旅するように楽しく見てほしい」


アンドレ・ドラン 《港に並ぶヨット》 1905年
(c)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
 
 

18世紀にも「廃墟ブーム」があった!

18世紀の画家ユベール・ロベールが描いた《水に囲まれた神殿》は、古代ギリシャ・ローマ時代の遺跡。神話や聖書など、物語の背景として自然が描かれた17世紀から時を経て、ロベールは廃墟や海景を、当時の人々と一緒に描き込むことで人気を博した。「廃墟のロベール」とまで呼ばれた画家は、自らの想像を加えて、実際の姿よりも崩した姿で建物を描いたそうだ。建築の周りを囲む水辺には、親子や子ども、水中を泳ぐ犬の姿などが丁寧に描かれている。18世紀の廃墟観光の様子が、画面から伝わってくるようだ。


ユベール・ロベール 《水に囲まれた神殿》 1780年代
(c)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
 
 
ユベール・ロベール 《水に囲まれた神殿》部分

ユベール・ロベール 《水に囲まれた神殿》部分

第1章では、何気ない自然や農村の日常に美しさを見出したバルビゾン派のカミーユ・コローの作品や、写実主義のギュスターヴ・クールベが描いた晩年の傑作《山の小屋》も展示される。


ギュスターヴ・クールベ 《山の小屋》 1874年頃
(c)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
 
 

ルノワール、セザンヌ、ゴーガン 巨匠たちが描いた様々な自然の姿

印象派の画家ルノワールが描いたのは、木陰で楽しげに語らう男女の姿。タイトルにある「ムーラン・ド・ラ・ギャレット」は、パリのモンマルトルにあったダンスホールのこと。背景の緑に溶け込むように、人物の様子が優しく描かれている。


ピエール=オーギュスト・ルノワール 《庭にて、ムーラン・ド・ラ・ギャレットの木陰》 1876年
(c)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
 
 

同じく印象派の画家セザンヌは、故郷の南仏エクサンプロヴァンスから見えるサント=ヴィクトワール山を描いた油彩画を、生涯で30点以上も残している。本展では、初期と最晩年に近い年に描いたサント=ヴィクトワール山の作品を2点出展している。丁寧に着彩した様子が伺える初期作品と、まるでモザイク画のような色面が重なる後期の作品を比較しながら見るのも面白いだろう。


ポール・セザンヌ 《サント=ヴィクトワール山、レ・ローヴからの眺め》 1905-06年
(c)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
 
 
 

後期印象派の画家ゴーガンは、1891年に、原始的な暮らしを求めてタヒチ島へ赴いた。《マタモエ、孔雀のいる風景》では異国的なモチーフを散りばめ、鮮やかな色彩と共にタヒチの姿を色彩豊かに描き出した。


ポール・ゴーガン 《マタモエ、孔雀のいる風景》 1892年
(C)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
 
 

謎めいた愛のしるし 「P」が刻まれたモネの《草上の昼食》

1863年、エドゥアール・マネが描いた《草上の昼食》は、現代の女性ヌードを描いたとして、パリの美術界にスキャンダルを引き起こした。その3年後に同じタイトルでモネが描いた《草上の昼食》について、東京大学教授の三浦篤氏は以下のように推測する。


「おそらくモネは、マネの作品に影響を受け、モネバージョンの《草上の昼食》を構想して、1866年のサロン(政府主催の美術展覧会)に出展しようと大作に挑みます。ところがこの大作は未完成に終わり、絵の断片しか残らなかった。プーシキン美術館の有する《草上の昼食》の位置付けは、大作の最終下絵として、下絵に後々手を加えて、最終的に一つの作品として完成させたものだと考えられます」


クロード・モネ 《草上の昼食》 1866年
(c)The Pushkin State Museum of Fine Arts, Moscow.
 
 
オルセー美術館所蔵のモネ《草上の昼食》断片

オルセー美術館所蔵のモネ《草上の昼食》断片

この作品の魅力について、三浦氏は次のように語る。

「女性の着ているドレスは、1860年代のパリのモード雑誌を参考にしたものでしょう。モネが最新流行の服飾に対する興味を示していることがわかります。また、絵の中に描かれた犬は伝統的な狩猟画に出てくるモチーフ。モネが作品の中で、18世紀の狩猟画の系譜を意識していると考えられます」


18世紀の狩猟画

18世紀の狩猟画

さらに、画面右の大木に記された謎のサインについても言及する。

「ハートに矢が刺さっていて、その左上にPの文字が刻まれていることから、恋愛のモチーフが描かれていることがわかる。愛のテーマといえば、18世紀のロココ絵画に親しい主題。Pの正体についてはわかってはいませんが、もしかすると、モネの友人であったピエール=オーギュスト・ルノワールのPかもしれません」

プーシキン美術館所蔵のモネ《草上の昼食》部分

プーシキン美術館所蔵のモネ《草上の昼食》部分

18世紀ロココ絵画との比較

18世紀ロココ絵画との比較

スペシャルサポーターは水谷豊

本展のスペシャルサポーターには、俳優の水谷豊が登場。また、音声ガイドのコラム解説には、ロシア愛好家でもあり、声優の上坂すみれが参加するとのこと。

スペシャルサポーターの水谷豊

スペシャルサポーターの水谷豊

変わりゆく大都市パリの姿や、自然の美しさを瑞々しく描いたフランス画家たちの作品に、ぜひ会いにいってみてはいかがだろうか。

◆イベント情報

プーシキン美術館展ー旅するフランス風景画
 会期:2018年4月14日(土)〜7月8日(日) 休室日:月曜日(4月30日は開室)
 会場:東京都美術館 企画展示室
 開室時間:9:30〜17:30 ※金曜日は20:00まで ※入室は閉室の30分前まで
 観覧料:一般1600(1400)円、大学生・専門学校生1300(1100)円、高校生800(600)円 
     ※()内は前売・団体料金 ※団体割引の対象は20名以上
 公式サイト:http://pushkin2018.jp