美術家やアーティスト、ライターなど、様々な視点からアートを切り取っていくSPICEコラム連載「アートぐらし」。毎回、“アートがすこし身近になる”ようなエッセイや豆知識などをお届けしていきます。
今回は、首都大学東京・助教の日高良祐さんが「隠れた”アートの街”、北千住のおすすめ穴場スポット」について語ってくださっています。

東京北東部に位置する「北千住」。ここ数年は街としての人気が高まっているようで、テレビの街歩き番組などで見聞きしたことがある方も多いのではないでしょうか。また様々な不動産会社から発表される「住みたい街ランキング」で上位を獲得することも、近年では珍しくありません。交通アクセスの良さや今も残る下町らしさが、生活の場としての高評価につながっているそうです。また、2000年代に入ってからは東京電機大学や帝京科学大学など複数の大学が北千住駅周辺に新たなキャンパスを開いており、学生の街としての顔も持つようになっています。盛り上がっていますね。

こうして盛り場としての注目を集めるようになった北千住ですが、実は“アートの街”としての側面も持っていることを知っていましたか? 駅近くには東京藝術大学の一部が進出しているほか、街中には多種多様なアートスペースが分布し、また地域を巻き込んだアートプロジェクトも繰り広げられているんです。今回は、駅から散歩できる範囲を辿りつつ、アートの街としての北千住の一角を紹介していきましょう。

1. 北千住駅西口を出てすぐ、「飲み横」と「古着屋 髭」


北千住駅西口を出てすぐの脇道、通称「飲み横」と呼ばれる路地をたどるところから散歩を始めましょう。自動車がギリギリ通過できる程度の道幅が続く飲み横には、数多くの居酒屋が軒を連ねています。午前中から営業している酒場もあるくらいですが、薄暗くなってからの景色はさしずめ「大人のディズニーランド」といった情景でしょうか。


その飲み横をまっすぐ進んだ中ほどに、「古着屋 髭」は位置しています。のれんの下げられた入り口がお洒落な酒場風ですが、ここはビンテージを扱う古着屋です。東京藝術大学千住校地に通っていた学生時代にDIYで店舗内装を創ったという店主は、長く北千住に住み続けてきた経験もあって、周辺の飲み屋やアートの情報にとても詳しいです。彼に話を聞くために立ち寄ってみるのもよいでしょう。

2. 音楽環境創造科のメインキャンパス「東京藝術大学」


さて、飲み横を抜けた突き当たりを右折すると、「東京藝術大学 千住校地」が目に入ってきます。ここは音楽学部の一部である音楽環境創造科のメインキャンパスで、ポップス音楽やメディアアート作品の制作、音響技術やパフォーミングアーツの研究が行われています。実はここの大学院にわたしは長く在籍しており、音楽や芸術に関する社会学や、地域密着型のアートプロジェクトなどについて学んでいました。北千住の街中いたるところに見え隠れするアート的な活動には、この東京藝術大学千住校地が関連しているものが少なくないのです。

3. 地域アートプロジェクトが運営するアートスペース「仲町の家」


東京藝大の正門を背にすると、ちょうど正面に伸びているのがミリオン通り商店街です。この通りにはかつて「ミリオン座」という映画館があったそうですが、現在はおしゃれなカフェや食事処が点在する商店街になっています。道なりに進んで行くと目に入るのが通称「くろい家」。2016年にはアーティストの大巻伸嗣が、家内部の空間を活用したインスタレーション作品を展示していたスペースでもあります。

そして、ここのすぐ裏手に位置しているのが「仲町の家」です。これは先述した東京藝大の地域アートプロジェクト「音まち 千住の縁」が運営しているアートスペース。アーティストによるレジデンス(滞在制作)やアートプロジェクトの展示会場として不定期に開かれています。直近では、アーティストのアサダワタルが中心となるプロジェクト「千住タウンレーベル」のワークショップも開催されました。制作者だけでなく周辺に住む人々と協力し合いながら創り出される地域アートプロジェクトの拠点として、千住の街に溶け込んでいるんですね。

4.銭湯・ボーリング場跡地とアートスペース「BUoY 北千住アートセンター」


さて、ミリオン通り商店街を進んでいくと墨堤通りに突き当たります。ここを左折してすぐのところにあるのが「BUoY 北千住アートセンター」です。もともとは銭湯とボーリング場が入っていたという巨大なビル内部を改装し、その広い空間を最大限に活用したアートスペースとして運営されています。2017年夏にオープンしたばかりのスペースですが、演劇やダンスの上演を中心として大変活発な運営をおこなっています。音楽イベントや作品展示など、これからさらに活動の幅を広げていく予定とのことなので、目を離せません。


また、BUoYはアートスペースとしての活動だけでなく、「BUoY Café」という名前でのカフェ営業もしています。イベントを見にいくだけではなく、ただ滞在して時間を過ごすこともコンセプトのうち。落ち着いた空間で美味しいコーヒーを飲むことを目的に、ふらっと立ち寄ってみるのもよさそうですね。

5.地域に開かれた気軽なカフェ「SLOW JET COFFEE」


BUoYの入り口を出て墨堤通りを左方向に直進、線路の地下道をくぐって少し歩いた先にあるのが、オープンな雰囲気が心地好い「SLOW JET COFFEE」です。ハンドドリップで淹れるコーヒーやケーキが美味しいのはもちろんなのですが、ここでは写真作品の展示や音楽ライブも時期におうじて開催されているんです。近隣の東京電機大学との関係も深く、大学のモダンジャズクラブによるジャズライブを不定期で聴くこともできます。

6. 藝大生も集まるアートスペース「tochka | 特火点」


最後に手前味噌で申し訳ないのですが、わたしが運営に関わっているアートスペース「tochka | 特火点」も紹介しておきます。SLOW JET COFFEEを背にしてT字交差点を正面方向に歩くと、すぐ左手に見えてくる奇妙なグラフィティが目印です。普段は東京藝術大学の学生やアーティストの住居兼アトリエとして使っていますが、BUoYと連携した演劇プロジェクトや、アートをテーマにしたトークイベントの開催もしています。

北千住を散歩しよう

早足の散歩になってしまいましたが、今をときめく北千住の“アートの街”としての姿を簡単に見てきました。ですが、今回紹介したのは東京藝術大学を中心とした北千住の一角に過ぎません。たとえば駅の反対側、東口方面にも複数のアートスペースが存在していますし、その他の地域にもアトリエや画廊が点在しています。天気の良い週末にでもぜひぜひ北千住を訪れて、ゆっくり歩き回りながらあなたのアートの街を探してみてください。