食いしん坊でおっちょこちょい。やさしくて、仲間思いのクマ。世界一有名なクマ“プーさん”は、作家A.A.ミルンと挿絵画家E.H.シェパードのふたりによって1926年、イギリスで誕生した。ミルンの言葉とシェパードの絵が響き合ってうまれた名作は、90年以上経った今も世界中で幅広い世代の人に愛され続けている。そんなプーさんの誕生の秘密をひもとく展覧会『クマのプーさん展』が、4月27日(土)、大阪・あべのハルカス美術館でスタートした。

本展は、シェパードが鉛筆で描いた原画を世界最大規模で所蔵するイギリスのヴィクトリア・アンド・アルバート博物館(以下、V&A)が企画した「クマのプーさん」展で、母国イギリスとアメリカでの開催を経て来日。今年2月に渋谷・Bunkamura ザ・ミュージアムで行われた東京展は来場者数18万人を突破。東京に続き、大阪で行われる国際巡回展だ。展覧会は原画だけでなく写真や手紙、ぬいぐるみなど貴重な資料を含む200点以上の作品で構成されており、クマのプーさんがうまれた背景を深く知ることができる。V&Aによると、原画は展覧会終了10年間は非公開になることから、日本でこれだけのコレクションが見られるのは、またとないチャンス。プーさんファンには見逃せない展示となっている。

4月26日(金)、一般公開に先がけて開会式と内覧会が行われた。その模様をお届けしよう。

会場エントランス

会場エントランス

◇クマのプーさんの世界の原点を表す貴重な、そして興味深い作品群が会場に並んでいます◇

開会式では、あべのハルカス美術館館長・浅野秀剛氏が挨拶。今月で開館6年目になる同美術館皮切りの展覧会が本展であることを述べ、「今回の展覧会はシェパードさんが描いた挿絵、厳密には挿絵のもとの鉛筆デッサンを中心にした国際巡回展。会場で見ていただくとよくわかるように、鉛筆画の作品は、細やかで複雑なタッチが幾重にも重なりあっています。それをシェパードさんご自身がペンで清書をして印刷されるという流れの最初の部分。クマのプーさんの世界の原点を表す貴重な、そして興味深い作品群が会場に並んでいます。また非常に楽しい会場設営になっておりまして、お子様から大人まで、すべての年代まで楽しめるような構成ですので、ぜひ1人でも多くの方にご覧いただけますようお願い申し上げます」と、本展に対する思いを述べた。

あべのハルカス美術館 浅野秀剛館長

あべのハルカス美術館 浅野秀剛館長

その後、あべのハルカス美術館 名誉館長・蓑豊氏、浅野館長、朝日新聞社企画事業本部 大阪専任本部長・鈴木直哉氏、関西テレビ放送 事業局長・岡崎桂子氏が登壇し、テープカットが行われた。会場には、プーさんが風船を使ってハチミツを探しに行ったことにちなんで、カラフルな風船を持った子供たちも登場し、式典に彩りを添えた。

◇ミルンとシェパードが紡いだプーさんの世界◇

展示風景

展示風景

階段は、お話の中の世界から現実の世界へもどる象徴的な存在

階段は、お話の中の世界から現実の世界へもどる象徴的な存在

続いて展覧会の内容をレポートしよう。本展は全5章で構成されている。第1章は「さて、お話ははじまります」。プーさんがうまれる背景が、ミルン一家の写真やぬいぐるみなどの展示を通して明らかになっている。実は、プーさんはじめ、おなじみのキャラクターであるコブタやトラー、イーヨー、カンガとルーらは、実際にミルンの息子、クリストファー・ロビンが所有していたぬいぐるみがモデル。作者であるミルンはその特徴からどんな性格かどうかをも決めていたため、シェパードが忠実にスケッチしたという。。

展示風景

展示風景

ミルン一家の写真

ミルン一家の写真

プーとクリストファーの出会いは、1921年8月にミルンの妻ダフネがぬいぐるみをプレゼントしたことがキッカケ。お気に入りのプーを、クリストファーは庭の大きなクルミの木に探検に連れていった。ミルンはそんな息子の遊びの様子を観察・想像し、物語を描いていったのだ。

プーさんのモデルとなった2匹のテディベア

プーさんのモデルとなった2匹のテディベア

シェパードもミルンの別荘をよく訪れ、お話の舞台を作り上げていった。プーさんたちが暮らす「百町森(百エーカーの森)」は、ロンドン郊外に今もある「アッシュダウンの森」がモデルになっている。別荘のそばにあったこの森をシェパードは念入りにスケッチし、ミルンと共に地図を作った。

展示風景

展示風景

プーさんといえばすぐ思い浮かぶであろう有名なシーン、「棒投げ遊び」のあの橋も、実在するポージングフォード橋がモデル。アッシュダウンの森を忠実に再現し、数々の冒険や名場面が生み出されていったのだった。

有名な棒投げ橋も再現されている

有名な棒投げ橋も再現されている

第2章「お話は、どうかな?」では、物語の中のキャラクターたちの友情や冒険を、シェパードの鉛筆画やペン画で見つめ直す。初期の頃はぬいぐるみとしての特徴をリアルに描いていたシェパードだが、徐々に簡素に外見を少しずつ変化させていった。直接的な表情よりも、わずかな体の傾きなどで動きや感情を表現する技量の高さは、実に見事だ。

展示風景

展示風景

展示風景

展示風景

また、プーたちが暮らした森の風景が立体的なオブジェで再現されており、遊べる工夫も施されていて、体験型の展示には子供たちだけでなく大人も童心にかえることができる。

展示風景

展示風景

展示風景

展示風景

続く第3章は、「物語る術」。シェパードは書かれた物語を解釈し、生き生きと描く天才的な技量と才能の持ち主だった。ミルンが詳しく説明しない場面でも、シェパードが描く挿絵は読む者の五感を刺激して、お話の雰囲気を作り出した。文章と挿絵が一体となり、プーさんの世界がどのように完成していったのかという過程をたどることができる。

ながいあいだ、三人はだまって、下を流れてゆく川をながめていました 『プー横町にたった家』第6章、 E.H.シェパード、鉛筆画、1928年、ジェームス・デュボース・コレクション©The Shepard Trust

ながいあいだ、三人はだまって、下を流れてゆく川をながめていました 『プー横町にたった家』第6章、 E.H.シェパード、鉛筆画、1928年、ジェームス・デュボース・コレクション©The Shepard Trust

第4章は「プー、本になる」。刊行される頃には広くその存在を知られていたクマのプーさん。5000部発行された初版本は、発売初日に完売、大成功をおさめた。

A.A.ミルンの初版本

A.A.ミルンの初版本

この章では実際にどのような印刷工程で一冊の本が作られているかが、カラー彩色原画や版などの展示を交えて詳しく紹介されている。また、リバイバルや安価なペーパーバックなどの誕生で、さらにプーさんが幅広い世代に浸透していく様子を見てとることができる。

展示風景

展示風景

最後を飾る第5章は「世界中で愛されているクマ」として、現在までの間に世界中でオマージュやコラボレーションされたプーさんの書籍やグッズ、作品が壁一面にずらりと飾られている。

展示風景

展示風景

プーさんの絵本が読めるスペースも設置されている

プーさんの絵本が読めるスペースも設置されている

最後に忘れてはならないのが、公式グッズの愛らしさ。公式図録をはじめ、Tシャツ、ポストカード、キーホルダー、トートバッグなど、カラフルなグッズが並ぶ。ぜひ、プーさんの世界を堪能したあとは、家にもおはなしのかけらを持ち帰ってほしい。

オフィシャルグッズ売り場

オフィシャルグッズ売り場



『クマのプーさん展』はあべのハルカス美術館にて、6月30日(日)まで開催中。

取材・文・撮影=ERI KUBOTA