中村獅童、荒川良々、中村壱太郎ら出演の『オフシアター歌舞伎 女殺油地獄』が、2019年5月11日〜17日に寺田倉庫G1(天王洲)で、また、5月22日〜29日に新宿FACE(歌舞伎町)で上演される。

「オフ・シアター」と銘打つとおり、劇場(theatre)から離れ(off)た環境で、近松門左衛門の名作『女殺油地獄』を上演する。10日には、関係者に向けてゲネプロ(本番さながらの通し稽古)が公開された。ゲネプロ前には、獅童、荒川、壱太郎と、演出の赤堀雅秋が意気込みを語った。

左から、中村壱太郎、荒川良々、中村獅童、赤堀雅秋。『オフシアター歌舞伎 女殺油地獄』ゲネプロ

左から、中村壱太郎、荒川良々、中村獅童、赤堀雅秋。『オフシアター歌舞伎 女殺油地獄』ゲネプロ

一瞬たりとも気が抜けない

会場は、天王洲アイルにある寺田倉庫G1。

建物の外観はコンサートホールのようだが、エレベーターにのった瞬間から、アングラ感が溢れていた。5階に到着すると、その雰囲気はさらに濃厚になる。歌舞伎座に行く機会が多い方ほど「ここで?!」と驚くのではないだろうか。会場の天井を見上げれば、むき出しの配線やダクトホース。無機質な壁と柱に囲まれ、パイプ椅子が並ぶ。

『オフシアター歌舞伎』会場:寺田倉庫G1

『オフシアター歌舞伎』会場:寺田倉庫G1

会見がはじまり、「このような空間で歌舞伎を上演することは長年の夢だった」と切り出したのは獅童だった。

「一瞬たりとも気が抜けません。360度が客席で、大道具もありません。この空間で生きていないと、演技力と一人一人の人物像がお客様からはっきりと見えてしまう」「伝統を守りつつ、古典の新たな可能性に挑戦したい。皆で話し合いながら、今日もぎりぎりまで作り込みました。きっといいものをお見せできるのではないでしょうか」

赤堀も佐藤小兵衛役で出演。穏やかさの中に、凄みを感じさせる。

赤堀も佐藤小兵衛役で出演。穏やかさの中に、凄みを感じさせる。

4月に初音ミクとのコラボ「超歌舞伎」があったことも踏まえ、イレギュラーな公演への挑戦が続いた点については、次のように語った。

「江戸時代、歌舞伎は最先端のものでした。役者として生きているからには、歌舞伎を見たことにない若い人にも振りむいてもらいたい。同じ日本人として『こんな作品があるのか』『みてよかった』と思っていただけるよう、一生懸命やりたいですし、伝統を守りつつ革新を追求するのが、自分らしい生き方なのではと思います」

荒川は一本調子で「中村獅童を食うつもりで挑みます」と語り、笑いを誘った。壱太郎は会場を見回しながら「この空間が特異なので、この舞台で、女方としてどういるか調整していきたい」と答えた。赤堀は、「歌舞伎というものを、いままで観たことない人たちにも、語弊はありますがカジュアルに観ていただくきっかけになれば」と呼びかけた。


記者から「派手なシーンや見どころは?」と聞かれると、「何もありませんよ」と落ち着いたトーンでコメント。思わず荒川が「全部です!」とフォロー。その後、獅童が「気をてらったことはしません。見ている方が、芝居を観劇してるというよりも、いつのまにか江戸時代にタイムスリップして、事件を目撃してしまったというような空気感になれば」と続けた。

最後に、本公演を自身の子どもにみせたいか聞かれると、質問にかぶせるように「子どもが見るものじゃありません。みせたくありません。大人が観るものです」と即答。一同の笑いを誘った。

以下、ゲネプロの模様をレポートする。※一部、演出に関するネタバレを含みます。

行き場を失う与兵衛を360度から目撃する


四方を客席で囲まれた舞台は、全体が布で覆われていた。ステージ西側には黒御簾と通路。コンクリート空間の特質だろうか、客入れのお囃子(着到)がいつになく荒々しく響いて聞こえる。開演が近づくと、幕にノイジーな映像が投影されはじめた。金属音にも獣の悲鳴にも聞こえる金属音、デジタル音や英語のスピーチをミックスしたサウンドが流れ、見るものの心をざわつかせる。

原作『女殺油地獄』は、300年前に実際に起きた事件をもとに、近松門左衛門が創作したものだ。主人公は、油問屋「河内屋」の次男、与兵衛(中村獅童)。借金も喧嘩も厭わない。


しかし与兵衛は、豪胆な男というわけではないようだ。酒場で借金取りに出くわした時の態度からは、与兵衛が小心者で、見栄っ張りで、調子が良いというよりは、短絡的な男だとうかがい知ることができる。

喧嘩の拍子に、通りかかった侍に泥をかけてしまう。その侍は、叔父の森右衛門だった。手討ちにすると言われ困り果てる与兵衛。さらに借金の返済期限も迫っている。親からお金を巻き上げようとし、思うようにいかず、ついには手をあげ、勘当されてしまう。そして旧知のお吉のところに、助けを求めに行くのだった。


300年前の事件の生々しさが蘇る

獅童が演じる与兵衛が、どうしようもなく情けない顔をしたとき、ふと、守ってやらねばならない駄々っ子のようにみえる瞬間があった。鬼畜と言って差し障りない放蕩息子を、両親が見放さず、お吉がつい世話を焼いてしまった理由が、そこにあるのだとしたら…。そんな思いがよぎり、300年前の悲劇の一端にふれた気がしてゾッとした。


壱太郎は、面倒見の良い豊嶋屋(荒川良々)の妻・お吉と、若い芸者・小菊、カラーの異なる2役。古風な面立ちと上方らしい歌舞伎の演技が、オフシアター歌舞伎の歌舞伎らしさを底上げしていた。荒川とのコミカルなやりとりにも安定感がある。終盤のとあるシーンにも、ハッとさせられる。与兵衛をなだめる小菊の、吐息のようなささやきまで聞こえてきたのは、オフシアター歌舞伎の距離感だからこその体験だろう。


荒川良々は、お吉の夫で豊嶋屋の主人の七左衛門と、山伏の白稲荷法印を演じる。台詞回しも佇まいも「いつもの荒川良々」に思えるのに、そのまま歌舞伎の物語にしっくり馴染んでいたことに驚かされる。登場のたびに空気を変える存在感。お吉との一見何気ないシーンにおける何気ない言葉のやりとりは、オフシアター歌舞伎ver.ならではの深みを与えていた。


上村吉弥が与兵衛の母おさわを、嵐橘三郎が元番頭の継父・徳兵衛を演じる。大道具がないことを感じさせない、江戸の雰囲気を作りだし、本作を支えていた。与兵衛を突き放しきれない両親を情深く演じ、観るものの目頭を熱くした。


上演中は、客席通路が花道に見立てられる。高さがない分、多くの人は隣の観客の肩越しや柱の陰から、与兵衛たちの往来をみることになるだろう。ただでさえ舞台が近い上に、観客と演者の境界が曖昧になる。会見で語られていた「目撃」の感覚を、否が応でも味わえる演出だった。


『オフシアター歌舞伎 女殺油地獄』は、5月11日〜17日まで寺田倉庫G1(天王洲)で、5月22日〜29日まで新宿FACE(歌舞伎町)での上演。オーソドックスな歌舞伎とは一味違う没入感を、ぜひ体験してほしい。