2010年1月にトライアウト公演が開催され、2012年4月より京都に専用劇場・アートコンプレックス1928を構えて、7年半にわたるロングラン公演をおこなっている『ギア-GEAR-』が、2019年10月20日の18時回で京都公演3000回を迎えた。

●日本人だけでなく海外の観劇者からも高い評価●

ギアは、「言葉に頼らない」という意味を持つノンバーバル・パフォーマンスを打ち出し、各演者がマイム、ブレイクダンス、マジック、ジャグリングなど、セリフを使わない表現を毎回披露。2019年4月には観客動員数23万人を突破し、老若男女問わず、また日本人だけでなく海外の観劇者からも高い評価を集めている。


物語の舞台となるのは、忘れ去られた古い元おもちゃ工場。そこで働いている人間型ロボット、ロボロイドの前に、一体の人形・ドールが現れ、その不思議な力によってロボロイドたちの秘めたる能力が引き出されていくというもの。

そんなギアの大きな魅力は、日常とかけ離れた異色の物語でありながら、その世界観に一気に引き込まれるところ。

最初に特筆したいのは、光、映像の演出の素晴らしさ。開演と同時に照明が落ち、眼前が何も見えなくなるほど真っ暗闇な状況にのみこまれる。しかし次の瞬間、駆け巡るように電飾が灯っていく。このオープニングでの鮮やかなイルミネーションが、観る者をすぐに別次元へと連れて行ってくれるのだ。その後も、登場人物の衣装に映像を投写するプロジェクションマッピングなど、アメージングな演出の数々に感動を覚える

●大きな見どころは、何と言っても出演者によるパフォーマンス●

また、サウンド面の演出も秀逸。工場が舞台とあって、ドリルの音、金具が打ち付けられる音、機械の稼働音などが鳴り止まないのだが、その規則的がリズミカルに重なり合いは、やがて歴(れっき)としたインダストリアル・ミュージック(工業をモチーフとした電子音楽の一種)へと昇華されていく。工場音がそうやっていつの間にか音楽へと変化していくところも、作品に没入できる要因となっている。

そして大きな見どころは、何と言っても出演者によるパフォーマンス。人間型ロボットの役ということで、各演者はいわゆるロボットダンス的な動きで登場する。3000回も公演を重ねているとあって、その動きにはもはや人間っぽさは感じられず、異様なまでに機械化している。また、ロボットなので、たとえば物を受け渡しするときも、相手を「待つ」や「様子を確かめる」といった人間的な判断と感覚はない。梯子を登り降りするときも、足元を確かめたりなんてしない。


つまり何をするにしてもほぼノールックなのだが、それでも一糸乱れぬことなく、システマチックに動く。お互いのやりとりに関しても、阿吽の呼吸ですべての物事をクリアしていく。物を投げるときも、相手を見ない。それでも寸分狂わず、きっちりリリース&キャッチできる。タイミングがあまりに完璧なので、「3000回の中で、何度かミスは起こらなかったのだろうか」と考えたりもした。

●軽快なジャグリングなどいろんなワザを次々と繰り出す●

ドールが降臨してきてからは、さらに見応えがふくらむ。彼女から不思議な力を与えられたロボロイドたちは、ダイナミックなヘッドスピン、軽快なジャグリングなどいろんなワザを次々と繰り出す。中でも観客を沸かせたのは、マジックだ。


体、衣服などあらゆる場所からコインが飛び出すマジックは、誰もが目を丸くしていたが、それだけではなく演者が客席へ乗り込み、観客をイジるなどユーモアも存分に交えられている。

ただ、ここでもやはり言葉を一切発しないものだから、イジられる側の観客も「どうしたら良いのか分からない!」と戸惑うような一幕もあり、たまに飛び出すアドリブやハプニングも含めて笑わせてくれる。


単に「パフォーマンスに驚かされる!」というだけではなく、ドラマ性もしっかりしており、「ノンバーバル」というテーマへの問いかけのような終盤のワンシーンはとても切なく、グッとこみあげるものがある。無機質なロボットたちの物語だが、しかしそこには間違いなく喜怒哀楽がにじみ出ているのだ。

●ギアには、魔法のような空間と時間が流れている●

SNSでは秒単位で話題が作られ、テレビやネット動画には当たり前のようにテロップがついて流れる、情報過多な今の時代。でも、言葉を使わなくても驚き、笑い、感動をしっかりと伝えることができる。ギアを通して、「舞台表現」の可能性を感じ取ることができた。


ベースとなる物語は変わらないが、関係者曰く「お客様の感想を聞きながら常にブラッシュアップをしています。1ヶ月後、2ヶ月後にはまた印象が変わるパーフォマンスになっているはず」とのこと。異例のロングランとなっている理由は、「何度でも観たくなるし、何回観ても新しい」という部分ではないだろうか。

ギアには、魔法のような空間と時間が流れている。日本を代表するパフォーマンスとして、今後さらに広く注目を集めていくことだろう。

取材・文=田辺ユウキ 撮影=高村直希