『大道芸ワールドカップin 静岡2019』
2019年11月1日(金)〜4日(月・祝) 静岡市駿府城公園、静岡市民文化会館、市街地各所、駿河区サテライト、清水区サテライト

毎年11月3日、文化の日付近になると、静岡市がにわかに沸き立ち、子供から大人まで世界各国から人々が集まってくるのはご存知だろうか。それは、いまやこの街の風物詩としてすっかり地元に定着した一大イベント『大道芸ワールドカップin静岡2019』が開催されるためだ。



なんで静岡で大道芸ワールドカップ? と思われるかもしれないが、そもそもこのイベントは1992年、当時の静岡市長だった天野進吾氏が「人の集まるまちづくり」を目指して、海外の街中で見た大道芸人とそこに集まる人々のにぎわう様子にヒントを得て、このプロジェクトを立ち上げたところからスタート。それまで大勢の人が集まるような、世界に向けて発信するイベントがなかった静岡市が、市民一丸となって町興しのようなノリで始めたこともあって、現在までイベント運営は静岡市や地元企業、1000名を超えるボランティアスタッフたちが中心となってこのイベントをがっちりとサポート。こうして、市民に根付いていった『大道芸ワールドカップ』は、いつしか毎年150万人あまりを動員するイベントとなり、いまではアジア最大級の巨大ストリートパフォーマンスフェスティバルとして世界中のパフォーマー、フェスティバルディレクターから一目置かれている。


そうして、今年28回目の開催を迎えた『大道芸ワールドカップin静岡2019』は、11月1日(金)〜4日(月・祝)まで静岡で開かれ、今回も「まちは劇場である。そこが文化芸術エネルギーに満たされた時、人も街も素敵に変わる」をテーマに、世界17カ国から総勢86組のアーティストが参加した。

会場内のフリースペースではこどもたちもジャグリングに挑戦

会場内のフリースペースではこどもたちもジャグリングに挑戦

出演者も来場者もイベントを大満喫

出演者も来場者もイベントを大満喫

ジャグリングからアクロバット、ディアボロにエアリアルなどの世界トップレベルの大道芸はもちろん、日本では見られない珍しいパフォーマンスが楽しめるのもこのイベントの特徴。「そのために出演アーティストは、世界中のサーカス団などを探して応募を募った中から選んでいます」と実行委員会のスタッフが教えてくれた。だから、海外からやって来るパフォーマーのなかにはストリートでやったことがないアーティストもいて、そういう人には日本の大道芸人がアドバイスを伝え、それが縁でここでしか見られないコラボがサプライズで実現したりするそうだ。このようにして、出演者同士の国際交流が活発に行われているのもワールドカップならではといえる。



出演者たちは4つの部門に分かれてこのイベントに参加していて、そのなかでもっとも注目を集めるのが世界トップレベルのアーティストたちが参加する「ワールドカップ部門」だ。このなかから、パフォーミングアーティストの“世界一”を決めるのが、このイベント最大の魅力の一つとなっている。

静岡名物のおでんはもちろん

静岡名物のおでんはもちろん

フードエリアには“ワールドカップ”らしく世界中のグルメがずらり

フードエリアには“ワールドカップ”らしく世界中のグルメがずらり


ジャンル別の世界大会は他にもあるが、静岡のように大道芸人たちがジャンルレスでトップを争う大会は他にはない。また、その優勝者の選出方法も実にユニークで、市民審査員と特別審査員が「あなたが1000円持っていたら、このパフォーマンスにいくら投げ銭をするか?」という静岡独自の「投げ銭方式」で、その投げ銭の合計金額がもっとも多い人がその年のチャンピオンになるのだ。

駿府城の石垣をバックに迫力のアクロバット

駿府城の石垣をバックに迫力のアクロバット

部門はこの他に「ワールドカップ部門」に追随する実力者が参加する「オン部門」、今年からお目見えした新人アーティストのための「ニューカマーズ部門」、多種多様のパフォーミングアーツの表現者が集う「フリンジ部門」がある。しかし「その部門に関係なく、出場者たちが市内の様々な場所で演技する姿が観られるところがこのイベントのいいところ」と実行委員会のスタッフは解説。なので、この4日間を通して、会場となる静岡駅前の商店街通りから駿府城公園内、市役所、市街地、静岡市民文化会館(プレミアムステージ)など38カ所に設置されたパフォーマンスポイントには、新人から世界トップクラスのアーティストたちがアトランダムに出没し、スケジュールにそって様々な演技を繰り広げていくことになる。しかも、これらのショーを(プレミアムステージを除いて)無料で観覧できるというのだから、こんな嬉しいことはない。そして、パフォーマンスを観て感動したら、観終わったあとに感動した分だけの「投げ銭」(金額に決まりはない)でアーティストに賞賛をおくれることができる。


イベント期間中は連日朝から夜まで、静岡の街中がステージになるので、街を歩くだけで様々なショーに遭遇する。コミカルなジャグリングを披露するために魔界から人間界にやってきた黄色いドラゴン“ジャグリングドラゴン ヒョウガ”に、歌って踊るバランス芸で大道芸のトップアイドルを目指す、見た目はアイドル、中身はおじさんの“健山”など、彼らのようないままで出会ったことのないタイプのフレッシュなアーティストを見つけるには「ニューカマーズ部門」はうってつけ。



「オン部門」の参加者は各々完成されたステージを展開していく。赤い衣装を身にまとった“紙磨呂”の、静寂のなかで観客の集中力を極限まで引き上げていく無言の美しいマジック。懐かしい歌謡曲を流し、くたびれた青ジャージ姿でシュールな動きとキテレツな行動で観客を笑わせる“加納真実”。巧妙なマシンガントークで高さ5mのポールの上に立ち、アクロバティックなジャグリングを繰り広げ、最後は口から豪快な炎を噴きあげるファイヤーショーまで披露した“パフォーマー SYO!”など、どのアーティストを観ても演技は迫力満点。



さらに「ワールドカップ部門」参加者になると、誰もがため息が出るような世界標準の卓越したオリジナルのスゴ技を次々と編み出していく。昨年度のチャンピオン“Kerol(ケロル)”が想像を絶するヒューマンビートボックスプレイとジャグリングの合わせ技で観客と一体感ある空間を作ったかと思えば、“The Collector(ザ コレクター)”は誰かれ構わずいたずらを仕掛けるという独特のユーモアセンスで観るもの全員を笑顔に変えていく。


家のリビングという設定のなかで普段着のまま男女の日常を精度の高いアクロバットで演じていく“Company Kate&Pasi(ケイト&パシィ)”、ボトルやカードに加えてロボットを相棒にしたコミカルな掛け合いで何度もみかえしたくなるようなマジックを見せる“Charlie Caper(チャーリー ケーパー)”など、どれも独創性溢れる完成度の高いエンタテインメントショーばかり。

1度観だしたら興奮が止まらない。しかも、そんなアーティストたちのスリリングなアクティングを目の前、手が届きそうな距離感で楽しめるのだから、これを観ない手はない。さらに、夜になると駿府城がライトアップされ、日中とは一味違う幻想的な雰囲気のなかでナイトパフォーマンスも行われる。


さらに、静岡市民文化会館内では有料だがプレミアムステージが開催され、4日間とも異なるプログラムで世界のトップクラスの技を、ここでは全席指定の屋内でじっくりと堪能することができる。そのプログラムのなかに用意された「WORLD CUP」の日には、全世界から選ばれた「ワールドカップ部門」出演アーティストが一堂に集結して演技を披露。そのパフォーマンスで、この大会の目玉でもあるワールドカップチャンピオンを決める審査が行われるというのだから、これはチケットを買ってでも観ておきたいプログラムだ。




街中で繰り広げられるパフォーマンスからプレミアムステージまで、それら全部を見て回るには、とても1日では時間が足りない。なので「ぜひとも静岡に泊まってもらって、このイベントと静岡を存分に楽しんでもらいたい」と実行委員会スタッフは話している。



プレミアムステージの演技の合間にはパフォーマーによるコミカルな演出も

プレミアムステージの演技の合間にはパフォーマーによるコミカルな演出も



来年『大道芸ワールドカップin静岡2020』は、2020年10月31日(土)〜11月3日(火・祝)の4日間に渡って開催される。

取材・文=東條祥恵 撮影=鈴木 恵