週刊少年ジャンプで2003年から連載され、世界発行部数シリーズ累計3000万部を超える言わずと知れた大ヒット漫画『DEATH NOTE』。それを原作としたミュージカル『デスノート THE MUSICAL』が2015年4月、日本発のミュージカルとして日本初演で幕を明けた。同年6月には韓国のキャストで韓国版も上演され好評。その後2017年に日本版・韓国版ともに再演され、日本のキャストが台湾は台中での海外公演も果たした。そんな『デスノート THE MUSICAL』が2020年1月、これまでのキャストを一新して日本で再々演される。

再々演を前に、初演時に日本と韓国で本作を観た筆者が『デスノート THE MUSICAL』の魅力について語りたい。本コラムは前編・後編にわけてお送りする。

『デスノート』あらすじ

原作コミックス1巻 表紙  (C)大場つぐみ・小畑健/集英社

原作コミックス1巻 表紙 (C)大場つぐみ・小畑健/集英社

「このノートに名前を書かれた人間は死ぬ」

正義感の強い成績優秀な高校生・夜神月(やがみライト)が“DEATH NOTE”と書かれた1冊のノートを偶然拾うことから物語は始まる。死神のリュークが退屈しのぎに人間界に落としたそのノートは、名前を書くだけで人を殺すことができるノートだった。ノートの力に気付いた月は、自分が悪人を裁くことで世の中の悪を一掃することができると考え、次々と犯罪者を殺していく。世間では悪人を裁く誰かを“キラ”と名付け、救世主として崇拝する者まで現れる。罪を犯すと裁かれるのではないかという恐怖から犯罪発生率は激減し、インターネットを中心にキラの噂が広がっていくころ、犯罪者ばかりが不可解な死を遂げる事件を解決するため、これまで様々な難事件を解明してきた名探偵Lが登場。キラを捕まえるため動き出すーー

漫画×ミュージカルの相乗効果

漫画『DEATH NOTE』は連載当時に読んでいたが、書くことで人を殺すことができるノートとその使い方の設定、主人公月とLの頭脳を駆使した心理戦など、斬新で非常に面白い作品だった。漫画が面白かっただけに、『DEATH NOTE』がミュージカルになると聞いても、どんな作品になるのか、本当にミュージカル化できるのか、キャラクターが歌うとしてもどういう歌なのか、まったく想像がつかなかった。しかし実際に日本での公演を見てみると舞台として不思議なくらいしっくりとはまっていたのである。

いまはキャラクターやシーンを原作に忠実に再現することに重きを置く漫画原作の舞台も数多く上演されているが、『デスノート THE MUSICAL』は舞台には舞台としての『デスノート』があるということを示す作品だ。原作が存在するものをいかに舞台作品として変換し、舞台でのテーマを持って描き切るか、という点でまた原作とは違ったミュージカルとしての面白さがあった。

2015年日本初演(左から 八神月役 柿澤勇人、L役 小池徹平、リューク役 吉田鋼太郎) 提供:ホリプロ

2015年日本初演(左から 八神月役 柿澤勇人、L役 小池徹平、リューク役 吉田鋼太郎) 提供:ホリプロ

『デスノート THE MUSICAL』は原作のエンターテインメント性を踏まえつつ今の日本の社会を描きだす。「正義のために」と犯罪者を裁く月の殺人は、ノートに書くだけで出来てしまう。それも40秒という、考える隙も与えないほど短い時間で人が死ぬ。実感を持たず、痛みを伴うことなく人を殺す。この行為は非常に現代的だ。正義の名の下に人が人を裁くこと、実感を伴わない殺人、これらを漫画の世界観をただ追うのではなくテーマとして掘り下げ、膨らませることができるミュージカルと『デスノート』の相性は抜群だった。

また、シーンを自在に転換できる舞台の利点を生かし、スピーディーに場面を展開させたり、随所にアンサンブルを差し挟むことで、大衆が、自分にとって正義だと認識した対象の”キラ”を極端に支持する様を浮かび上がらせる表現などは、物語を時間軸で追わなければならない映像作品よりも舞台で活きる演出の力を存分に発揮した。

演出の栗山民也は新国立劇場の元芸術監督であり、新劇から古典、ミュージカルと幅広く活躍する日本を代表する演出家だ。2013年には紫綬褒章を受章している。その栗山を演出に迎え、さらにフランク・ワイルドホーンが音楽を担当するという日本発オリジナルミュージカルは、舞台が好きな身からすると、それだけでワクワクする意欲的な組み合わせだ。

贅沢なフランク・ワイルドホーンの音楽

『デスノート THE MUSICAL』の魅力のひとつとして、音楽の素晴らしさがある。

音楽のフランク・ワイルドホーンはブロードウェイで活躍してきた鬼才で『ジキル&ハイド』や『スカーレット・ピンパーネル』などを手掛け、日本でも数多くの作品が上演されている。特に『ジキル&ハイド』の「This Is The Moment」は有名で、最近では音楽番組でも歌われることが多々ある。1992年アルベールビル冬季オリンピックの公式テーマにもなった曲だ。

『デスノート THE MUSICAL』の音楽について初演時にフランク・ワイルドホーンが語った「キャラクターのほとんどがとても若いから、必然的に楽曲はポップスのスタイルに(*出典:「シアターガイド」2015.5)」という言葉どおり、ミュージカル"らしい"音楽というよりは聴きやすい現代的な楽曲の印象だ。

2017年日本公演(前・L役 小池徹平/後・八神月役 浦井健治) 提供:ホリプロ

2017年日本公演(前・L役 小池徹平/後・八神月役 浦井健治) 提供:ホリプロ

ワイルドホーンの音楽はメロディーラインが耳に残り、音程の上下の動きが大きくダイナミックで特徴的。『デスノート THE MUSICAL』も冒頭の「オーバーチュア」から「正義はどこに」で一気に物語に引き込む音楽の力を感じることができる。

主人公たちが歌う主要な楽曲もあるなかで個人的に注目したいのは、主人公・月の妹の夜神粧裕(やがみさゆ)と”キラ”を崇拝するアイドル歌手ミサミサこと弥海砂(あまねミサ)が歌う「わたしのヒーロー」。月を挟んで粧裕と海砂が歌う楽曲で、それぞれの月への想い、彼をヒーローとして慕う気持ちを歌っているが、歌から感じられるのは同じ人間に対する同じ感情でも正反対の性質を帯びていることだ。月の中では矛盾しない正義への感情だが、その二面性が他者からの視点だからこそ露わになることがよく表現されているナンバーだ。

2015年日本初演(左・弥海砂役 唯月ふうか/右・レム役 濱田めぐみ) 提供:ホリプロ

2015年日本初演(左・弥海砂役 唯月ふうか/右・レム役 濱田めぐみ) 提供:ホリプロ

ミュージカルならではの音楽に注目すると、歌詞以外にも音楽そのものでシーンを表現する役割がある。一度使われた曲が他の場面でも繰り返し使われることの意味や、同じパートを一緒に歌っているキャラクターの関係性など、ユニゾンなのか、一人で歌っているのか、同じメロディーラインを二人が違う音程で歌っているのかなど、その場面の解釈が音楽からも楽しめる。ミュージカルでしかこの感覚は味わえない。ここはこういう意味なのかな、あそこは一緒に歌っているからこういう心情を表現しているのかな、ああでもないこうでもないと考えながら見るのもまた楽しい。

『DEATH NOTE』という漫画から生まれた『デスノート THE MUSICAL』ならではの魅力。2020年の再々演の機会にぜひ劇場で堪能して欲しい。(後編に続く ※1/3公開予定)

文=yuma/演劇・ミュージカル(特に韓国ミュージカル)など、舞台作品とフィギュアスケートを観るのが好きです。好きなもののためならどこへでも。