本番まで1週間を切るタイミングで発生した「大阪府北部地震」の影響で、会場の吹田メイシアターが使用できなくなり、止む無く中止となった関西二期会のオペラ公演が上演される!

マスカーニ作曲 歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」と、レオンカヴァッロ作曲 歌劇「パリアッチ(道化師)」という、人気のヴェリズモ・オペラ2本立て公演が、2020年2月22日、23日、東大阪市文化創造館に会場を替えて行われる。(※ヴェリズモ・オペラ=19世紀末から20世紀初頭にかけて写実主義の文学「ヴェリズモ文学」の影響を受けたオペラ。市井の人々を描くのが特徴で、マスカーニ、レオンカヴァッロらが代表格)

会場となる東大阪市文化創造館は昨年9月にオープンしたばかりで、これが初めてのオペラ公演。

「カヴァレリア・ルスティカーナ」にサントゥッツァ役で出演するメゾ・ソプラノ歌手古田昌子と福原寿美枝に、今回の公演に向けた意気込みを聞いてみた。

サントゥッツァを演じる古田昌子(左)と福原寿美枝。 (C)H.isojima

サントゥッツァを演じる古田昌子(左)と福原寿美枝。 (C)H.isojima

―― 福原さん、待ちに待ったオペラ「カヴァレリア・ルスティカーナ」ですね。前回は、初日の1週間前に地震の影響で中止を余儀なくされたわけですが、今回サントゥッツァを演じるにあたり、喜びも一入でしょうね。

福原寿美枝 確かに本番を歌わずに終えた作品でしたが、既に中止から1年半が経過しています。張りつめていた気持ちが切れていた事もあり、今回やると聞いた時は、正直無理だとお断りをしました。と言うのは、先月、ヴェルディのオペラ「アイーダ」でアムネリスをやる事が決まっていたのです。ひと月違いで大きな役2本は、とてもじゃないけど無理だとお断りをしたのですが、周囲からのお勧めもあり、出演を決めました。

―― サントゥッツァは元々ソプラノの役だと思うのですが、メゾソプラノが歌うケースが多いですね。

福原 はい。仰る通り、ソプラノの役ですが、ジュリエッタ・シミオナートが完璧に歌った事で、メゾソプラノのレパートリーのように言われるようになりました。高音で歌う箇所が多く、正直かなり厳しい。私はやっぱりソプラノが歌うべき曲だと思います。前回、関西二期会でやった時は、ソプラノだったと思います。

関西二期会公演「カヴァレリア・ルスティカーナ」(1982年6月 厚生年金会館大ホール)

関西二期会公演「カヴァレリア・ルスティカーナ」(1982年6月 厚生年金会館大ホール)

―― 古田さんは海外での生活が随分長いとお聞きしていますが、サントゥッツァを歌われた事はお有りですか。

古田昌子 ピアノ伴奏ですが、イタリアで2回やりました。昨年、30年振りに日本に戻って来ました。関西二期会には8月からお世話になっています。入会早々、「サントゥッツァ歌える?メゾで探しているんだ!」と言われて驚きました。2015年のザルツブルクのイースター音楽祭でヨナス・カウフマンがトリッドゥとカニオの二役をやった時、合唱で出演していましたが、あの時はサントゥッツァをドラマチックソプラノが歌っていました。ソプラノでも大変そうだったのを覚えています。この曲を歌う事はもう無いだろうなと楽譜を仕舞い込んでいたのですが、慌てて引っ張りだして来て、現在取り組んでいます(笑)。

「ナクソス島のアリアドネ」(ビール市立歌劇場 スイス・ベルン州)ドリヤードを演じる古田昌子(中央)

「ナクソス島のアリアドネ」(ビール市立歌劇場 スイス・ベルン州)ドリヤードを演じる古田昌子(中央)

福原 実はサントゥッツァは、若い時はものすごくやりたい役でした。でも若い時にはこのような役は回って来ません(笑)。難しい役ですが、ぜひこの役を君で!と言って頂けることに感謝しつつ、精一杯歌わせていただきます。

―― 相当難しそうだと云うのは、お二人のお話からも伝わってきました。時間にすると70分ほどのオペラですよね。不倫のドロドロな話ですし、感情的になって声を張り上げる場面も多そうですね。

古田 確かにサントゥッツァは情熱的な女性ですが、それは誰の中にも有るものだと思います。ただ、彼女は感情を押し隠したりはしません。その辺はシチリアの女性。日本人と違う所でしょうか。

ヴェリズモオペラと言えば、凄い声のオペラ歌手が、圧巻の歌声で演じるイメージがありますが、サントゥッツァは特別な女性では無くて、普通の女性なんだという所が伝われば良いのですが。

(C)H.isojima

(C)H.isojima

福原 ただ、浮気相手の旦那アルフィオに二人の関係を告げ口したりするのは、愛するトゥリッドゥに仕返しがしたかった訳で、感情の赴くままではなく、ちゃんと計算した上での行為だと思います。その事が、トゥリッドゥを死に至らしめるとは全く考えていないところが思慮浅き女性なんですよね。嫉妬が原因とはいえ、取り返しのつかない何てことをしてしまったのか!その辺りを歌唱で表現するのですが、これが難しい。

(C)H.isojima

(C)H.isojima

古田 ヴェリズモと言われるオペラの中でも「トスカ」や「パリアッチ」は、まだ冷静にちゃんと歌える作品ですが、「カヴァレリア・ルスティカーナ」だけは本当に危ないと思います。サントッツァだけでなく、トゥリッドゥもアルフィオも、感情が入り過ぎると声が破綻します。また、声に集中すると感情が入らない。両方のバランスが難しい。感情がワーッと入って来るので声が持たなくなります。

イタリア時代、ライナ・カバインヴァンスカ先生のマスタークラスを受けたのですが、先生はプッチーニの「蝶々夫人」を歌った時の話をして下さいました。ある公演で蝶々夫人になりきり、涙流して、これは名演になった!と思っていたのが、録音で聴くと声は破綻して聴けたものでは無かったらしいのです。先生のような方でもそんな事があるくらいで、役に入り込んでしまうと分からなくなってしまいます。

福原 確かにそうですね。感情のメリハリを付けながら最後まで歌いきるのって、本当に難しいですね。

―― 「カヴァレリア・ルスティカーナ」も「パリアッチ」も代表的なヴェリズモオペラですが、歌う上で他のオペラと比べて注意されている点は有りますか?

古田 演出家のパオロ・パニッツァさんは、ヴェリズモというのはリアリズムを描いた文学運動のことで、ヴェリズモオペラというのは無いんだと仰っています。その上で、オーソドックスで奇を衒う事の無い、自然な演技を要求されます。人間の扱いが現代的で、歌い手の自由な感情を優先させてくださるので、コチラも構えずにやれます。

古田昌子に演出を付ける演出家パオロ・パニッツァ (C)H.isojima

古田昌子に演出を付ける演出家パオロ・パニッツァ (C)H.isojima

福原 皆様ご自身の生活と照らし合わせて聴いていただければ(笑)。不倫のハナシで、心がザワザワすると思います。ワーグナーのような長大なオペラを観終わった充実感や、感動とは違った、ザワザワ感(笑)。これもまたオペラです。身も蓋もない毛羽だったハナシですが、神話を題材としたハナシより、間違いなく取っ付き易いと思います。劇場にザワザワしにお越しください。

―― なるほど。そのザワザワ感がこそがヴェリズモ。リアリズムですか(笑)。確かにテレビのワイドショーでも、連日不倫の話題は溢れていますね。

福原 ザワザワしながらも、音楽があまりにも美しい!このギャップにやられると思います(笑)。この感覚、劇場で体験して欲しいですね。

「演技に囚われる事の無いように!音楽を感じて!」マエストロから指示が飛ぶ! (C)H.isojima

「演技に囚われる事の無いように!音楽を感じて!」マエストロから指示が飛ぶ! (C)H.isojima

―― 古田さん、このオペラの後のご予定はどうなっていますか。

古田 関西二期会の次回公演「リゴレット」に出演する事が決まっているのと、後はドイツ歌曲を歌う演奏会がポツポツと……。実は30年間、ヨーロッパでやりたい事を全部やって来て、日本で引退しよう!くらいの気持ちで帰って来たのですが、気が付けばサントゥッツァを歌っています(笑)。そうですね、ヨーロッパでやってきたことや見た事、感じた事を後輩の歌手に伝えて行きたいですね。それこそが私のやるべき仕事だと思います。後進の指導ということになるのでしょうか。

―― それは古田さんでないと出来ない事ですね。頑張ってください。福原さんは相変わらず、お忙しそうですね。以前、お話を伺った時はマーラー交響曲第8番「千人の交響曲」の当たり年で、1年で3回も歌われると仰っていたのが印象的でした。(以前取材した時の記事は spice.eplus.jp/articles/192510 )

福原 マーラーの「千人」、今年も歌いますよ(笑)。まずは、3月に枚方シティオペラで「カルメン」の演奏会形式に出演致します。4月にはびわ湖ホールの、近江の春「びわ湖クラシック音楽祭」でプッチーニ「ジャンニ・スキッキ」の演奏会形式とドイツ歌曲を歌わせて頂きます。オーケストラとは、6月にベートーヴェンの「ミサ・ソレムニス」を名古屋フィルと、9月にマーラーの交響曲第2番「復活」を九州交響楽団と、そして11月にマーラーの交響曲第8番「千人の交響曲」を神奈川フィルとやらせていただく事になっています。オペラもオーケストラ演奏会も会場で聴いて頂くのがいちばんです。ぜひコンサートホールに、ザワザワしに来て頂きたいです(笑)。

バーンスタイン交響曲第1番「エレミア」川瀬賢太郎指揮 神奈川フィル(H30年4月) (C)藤本史昭

バーンスタイン交響曲第1番「エレミア」川瀬賢太郎指揮 神奈川フィル(H30年4月) (C)藤本史昭

―― 古田昌子さん、福原寿美枝さん、ありがとうございました。公演の成功を祈っています。

 取材・文=磯島浩彰