通常のコンサート開催が難しいコロナ禍において、ピアニスト・反田恭平がさまざまな思いを巡らせながら開催に踏み切ったオンライン・コンサート『Hand in hand』。木管楽器の魅力を伝えた第1回(2020年4月1日)に引き続き、第2回は、反田が厚い信頼を寄せるピアニスト・務川慧悟との2台ピアノコンサートとして、2020年6月28日(日)に開催された。

今回は、浜離宮朝日ホールからオンライン生中継を行うと同時に、会場には限定30席の観客席も設けられた。552席あるホールの中央およびバルコニーのブロックで、各座席の間隔を置きながら鑑賞できるチケットが発売され、入場時には一人ひとりの検温と、手指の消毒を済ませてからホール内に入るというウィルス感染予防対策が取られた。筆者も関係者席から久々に生演奏を聴くことができた。

浜離宮朝日ホールにて

浜離宮朝日ホールにて

反田と務川の出会いや2台ピアノ共演のきっかけ、さらに今回のプログラミングについてはこちら(https://spice.eplus.jp/articles/270307)のインタビューを参照されたい。この日は実際に二人の和やかなトークと、ピッタリと息の合った演奏が届けられた。

幕開けは務川のソロによるラモーの「ガヴォットと6つのドゥーブル」。変奏曲の主題となるガヴォットは、リリカルに、なおかつ推進力をもって提示された。客席のほとんどが埋まらないホールというのは、極めて残響が豊かだ。その潤沢な響きの中で、声部は立体的に響き、スケールやバス進行のキャラクターが明快に示された。

演奏後、反田は「物語のように聴こえる演奏だった」と賞賛を贈り、務川は久々のステージ演奏に「特別なものを感じながら演奏できた」と応えた。

Hand in hand vol.2『反田恭平×務川慧悟 2台ピアノの世界』(Streaming+より提供)

Hand in hand vol.2『反田恭平×務川慧悟 2台ピアノの世界』(Streaming+より提供)

ここから先は2台ピアノのプログラム。ラヴェルの「スペイン狂詩曲」(プリモ:務川、セコンド:反田)では、音色変化の豊かな二人のピアノが、ラヴェルの華麗なるオーケストレーションを思わせた。〈夜への前奏曲〉では張り詰めた色気を、〈マラゲーニャ〉では妖艶でゴージャスな響きを聴かせ、〈ハバネラ〉では務川が輝きのある音色でメロディーラインを作り、反田は厚みがありつつも機動性の高い伴奏を奏でた。〈祭り〉ではオーケストラのように大きなうねりを形成しながらも、精彩できめの細かいアンサンブルを作り上げた。

Hand in hand vol.2『反田恭平×務川慧悟 2台ピアノの世界』(Streaming+より提供)

Hand in hand vol.2『反田恭平×務川慧悟 2台ピアノの世界』(Streaming+より提供)

Hand in hand vol.2『反田恭平×務川慧悟 2台ピアノの世界』(Streaming+より提供)

Hand in hand vol.2『反田恭平×務川慧悟 2台ピアノの世界』(Streaming+より提供)

曲間のトークも楽しい。二人は作品や演奏についてのコメントのほか、衣装についても言及。この日のために「憧れのヨウジヤマモト」を一緒に揃えたという。「靴下も色違い」と仲の良さもアピール。黒のセットアップはスタイリッシュながら、どこかゆったりとした雰囲気も漂わせ、二人の雰囲気によく合っていた。

トークと演奏は心地よいテンポでつながれてゆき、二人がステージ袖にはけることはない。生中継のカメラと客席の聴衆を前に、高いサービス精神を示し続けた二人だが、後で聞いたところによれば、給水用のボトルにも気づかないほど本番に集中していたそうだ。

浜離宮朝日にて

浜離宮朝日にて

3曲目はモーツァルトの「2台ピアノのためのソナタ ニ長調」(プリモ:務川、セコンド:反田)。務川の極めて上品に煌めく音色、反田のふくよかな温かい音色、それぞれの特性が際立ちながらも、トリルの機微までピッタリと合う演奏は実に気持ちよく、立体的で楽しい。掛け合い部分ではまるで「君がそうくるなら、僕はこう」といった調子の生き生きとした対話が立ちのぼり、作品の持つみずみずしい生命力を感じさせた。第2楽章のゆったりとしたアンダンテでは、日常の何気ない幸福感を広げてくれるような、穏やかな時間を提示した。

Hand in hand vol.2『反田恭平×務川慧悟 2台ピアノの世界』(Streaming+より提供)

Hand in hand vol.2『反田恭平×務川慧悟 2台ピアノの世界』(Streaming+より提供)

音楽に喚起された“喜び”は、弾き姿に自然とにじみ出る。二人はとにかく楽しそうに演奏する。曲が終わると反田の口から「楽しかったー」という言葉が自然と飛び出し、「やはりお客さんが聴いてくれていると、音楽も自然と変わる。想像力が豊かになる」とコメントした。

プログラムの最後を飾るのは、ラフマニノフの「2台ピアノのための組曲 第2番」(プリモ:反田、セコンド:務川)。反田の思い入れの深い作品だ。モーツァルトとはガラリと空気を総入れ替えし、楽器も2台とも全く別のものに入れ替えたかのような、強烈にカラフルな和音の連続で〈序奏〉を開始。音圧の高いタッチと敏捷なリズムが見事なバランスで繰り出された。〈ワルツ〉では、やはり呼吸がピッタリと合う二人が瀟洒な間合いを作り、〈ロマンス〉では務川の伴奏に乗って反田の旋律が極めて自然に歌われた。〈タランテラ〉は理性的に熱量がコントロールされ、音数の多さにも関わらず一音たりとも潰れず、豊かなレイヤーを形成した。楽器の持てる可能性をMAXまで駆使したかのような驚異的なパフォーマンスに、会場では実際の人数の3倍ほどを思わせる拍手喝采が贈られた。

Hand in hand vol.2『反田恭平×務川慧悟 2台ピアノの世界』(Streaming+より提供)

Hand in hand vol.2『反田恭平×務川慧悟 2台ピアノの世界』(Streaming+より提供)

カメラと、少人数の聴衆とを前に、務川は「この一瞬に掛けるような思いで演奏した」と語った。反田は「体感時間としては長かった」というが、物理的に計測不能な深い音楽的時間を生きたのだろう。それは聴衆も一緒だ。反田と務川それぞれの魅力が幾重にも累乗され、充実した音楽的時間を共にすることができた。

二人は最後に「可愛い曲で遊びます」とアンコール曲を披露。モーツァルトの原曲にグリーグが2台ピアノのパートを付け足したという「ピアノソナタ ハ長調K545」の第1楽章だ。繰り返しではプリモとセコンドを入れ替えながら、対旋律を大胆に響かせたり、引っ込めたりと、まさに遊び心に溢れた演奏で朗らかに締めくくった。

コンサートの通常開催を願いながら、反田の『Hand in hand』は続けられる。次回は7月18日(土)に、MLMナショナル管弦楽団とともに「マラソンコンサート」と題して行われる。昼と夜の2部構成で、プレトークあり、室内楽やピアノ協奏曲ありの豪華なプログラムだ。もはや小さな音楽祭のような催しに、満足度の高い1日となりそうだ。

取材・文=飯田有抄