秦 基博にとって初の試みとなる無観客ライブ『Hata Motohiro Live at F.A.D. YOKOHAMA 2020』が8月27日、配信された。

今回会場となったF.A.D. YOKOHAMAは秦が18歳のときに初めて出演し、デビューまで腕を磨いたライブハウス。今回配信ライブを行うにあたって思い出の地を会場に選んだのは、コロナ禍で活動が制限されている今、自らの原点を見つめ直すとともに、同じく苦境に立たされている音楽の現場にエールを送りたいという気持ちもあったのだろう。ライブ前には同店店長の橋本勝男氏となごやかに旧交を温める姿も見られた。


映像は今日の公演を告知するF.A.D. YOKOHAMAスタッフの手書きの看板から、重いドアを開けて店内に入るところからスタートした。フロアの中央まで進むと、暗いステージにライトが灯る。そして秦登場――のちのMCで「今日はライブハウスF.A.D.の雰囲気を存分に楽しんでいただけたら」と語っていたが、今回のライブのコンセプトはライブハウスで音楽を聴く喜びを味わってもらうこと。まずはこちらも自身の原点となるデビュー曲「シンクロ」を高らかに歌い上げる。


今日のライブは秦のトレードマークともいえる、アコースティックギターの弾き語りスタイルで行われた。「フォーエバーソング」「色彩」となつかしい曲の後に演奏されたのは、アマチュア時代にもこの場所で歌っていた「恋の奴隷」。若き日の鬱々とした想いが20年近い歳月を経てよみがえる。

次の「Lost」からは昨年12月に発表した最新アルバム『コペルニクス』収録の楽曲が続いた。本来はこの春から全国ツアーを行うはずだったが、新型コロナウイルスの影響で全公演が中止に。それを受けて秦の口からは「ツアーも配信という形でしっかり構築したものを届けられればと考えています」と、配信による『コペルニクス』ツアーの表現という嬉しいニュースが発表された。


弾き語りで披露されたアルバム曲は、リバーブのかかったアルペジオが耳に残る「Lost」、静寂の中にやさしさがにじむ「在る」、ループマシンを使い即興のアンサンブル(多重コーラスも!)を築き上げた「Raspberry Lover」と多彩な手腕が光った。弦をかき鳴らした「9inch Space Ship」は力強く、歌声も熱を帯びていく。人気曲「スミレ」を歌った後は、「きっと画面の前でみんな踊ってくれたと信じてます」と見えないオーディエンスに信頼の言葉を投げかけた。


ライブの後半は「ひまわりの約束」「鱗(うろこ)」という代表曲を熱唱したが、〈君に今/会いたいんだ/会いに行くよ〉〈君に今/伝えたくて/歌ってるよ〉というフレーズは対面で歌を伝えることができない今のもどかしさを代弁するようで、胸に迫るものがあった。ラストの「朝が来る前に」も〈信じているよ/離ればなれでも/つながっているんだ〉と2020年ならではのニュアンスで心に触れてくる。


想いを込めたパフォーマンスで全12曲を歌い切ると、秦は「ありがとうございました」と一礼して舞台袖へと消えていった。自身のルーツとなる場所で行った無観客ライブは、今の秦の心境と音楽の置かれた状況が如実に感じられる深い余韻を残すものとなった。この配信ライブは、チケット制ストリーミング·サービス「Streaming+」で8月30日(日)18:00までアーカイブ配信されている。

文=清水浩司 撮影=笹原清明