2020年9月20日(日)東京・天王洲 銀河劇場にて「ミュージカル『刀剣乱舞』 〜幕末天狼傳〜」開幕。2016年、「阿津賀志山異聞」に続き上演されたシリーズ初期の物語が、再び審神者の前に現れた。刀ミュの歴史を振り返りながら今この作品が上演される意味にも思いを馳せつつ噛み締めた「2020年の天狼傳」。そのゲネプロの模様をレポート!

今回出陣するのは加州清光、大和守安定、和泉守兼定、堀川国広、蜂須賀虎徹、長曽祢虎徹の6振り。蜂須賀虎徹を隊長に新撰組に縁の深い刀剣男士が向かう先は…そう、新撰組が活躍したあの時代だ。

池田屋、刀剣男士たちが元の持ち主とシンクロしながら登場する冒頭すでに、「体感的に知っているはずなのに新しい世界を観ている」という感覚に包まれる。6振りが揃った姿を観たその瞬間がとても新鮮な印象だったのも、役者たちがここまで演じてきたキャラクターへの積み重ねを見つめ直し、改めて「幕末天狼傳」でのあり方を追求した賜物なのだろう。観客をまっさらな状態で作品世界へと誘ってくれる強さがビリビリと伝わってきた。

それは演出面でも同様。舞台上、まず目を惹かれたのが無骨だが計算し尽くされた組み木細工のような2階建てのセット。質実剛健な新撰組の物語を彩るのにとても似合っている。場面によって回転させることで様々に表情を変え、視覚的にも心情的にもこちらに訴えかけてくるモノが豊富。映像を多用せず、ダイレクトな見せ方で演劇的な陰影を伝えてくれた。全体を黒く落とした空間にソリッドに映える照明の数々も美しかった(キャラクターのイメージカラーを利かせる心憎さも!)。

(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

また、ミュージカルナンバーもほぼ一新! 楽曲だけで成立するナンバーもあるが、観ていてワクワクする展開、ミュージカルだからこそのセリフ歌や組み合わせの妙なども光り、それを生き生きと表現する役者陣のパフォーマンス力に心が躍った。

元の持ち主・沖田総司への決して叶わない思慕をなんとか自分のやり方で遂げようとする大和守安定を演じる鳥越裕貴は、なにより瑞々しさがいい。小柄な体躯を生かした素早くキレのある殺気に満ちた殺陣と、少年然とした佇まいのギャップが魅力。同じく沖田総司の刀である加州清光を演じる佐藤流司は、大和守安定への深い友情を不器用な無邪気さで複雑かつストレートに表現。主張加減も絶妙で、その感受性の強さを殺陣や歌唱にも確実に落とし込んでいく。

和泉守兼定役の有澤樟太郎は、自分の良さを愛するのと同じく相手の良さを愛するような、気風の良さが気持ちい。表情の強さと余裕のある刀捌きには信頼感が備わっている。堀川国広役の阪本奨悟は折り目の正しさが印象的。和泉守兼定とは土方歳三を軸に繋がり助手的立場で奮闘するが、殺陣も歌も「ここぞ」というときに場のすべてを支配するスキルと懐の深さにも注目だ。

高橋健介演じる蜂須賀虎徹は物腰の優雅さが秀逸。心の内で抱き続けてきた贋作である兄の長曽祢虎徹への複雑な思い、その葛藤ですら流麗な言動で表現していく。近藤勇の刀だった長曽祢虎徹を演じる伊万里有は、柔らかくも強い心でどっしりと物事に対峙。今を受け入れ多くを語らずとも使命をまっとうする、大らかなオーラを纏っていた。

(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

(C)ミュージカル『刀剣乱舞』製作委員会

近藤勇役の小柳心、土方歳三役の高木トモユキ、沖田総司役の定本楓馬といった歴史上の人物、新撰組メンバーのくもりのない武士としての生き様、その人間臭さも胸を打つ。彼ら“元の主人”が強く真っ直ぐ生きようとすればするほど刀剣男士たちはその想いに応え共鳴し、歴史を守るための過酷な戦いに飛び込んでいく。それぞれがどんな運命を迎えるとしても、後の世に思いをつないでいくのは同じこと──言い尽くされた言葉ではあるが、あの時代、刀が使われていた最後の時代にふさわしい“漢の浪漫”がたっぷりと描かれた1部であった。

2部のライブは…思いの丈は光る棒に託し、すべてを楽しむのみ!

2020年の今を生きている者すべてが経験した“この数ヶ月の空白”。いつもと違う時間を過ごす中で見えてきた余計なモノへの決別、本当に大切に守らなければならないモノへの思い、人生の真贋。そこから生み出された2020年の「ミュージカル『刀剣乱舞』 〜幕末天狼傳〜」は、今この時期に上演できるスタイルとしてのトライを組み込むと同時に、ミュージカルとして、演劇としての原点に立ち返りながら新機軸を目指して丁寧に紡ぎ直された一作だ。なにが起きても空に星が──天狼星・シリウスが輝いていれば、また空を見上げて明日に進んでいける。そんな余韻が心に刻まれる。

取材・文=横澤由香