2020年10月2日(金)、歌舞伎座で『十月大歌舞伎』が初日を迎えた。

新型コロナウイルス感染症拡大の影響により、歌舞伎座では3月から7月まで公演が行われず、公演が再開された8月以降は1日四部制を取っている。

『十月大歌舞伎』第一部の演目は『銘作左小刀 京人形(めいさくひだりこがたな きょうにんぎょう)』。名工・左甚五郎が花魁の小車太夫のことが忘れられず、太夫に生き写しの京人形を作ったところ、人形に魂が宿って動き出すという前半と、松永大膳が執心する井筒姫をかくまっていた甚五郎のところへ、井筒姫に仕える奴の照平がやって来て、誤って甚五郎の右腕を切りつけてしまうという後半から成る舞踊劇だ。

前半は動き出した京人形と甚五郎が共に踊る場面が見どころで、京人形の精には細やかで幅広い踊り分けが求められ難しい役どころだが、楽しく華やかで笑いを誘う。後半は井筒姫を奪おうと乗り込んできた大工と、右腕を負傷して左腕だけでそれに対抗する甚五郎の立ち廻りが見せ場となっている。

京人形の精として出演している中村七之助が、出番後に合同取材会に出席し、今の気持ちを語った。

「歌舞伎座、安心ですよ」と伝えたい

中村七之助

中村七之助

歌舞伎座の公演が再開して以降、8月と10月の2回出演している七之助は、取材会の冒頭に「このご時世、生の舞台を観に行くことに抵抗がある方がまだまだたくさんいらっしゃると思いますが、8月から歌舞伎座が再開して現在まで感染者が一人も出ていないことはすごいことだと思っています。8月に歌舞伎座の幕が開いてもちろん嬉しかったんですが、千穐楽を迎えられるとは正直思っていなかった」と、様々な制約がありつつも歌舞伎座で公演が続いていることの喜びを語った。

歌舞伎座で徹底した感染症対策が取られていることについて、「再開後、お客様からも感染者が出ていないということは、お客様の意識が高いということだと思います。だから今回皆さんにお伝えしたいのは『歌舞伎座、安心ですよ』ということ。これは自信を持って言えます。8月公演中、私の出演していた第3部が公演中止になったことが1回だけありましたが、それは発表されている通り、舞台関係者1名に微熱の症状があったからで、それで急遽公演中止にした松竹さんの、お客様の安全を何よりも第一に考えた判断がすごい」と、観客と松竹の姿勢を絶賛した。「私は今回、初日の幕が開いてから未だに(『京人形』で左甚五郎を勤める)芝翫のおじと舞台上でしか会っていません。楽屋入りする時間も決められていて、楽屋では誰とも会ってはいけないことになっているので」と、出演者たちも感染症対策を徹底している様子を述べた。

『京人形』京人形の精=中村七之助(令和2年10月歌舞伎座) (C)松竹

『京人形』京人形の精=中村七之助(令和2年10月歌舞伎座) (C)松竹

今回出演している演目『京人形』については、「舞踊劇なのでこれだけ単体で見せるのはなかなか難しいですが、今回は説明セリフを足して、内容はわかりやすくなっていると思います。歌舞伎初心者の方にも見やすく面白い演目だと思う」と述べ、木彫り人形から徐々に踊りが変化していく様が見事だったという記者の感想に対して、「ここの踊りが難しい。毎回いろいろ試しながらやっています。木彫りの人形であるという意識を最後まで残しながらやる日もあれば、甚五郎と楽しく踊っているうちに徐々に人間になっていくという意識でやる日もあって自由度が高いというか、だからこそやっていて楽しい」と笑顔を見せた。また、「芝翫のおじと一緒に踊るのは久しぶりですが、同じ血が流れているというか、言葉では表しにくいですが、お互いなんとなく分かり合える感覚があって、安心してやらせてもらっています」と、甚五郎を勤める芝翫への信頼感をにじませた。

歌舞伎はお客様との距離が短い演劇

新型コロナウイルス感染症拡大の影響下で歌舞伎をやっていて何か思うところはあるか、という質問に対して「やはり生の舞台と配信と両立していかなければいけない世の中になってきているのかな、と感じています。現在、大向うは禁じられていますが、やはりいいところで声がかかるとすごく力になる。歌舞伎は伝統的なもので堅苦しいと思われがちですが、一番お客様との距離が短い演劇だと思う。お客様が声をかけて、その声が作品の一部になるという、お客様ありきの舞台だと思うので、やはり大向うがないのは悲しいですよね。8月に出演した『吉野山』の見せ場のシーンでは、心の中で自分で「中村屋!」と言っていたり(笑)。そこで自分を奮い立たせるような感じがある」と、これまで観客と共に作り上げてきた歌舞伎ならではの生の舞台への思いを述べた。

これまで『中村勘九郎 中村七之助 歌舞伎生配信特別公演』として2回の生配信を行ってきたことについて問われると「やるにあたって、最初は「どうなのかな」と思っていたけど、リアルタイムで鑑賞者が書き込んでくれたコメントを家に帰ってから読んでいたら涙が出てきた。そこで初めて「やってよかったなと思った」と、生配信ならではの手ごたえを感じた様子を見せた。

中村七之助

中村七之助

今後も公演の配信は継続していくつもりか、という質問には「続けるかどうかは、お客様のご意見によると思う。ただ、やるなら生配信がいい。先日の中村屋生配信の『連獅子』でなぜ私が仔獅子を演じたのかというと、つい最近勤めた配役だったり、またいつかどこかで見られるであろう配役では面白くない、じゃあ私が10年ぶりに仔獅子を踊ったら面白いかな、と思ったから。そういうことを考えてやらないと、配信はなかなか見てもらえないのではないですかね」と、比較的気軽に見られる配信だからこその難しさを語った。

女方として精進していくために心がけていることとは?

『十月大歌舞伎』では第四部に出演している、女方の大先輩といえる坂東玉三郎はどのような存在かという質問には「玉三郎のおじさまは大きい存在。今私がしているお芝居のほとんどを教えていただいているし、衣裳をお借りしたり、優しくしていただいています」と答え、女方として精進していくために心がけていることを尋ねられると「一番大事なのは、心がその役になっているということ。玉三郎のおじさまは、もちろん容姿も抜群に美しいですが、それは心から沁み出た美しさ。お客様から見えていないところでもしっかり演じるということを実践してくださっているお姿を見ると、私はまだまだだな、と思うので、見習って追求していきたい」と思いを述べた。

歌舞伎座へ足を運ぶお客様への思いを問われると、「生の舞台で、しかも歌舞伎座に来るというのは、いい意味でちょっと緊張するというか、テンションが一つ上がる感じがあると思うし、そこが面白さだと思う。舞台を見に行くというのは一日仕事だと思っていて、朝から『今日見に行くぞ』とワクワクして、着物を着たりオシャレをしたり。観劇後は誰かと感想を言い合ったりして、そうやって一日が終わる、というのが舞台の楽しみ方。ぜひ歌舞伎座に来て、雰囲気楽しんでいただきたい」と、呼びかけて取材会を締めくくった。

中村七之助 (C)松竹

中村七之助 (C)松竹

『十月大歌舞伎』は10月27日(火)まで、歌舞伎座で上演中。第一部の『京人形』は11時開演で、冒頭の常磐津ではコロナ禍だからこその特別バージョンとなっているので、ぜひお聞き逃しなく。

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取材・文・撮影(一部、松竹提供)=久田絢子