篠笛奏者・佐藤和哉が『リビコン』(※)に初出演する。佐賀県唐津市に生まれ、「唐津くんち」のお囃子を原点とする音楽家は、2013年に放映された朝ドラ『ごちそうさん』のテーマ曲、ゆずの「雨のち晴レルヤ」のモチーフになった楽曲「さくら色のワルツ」の作曲家としても知られている。

そんな佐藤和哉の『リビコン』は、10月25日(日)と、11月1日(日)の2週にわたって配信される。コンサートが収録されたのは、世界遺産・奈良薬師寺食堂(じきどう)。共演するのは佐藤自身がリスペクトするピアニストの妹尾武(せのおたけし)になる。


――まず、世界遺産の奈良薬師寺で演奏するに至った経緯を教えていただけますか。誰でも演奏できるようなところではないですよね。

僕が篠笛奏者として活動を始めた初期の頃、具体的には2012年になりますが、薬師寺さんの国宝・東塔の改修工事に際して、解体時の式典で、篠笛を演奏させていただいたのが最初のご縁です。東塔の先端に水煙宝珠があるのですが、そこに笛吹童子の像が刻まれていることもあり、式典で「ぜひ篠笛の演奏を」とお声掛けをいただき、唐津の「曳山囃子(ひきやまばやし)」をアレンジした「唐津囃子変奏曲」を奉納いたしました。


――「唐津囃子変奏曲」は、25日配信の『リビコン』の1曲目に、ソロで演奏している曲ですよね。

そうです。この曲は、自分にとって揺るぎない原点の曲であり、神仏と相対すると考えた時に、自然と心を寄せられると言うか、敬虔な気持ちにさせられる、一番まっすぐな自分を表現できる曲と言うことで、「唐津囃子変奏曲」を最初に演奏しました。

――演奏されている場所、食堂(じきどう)は、どういうところですか? 映像では全貌がなかなか観られないようなので、教えてください。

もともとは、大勢のお坊さんが一堂に会して、食事をなさる場所だったので、とても広いです。現在の建物は、2017年に再建されたものなので、新しくて、内部の柱を可能な限り取り除くことで、多目的に使用できるようになっています。そして、お寺なので、仏教の雰囲気が漂いながらも、内装がモダンというころもあり、斬新な空気感も感じられます。それを際立たせているのが、僕の背景に映る阿弥陀如来さまの壁画、天井に金色……、基本的には金色なんですが、実はいろいろな色にも見える、東塔の水煙宝珠のような飾りが施してあり、それがとても幻想的です。まるで、薬師如来さまの浄土に踏み入れたような感覚を憶えます。それを含めて、敬虔な気持ちになると同時に、心が開放されます。



――篠笛の響きとしては、いかがでしたか?

とても心地好かったです。あの建物の特長から適している楽器というのがあると思いますが、篠笛とピアノというシンプルな編成においては、すごく気持ちのいい響きになっていました。

――さて、そのピアノですが、今回も妹尾武さんが演奏されています。これまでにライヴ、レコーディングで何回も組んで来られた方ですよね。妹尾さんと組む理由というのは?

あんなにも気持ちよく笛を吹かせてくれるピアニストは、妹尾さんが初めてなんですよね。僕が思うがままに吹くのよりも、一緒に演奏した方がもっと気持ちよく吹くことが出来るんです。妹尾さんのピアノは、「佐藤君、こっちだよ」って奏でる方向をフワッと演奏で示して下さるんです。たとえがヘンかもしれませんが、「温水に巻き込まれながら漂える」みたいな気持ちよさがあります(笑)。



――その相性の良さは、最初からですか?

初めてスタジオで音を合わせた時に、10月25日配信の『リビコン』でも演奏している「舞姫」、この曲は、自分にとってとても重要な曲で、これまでに何百回と演奏していますが、「舞姫」の主人公「佐用姫(さよひめ)」が今まで見せたことがないような、せつなさと、情熱をあらわにした表情が見えてくるピアノだったんですね。僕の中からも今までとは違う音が引き出されることになって。うぁっ!! こんな「舞姫」を初めて吹きました、ありがとうございます!! とお礼を言ってから、ずっと一緒にやらせていただいています。

――それはなんでしょうかね。これまでにも妹尾さんが尺八と組んだりしてきた、経験が大きいですかね?

それもあると思いますが、妹尾さんご自身が和の雰囲気とか、味わい深いものがお好きなようです。今回の「リビコン」も、司会者・桂福丸さんの出囃子をピアノで演奏される場面がありますよね。そういう感性というか、おそらく和の要素をどこかで意識されていると思います。


――演奏される楽曲ですが、オリジナル以外に、森山直太朗さんの「夏の終わり」と、中島みゆきさんの「糸」といった歌もありますよね。

この2曲は、アルバム『唄の音』で、僕自身が強く共感し、心打たれる曲としてレコーディングしました。「夏の終わり」は、学生時代にカラオケで歌ったりしていたのですが、森山さんのようなファルセットできれいに歌うのは本当に難しいのに、篠笛で歌ってみると、すごくきれいに音が出せるんですよね。今回演奏するにあたり、最初は季節的にどうかなと迷うところはありましたが、でも、“夏から秋”にということと、戦争を背景に作られた歌ということもあり、深い気持ちを込めて奏でられる曲なので、選ばせていただきました。

中島みゆきさんの「糸」については、普遍的な人と人との縁を歌っていて、僕なんて人の縁で生かしていただいているような人間。薬師寺さんのご縁も、妹尾武さんとのご縁もそうです。なので、いろいろな人に伝えていくべきメッセージだと思い、演奏しました。

篠笛奏者 佐藤和哉「糸」with 妹尾 武(ピアノ)

――さらに2週目では新曲を演奏されると聞いていますが。

長年東塔が完成した際に奉納できる曲を、ということで構想を練ってきた「瑠璃色の光」という曲です。タイトルの“瑠璃色”というのは、薬師如来さまが人々をお救いになる時に発せられる色だと言われているんですね。瑠璃色の光で人々を癒すと。そういう光になるような音、曲になって欲しいとの思いで、このタイトルにしました。曲は、構想の段階で、薬師寺が玄奘三蔵と深い縁があるお寺ということを念頭に置きました。彼は、中国からインドまで自分の仏教とは何なんだという問いの答えを求めて苦難の旅をされますが、そんな苦行を経ながら、救いを求める姿勢をイメージして、メロディーを作りました。なので、苦しみ、悩みといった雰囲気が漂うなかで始まり、途中でパッと救いの光が差すような曲になっています。そして、薬師寺さんとのお付き合いの中で般若心経を学ばせていただいていることもあり、終盤に“ぎゃーてーぎゃーてー♪”と唱えながら、再現させた声明を盛り込んでいます。

――今回初めて『リビコン』に出演されていかがでしたか。

とても有意義に感じています。こういう新しいカタチで音楽を届けられるのは、僕にとってもありがたいことです。配信は、距離を一気に飛び越えられる力があると思っています。1週目は、初めての経験に緊張してしまいましたが、『リビコン』をお客様にどう受け取ってもらえるか。反響も楽しみです。

――篠笛を演奏する美しい手元がバッチリ見られます。これも映像の配信ならではの良さですよね。

日本の横笛というのは指を伸ばして押さえないと、押さえられないような作りになっているんですね。それが自然と指を美しく見せることになるのだと思いますが、それはきっと笛を作ってきた職人さんたちの美意識の追求があってこそのもの。篠笛には指をきれいに見せる魔力があるんだと思います(笑)。

――高画質の映像に加えて、レコーディングでいつも組んでいるレコード会社のエンジニアが録音を担当しているので、篠笛の音も配信とは思えないほど美しいので、映像と共にご注目いただきたいと思います。

篠笛奏者 佐藤和哉 | Je suis Kazuya Sato | Mont-Saint-Michel

取材・文=服部のり子

(※)『リビコン』とは:「芸術は死なない……エンタメを止めるな!」をコンセプトに2020年6月からはじまった『【Streaming +】LIVING ROOM CONCERT(ストリーミングプラス リビングルームコンサート)』の新シリーズで、9月よりスタート。