2020年6月から愛知、東京、大阪での上演を発表し、その後新型コロナウイルスの影響で公演延期となった音楽劇『プラネタリウムのふたご』だが、2021年2月の延期公演が改めて決定した。

本作は、2004年、三島由紀夫賞候補にもなった、いしいしんじの同名傑作小説を、ハイパープロジェクション演劇『ハイキュー!!』の孤爪研磨役、ミュージカル『リューン〜風の魔法と滅びの剣〜』などでも活躍する気鋭の若手俳優・永田崇人(ながた たかと)と、ミュージカル『テニスの王子様』3rdシーズンで越前リョーマ役を演じた阿久津仁愛(あくつ にちか)の二人をW主演として繰り広げられる。
公演が延期となる以前に本作についてインタビューを行ったが、今回演出・脚本のウォーリー木下を交えて改めて永田、阿久津に今の心境を伺った。

ーー公演が中止になってから改めて再開が決まった時、皆さんの想いはまた格別だったのでは?

阿久津:少し不安な気持ちもありましたが、それ以上に公演が出来るという事に嬉しさがありました。それにステイホームで時間があるから自分の中で改めて台本を読んでもっと視野を広げていけるなとも感じたので、むしろこの期間にはメリットがいっぱいあるなと思いました。

永田:やっぱりありがたいと思いましたね。あの時期にたくさん日の目を見なかった舞台がある中で、延期という形でもやれるという事に感謝の気持ちでいっぱいです。

ウォーリー:今崇人が言ったとおり、あの頃はかたっぱしからあらゆる作品が日の目を見なかった。そのなかから歴史を変える作品もあったかもしれないのに全部なくなってしまって、改めてすごい状況だなと。同時にですが、僕はこの作品を10数年前からやりたかったので、やりたいと言い続ければきっといつか夢はかなうと思っていたんです。だから今はやれなくなったけど10年後くらいにはできるはず、そういう気持ちで舞台を作りたいと常々思っていたんです。

ウォーリー木下

ウォーリー木下

ーーこの作品、中止になる前はどこまで進んでいたんですか?

ウォーリー:あと少しで稽古が始まるって頃でしたね。緊急事態宣言が出てそれの解除と稽古開始が近いくらいの頃だったかな。でも見渡してもまだ全然収まっていないし、やっていいのかと考えていました。感染対策も今ほどガイドラインがなかったですし、危ない事のほうが多かったので上演を延期したんです。でも音楽や美術、衣裳などスタッフワークは一そろい仕上がっていてあとはキャストと一緒にやっていこうとしていたんです。

ーーそんな状況を経て今回どんな作品を作りたいと思っていますか?

ウォーリー:変わった事は特にはないですね。これから稽古場で「こういう時期だからできない事」など洗い出す必要はあるとは思うんですが、作品のテーマをいじるとか戯曲を変えるとかは基本的にはないです。

で、今は一生懸命中止前の事を思い出しています(笑)。人間の記憶って恐ろしいものですね。つい最近音楽家たちと打ち合わせをしたんですが、「あの時こう言ってましたよ」って指摘がたくさんあって(笑)。まあ、当時はぼんやりとしていた事を今明確にしようと、いい方に捉えています。
劇中のマジックの打ち合わせもたくさんしていたはずなのに、まったく覚えていないんですよ。だから今逆に新鮮に驚くことが出来ています。「こんな事できるんだ!」って。

永田・阿久津:(笑)。

永田:ウォーリーさんが忘れっぽい方だなという事は感じていますね(笑)。ウォーリーさんに前回の稽古で「こうやって」と言ったとおりにやってみると、「あれ、そんなこと言ったっけ? ……あっ! 思い出した!」って事が何度かありまして。「ウォーリーさんあるある」ですね(笑)。

ーーお二人の役どころについても伺いたいです。

永田:時間が経ったからかもしれませんが、自分の中ではもはや僕と仁愛でしかふたごのイメージが再生されなくなってしまったんです。だから逆に一度フラットな目線で台本を読み返す必要があるかな、大事な事を見失ってしまっているんじゃないかなと思って台本に臨んでいます。

阿久津:僕は、逆に崇人くんと僕でふたごが再生されればいいなと思っています。でも正解はないので崇人くんが言うようにフラットな目で読み直すのもいいんじゃないかなって思っています。ふたごはかわいいんです。僕は可愛げがないので……。

永田:(真顔で)いや、可愛いよ! 可愛さしかないよ(笑)!

阿久津:ナイナイ(笑)。

(左から)阿久津仁愛、永田崇人、ウォーリー木下

(左から)阿久津仁愛、永田崇人、ウォーリー木下

ウォーリー:自分の事、普段は可愛くないと思っているんだ! 小憎たらしい事とか嫌な事を考えているんだ? 純粋じゃないんだ。外から見ると純粋に見えるけどね。

阿久津:そうですね。純粋じゃない自分がいますね。猫被っているんですよ(笑)。だから僕が演じるタットルは純粋な少年なので、演じる僕も私生活でちょっと何かを信じてみたりしないとなと。

永田:きっと仁愛はいい人だからこそ自分はいい人じゃないってコンプレックスが強いんじゃないかな? 純粋だからこそ逆にね。

阿久津:ああ、それならよかったぁ(笑)!

ウォーリー:この作品の中でもあるけれど、自分が真っ黒な闇に落ちた事はある?

阿久津:あるとは思いますね。

永田:衣裳にコーヒーをこぼしたとか……(笑)。

阿久津:(笑)。行動には起こさないですが、今自分はダメな事を考えているってふと気づく事はありますね。

ウォーリー:でも誰もが同じ事があるから。

永田:ウォーリーさんの芝居はいろいろ凝り固まったものをもっていっても意味がないと思うんです。皆を見ながら役が作られていく部分が凄くあるんです。「これはこうだ!」という締め付けがないというか。僕が演じるテンペルはお調子者ですが、徐々に地に足がついてきて自分以外の人への優しさが持てる青年になるととらえているんです。これから稽古場でいろいろ探していきたいです。

永田崇人

永田崇人

ウォーリー:そもそもこの二人が演じるふたごは良く分からない登場人物で、その良く分からない感じが重要だと思っているので、二人から浮かび上がってくる何かから活かして作っていきたいと思っています。原作を読んでも分かりにくいところがあるので、10秒後何が起きるのかわからない状態で作品がドライブしていくのでそういうところを大事にしていきたいですね。

ーー改めてこの原作を戯曲にする際に大切にしようと思った事はなんですか?

ウォーリー:これは一つのテーマだけではくくれない作品なんです。登場人物もたくさんいますし、人間のドラマもあり、また人間じゃないもののドラマもあったりしてそれらが絡み合っている……それがいしいさんの作品の魅力なんです。「人をだます」それは、僕らの職業と重なる部分なのですが、どうやって嘘を嘘として僕らは受け止めていくのか、がテーマとしてあるんです。演劇人としてはそこに興味があるので、そこをいかに深く掘り下げていくかに注力したという想いがありますね。
「人をだます」事は、舞台だから逆に出来る事があると思うんです。「例えば目の前に大きな象がいます」と僕らが言えばお客さんはそれを想像してくれるんです。これが映画とかなら実際に象を出して説得力を出すんでしょうけど、舞台では想像の世界をお客さんも楽しんでいく……。あえてこの時期だからこそ言いますが、舞台表現はなくならないだろうなと。そこにしか得られない体験ってきっとあると思っているんです。別に演劇讃歌という事でもないですけどね。

永田:ウォーリーさんもおっしゃっていましたが、「騙される」才覚があるので幸せに生きていけるよね、ってすごく思うし、舞台を観たりやったりしながらもそれを感じます。でもこの作品ってウォーリーさんだなぁって思うんです。台本を読んでいると、まるでウォーリーさんが読み聞かせをしてくれているような感覚になるんです……ちょっと嫌ですけどね(笑)。

ウォーリー:(笑)。

永田:作品を読みながらすごく共感していたんです。些細な事を例に挙げるなら、人間ってずっと騙し合いを続けているじゃないですか。「あなたの事とても嫌いだけど、今は嫌いじゃないって想いで見ている」てこと、あると思うんです。ふたごの事を想いながら一つ考え始めると「あれ、これも嘘? どれが嘘じゃないの?」って思えてきてそれがむしろ面白くなっていきました。

阿久津:僕も嘘がちょっと好きになったというか、嘘や騙す事に対するイメージが台本を読んで自分の中で変わりましたね。普通、台本を読めばその世界観が分かるはずなんですが、この作品は台本を読んでもまだどうなるのか想像できない部分もあったりして、何回読んでも楽しいんです。またこの一冊の中にいろんな物語が詰め込まれていて、いろいろな感情になるので、一つひとつの場面を大事に演じたいと思っています。この作品と出会ってから星に興味が沸いて、プラネタリウムに行く機会も増えました! 興味の幅が増えたなって感じます。

ーーさきほどウォーリーさんが「演劇讃歌じゃないけど」とおっしゃっていましたが、永田さんと阿久津さんはここに至るまでの期間の中で演劇に対する想いに変化はありましたか?

永田:僕は今回演劇『ハイキュー!!』が始まるまでは1年間くらい舞台をやっていなかったんです。で、演劇『ハイキュー!!』の稽古が出来て本番が出来たとき、生きててよかったな、僕、舞台が好きなんだなと凄く実感したんです。

阿久津:僕も演劇『ハイキュー!!』のゲネプロを観に行ったんですが、やっぱり人の舞台を観ると無性にやりたくなりますね。キラキラ輝いている姿や音楽、照明の迫力に感動しっぱなしで。ミュージカル『テニスの王子様』の公演が終了してから、そういう舞台を観ると寂しくて恋しくなるんです(笑)。今は本当に舞台をやりたいですし、身体を動かしたいです! うずうずしています。

阿久津仁愛

阿久津仁愛

永田:まあ、作品的にも凄くアクロバットな事が要求されるしね……ってこれ、違うか(笑)! ちなみに「テニミュ」は全公演完走できたんだっけ?

阿久津:はい。でも『ドリライ』(Dream Live 2020)が全公演中止になって。DVD用に舞台は撮影したんですが、お客さんがいない状態でカメラに向かって芝居をするというのは、変な感じですね。舞台にいるのに一点を見つめて芝居をしないとならないので(苦笑)。

永田:お客さんがいなければ舞台じゃないもんね。

阿久津:そうなんです。お客さんがいるとそれだけで響きも何もかもが変わりますから。
ウォーリー:演劇に関して僕がちゃんと肝に銘じないとならないと思ったのは、この期間中、演劇の構造について何度となく話が出たと思うんですが……僕らは文化的にどうやって認められていくべきか、とかね。それは僕も考えないといけないし、今も考えているんですが、時間が経つと喉元過ぎれば……となりそうになるので、若い世代に忘れずに引き継いでいかないと将来また同じ事が起こりうるし、その時にまた「演劇は不要不急で」になってしまうのは良くないなと思うので。同時にじゃあ戦争が起きた時に僕は演劇をやっているのかな、って考える事もあるんです。そういう時に演劇という手法を使って違う活動ができるかもしれないですし、ある意味演劇って便利なのでその便利さを自分なりにいろいろな活動に還元していかないとと考えています。
まあ、あの期間中は睡眠時間がたくさんあるぞ、とかゆっくり暮らしていたというのもまた事実ですが(笑)、今となれば10年先、20年先の事をいろいろ考えていかないと、と思っています。

(左から)阿久津仁愛、永田崇人、ウォーリー木下

(左から)阿久津仁愛、永田崇人、ウォーリー木下

取材・文=こむらさき  撮影=池上夢貢