三木眞一郎と倉本朋幸(演出家・映画監督)によるリーディングユニット“みきくらのかい”の第二回公演『怪談贋皿屋敷(かいだんにせさらやしき)』が、2020年12月19日に東京・日本教育会館 一ツ橋ホールにて上演された。ゲストは宮野真守。

ここでは、公演前日12月18日に行われたゲネプロのレポートをお届けする。ゲネプロを終えた三木と宮野の対談インタビューも、後日公開予定だ。

※本記事では、一部、物語の内容について触れています。

10以上もの役をたった2人で担当

「言葉の力」を大切にするみきくらのかい。これまでも、劇団扉座・横内謙介氏の作品を題材に、実力のある声優にしかできない読み聞かせで、日本語の美しさや強さをシンプルに伝えるという徹底的にリーディングにこだわりぬいた公演を行ってきた。

さらに、みきくらのかいのスタイルの特筆すべき点はもうひとつ。それは、多くの登場人物を2人で演じていくこと。三木と宮野は、『怪談贋皿屋敷』に登場する10以上もの役をたった2人で担当した。全く異なる感情を瞬時に切り替え、それぞれの役を生き生きと表現してしまう技術は、まさに声優ならでは。観客は、あっという間に物語の世界へ引き込まれていく。

『怪談贋皿屋敷』あらすじ

『怪談贋皿屋敷』の舞台は、江戸時代。ファンキーでいかれた悪徳旗本・青山播磨(宮野)と、自分に自信のないうすのろ女中・お菊(三木)の切ない恋物語が描かれていく。遊び放題、金も使い放題で悪い噂の絶えない播磨は、ある日御用金を枯井戸に隠し、横領することを画策する。

そんな播磨の身辺を探る捜査の目から逃れるため、家老の山岸次郎佐衛門、彦兵衛、謎の協力者・園部上総之介の三人は、播磨にある妙案を進言。それは、枯井戸で死んだ女の呪いをでっちあげ、幽霊の呪いによって、世間や捜査の目をあざむくというものだった。うすのろ女中・お菊は、その幽霊役として彼らの陰謀に巻き込まれてしまい……。

【ゲネプロレポート】

“みきくらのかい”第二回公演「怪談贋皿屋敷」撮影:大石隼土

“みきくらのかい”第二回公演「怪談贋皿屋敷」撮影:大石隼土

派手な舞台セットや演出ではなく、シンプルに芝居そのもので物語を紡いでいく本公演。舞台上には、それぞれのテーブルとイスがあるのみだ。テーブルの上には、皿や刀、小判といったごく限られた小道具と台本がある程度。やがて舞台に、黒い着物を羽織った宮野と白い着物を羽織った三木がゆっくりと登場。言葉は発せず、ただ顔を見合わせ、軽く微笑み会釈する2人。役者同士の醸し出すその雰囲気に、思わず息を飲む。

物語は、意外にも現代からスタートする。軽く笑いをとりながら、自然に観る者を引き込んでいく宮野。この怪談が、人に語り継がれることに大きな意味がある物語なのだと印象付けたところで、背景に黒幕と枯井戸を模した舞台装置が下りてくる。本編のはじまりだ。

怪談とは思えないかわいらしさ

枯井戸の周りで話し込む女中たち。皿を割ってしまったとメソメソ泣くお菊(三木)と、それをからかう先輩女中、嫌味を言う女中、お菊を励ます優しい女中たちが、テンポのいい会話をくり広げていく。したたかで生き生きとした女中たちの話しぶりから、それぞれのキャラクター像が浮かび上がってくる。

先輩連中が去り、ふたりきりになったお菊と彼女の味方となる女中・おマキ(宮野)との会話は、とても愛らしい。自信のなさからネガティブな性格のお菊を、三木が唇を尖らせながら演じる。「好きな人のことを想えば美人になる」「生きたまま生まれ変わらなくっちゃ」と励ますおマキを演じる宮野も、すっかりお姉さんだ。笑顔の練習として、宮野が実際にお手本の笑顔を作ってみせる。笑顔を恥ずかしがるお菊を、三木がいじらしくかわいらしく演じる。オルゴールのようなBGMと年ごろの女の子ふたりの健気な会話に、これが怪談であることを忘れてしまうほど。

だが次のシーンでは雰囲気が一変。宮野演じる悪徳旗本・播磨(宮野)や、三木が演じる家老の次郎佐衛門が、横領金を隠すための悪だくみをしていたのだ。

三木眞一郎/“みきくらのかい”第二回公演「怪談贋皿屋敷」撮影:大石隼土

三木眞一郎/“みきくらのかい”第二回公演「怪談贋皿屋敷」撮影:大石隼土

豪快な播磨や、狡猾な次郎佐衛門、謎めいた男・上総之介(三木)らが次々と登場するが、声色ではなく芝居そのものでそれぞれを演じ分けていくふたり。特に三木ひとりで演じる次郎佐衛門と上総之介の会話は、性格も年齢もまったく違うふたりを瞬時に入れ替えていく様が見事。その間セリフのない宮野がおもむろに水を飲んだのだが、まるで豪快に酒を飲む播磨そのものの仕草だった。

ここから、物語は次郎佐衛門と上総之介の悪だくみによって意外な方向に動き出す。

すれ違う、切ないラブストーリー

気まぐれな播磨に惹かれ、少しずつ変わっていくお菊。「生まれ変わってみます!」と指きりげんまんで約束したお菊は、播磨のために身なりをきれいにしてみたり、暗い性格を改めて楽しいことだけを考えたりするうちに、どんどんポジティブになっていく。自分のことが嫌いで自信が持てなかったお菊が、恋をして変わっていく様を、実に愛らしく演じる三木。そんなお菊の素直さの前では、播磨も普段は見せない孤独や弱さを出すように。心の変化に合わせて、旗本としての張った声から、穏やかで優しい話し方になるのが印象的だった。確実にすれ違いながらも、不思議と心の距離が縮まるような播磨とお菊の会話は、まさにラブストーリー。

宮野ならではのコミカルさで笑いも

宮野が演じる伊達男・播磨の魅力はもちろん申し分ないが、それ以上に、本人が楽しみながら演じているのが特に伝わってきたのが、幽霊らしい幽霊や優しい女中・おマキを演じているとき。宮野ならではの振り切ったコミカルさと、それでいてどこか人間味のある掛け合いのリズムに、グイグイ引き込まれていく。シリアスかつ怪談モノのリーディング劇で、ここまで笑うことになるとは。

読むのではなく、演じる

基本的には、椅子に座り正面を向いたまま台本を読み進めていくが、三木も宮野も、ただ怪談を朗読しているのではない。物語に登場する様々な立場の人間たちの悲喜こもごもを、ひとりひとり丁寧に演じていくのだ。読むのではなく、物語の中に入って演じているからこそ、こんなにも生き生きとした世界が現れる。

宮野真守/“みきくらのかい”第二回公演「怪談贋皿屋敷」撮影:大石隼土

宮野真守/“みきくらのかい”第二回公演「怪談贋皿屋敷」撮影:大石隼土

前半で何度も笑わせ、観る者の心がほぐれたところに、後半は怒涛の展開が押し寄せる。人間の業や狂気、情念、儚さや哀しさといった感情に心が動かされる体験は、生の芝居ならでは。人の心から生まれた怪談噺だからこそ、描かれるのは徹底的に人間の弱さや怖さだ。ただのラブストーリー以上に胸を打つ、播磨とお菊の切ない恋が、そこにはあった。

みきくらのかいは、近いうちに新しいお知らせを届けられるよう準備を進めているとのこと。公式サイトやTwitterでアナウンスされるそうなので、お見逃しなく。