ウィーン楽友協会大ホールの音響を理想として1990年に作られた、客席数821席の住友生命いずみホール。

フランスのケーニヒ社製のパイプオルガンを有し、シューボックス型のクラシック音楽専用ホールは、1.8〜2秒という理想的な残響時間を誇り、ファンの間では大層人気のホールだ。年間30公演を超える自主企画を打ち出し、主体的に情報発信を行うホールとしても知られているが、とりわけ、ホールのレジデントオーケストラ「いずみシンフォニエッタ大阪」の活動は、クラシック音楽ファンの一部に熱狂的に支持されている。

住友生命いずみホール内観   (C)樋川智昭

住友生命いずみホール内観   (C)樋川智昭

このオーケストラが、大阪の4大オーケストラ等と違うのは、現代音楽の演奏を主目的としているところ。メンバーは、関西ゆかりの腕利きが揃う事で知られており、既存のオーケストラに所属する奏者も名前を連ねている。

2月に開催される第45回定期演奏会は、指揮者に大井剛史、独奏にサクソフォン奏者上野耕平を擁して、21世紀の作品を中心に捻りの効いたプログラムを演奏すると言う。音楽監督の西村朗が、二人の現在の活躍と、未来の飛躍をイメージして付けた「飛翔する感性」というタイトルは、まさに言い得て妙。チケットは完売目前だそうだ。

音楽監督 西村朗   (C東京オペラシティ撮影:大窪道治)

音楽監督 西村朗   (C東京オペラシティ撮影:大窪道治)

「難しい現代音楽は客を選ぶ!」と言われて久しいが、いずみシンフォニエッタ大阪の演奏会が広く支持されるのは、現代音楽ファンだけではなく、新しい音楽や知らない音楽をもっと知りたい!という、知的好奇心の強い一般の音楽ファンまでも、上手く取り込めているからではないか。言わば、広報宣伝の勝利!

ならば、ぜひ「SPICE」の読者にもその情報を届けないと…。ぜひお付き合い願いたい。

今回のプログラム、前半にストラヴィンスキーの「ダンス・コンセルタント」を置くが、20世紀の作品はこれだけで、その後に演奏するヒグドン、酒井健治、カーゲルの作品はすべて21世紀に入ってからの作品。それだけ聞くと、「現代音楽は、調性や旋律が無くて、良くわからなくて…!」と、やはり聴く前から投げ出したくなる気持ちも分からなくはないが、スルーしてしまうのは少々勿体なく残念な、とても魅力的な演奏会になりそうなのだ。

指揮者の大井剛史と、サクソフォン奏者の上野耕平に今回の聴きどころを語ってもらった。


大井剛史 いずみシンフォニエッタ大阪を指揮させて頂けるのなら、関西の作曲家を取り上げたいと思い、大好きな作曲家、酒井健治さんの作品を取り上げる事にしました。酒井さんが芥川作曲賞を受賞された選考会で彼のヴァイオリン協奏曲を指揮したのですが、ある音から次の音に行く時のエネルギーの強さや、音の選択の確実さに驚きました。そしてその何年か後に、彼の「Photons(光の粒子)」の日本初演を指揮しました。ソリストは、世界初演も果たしたサクソフォン奏者の大石将紀さんで、これがとても素晴らしかったのです!大石さんといえば、現代音楽のスペシャリスト。彼にしか演奏出来ないのではないかと思うほど、特殊奏法が詰め込まれた曲だったのですが、色々な人が演奏しないと作品は広がらないので、私が最も信頼している上野耕平さんと一緒に、今回取り上げる事にしました。この曲は10分ほど。お客様はもっと上野さんの演奏を聴きたいと思われるはずなので、作曲家ジェニファー・ヒグドンを紹介する意味も込めて、彼女の「ソプラノサクソフォン協奏曲」も演奏します。この2曲については、上野さんが詳しく語ってくれると思います(笑)。

サクソフォンの2曲を真ん中に、オープニングの曲は現代音楽の古典、ストラヴィンスキーの「ダンス・コンセルタント(協奏的舞曲)」を演奏します。コンサートのために書かれた、抽象的なバレエ曲の形式を持つ作品ですが、イマジネーションを掻き立てられる曲で、今回のオープニングには相応しいと思います。

悩み抜いたメインの曲は、プログラム・アドバイザー川島素晴さんからご提案を頂いたマウリシオ・カーゲルの「DIVERTIMENTO?」です。楽譜を見て、これはいずみシンフォニエッタ大阪でないと演奏は無理!この機会を逃すと、この後いつ出来るか分からないと思い、大変だけれどもやってみようと思いました。カーゲルと云えば、いずみシンフォニエッタ大阪の代名詞とも云える作曲家。指揮者が倒れたり、ティンパニが破れたり、過剰な演出も作品の一部として知られている作曲家ですが、今回取り上げる “嬉遊曲” の意味のある「ディベルティメント」には “?” が付いています。これは何を意味するのか。副題に「アンサンブルの為のファルス(笑劇)」と書いてある通り、やはり演劇性を求められる作品ではあります。奏者は、指示通りに演じている間、楽譜を見る事が出来ません。ということはその部分、暗譜の必要があります。また、指揮者が指揮をしない箇所も多く、そこは奏者同士のアンサンブルで進める必要があります。難曲を苦労して演奏したその先に、笑いが求められる(笑)。果たして、笑いの本場大阪でウケるのか。演奏同様に、そちらもプレッシャーです(笑)。今回は、あまり予習をし過ぎない方が楽しめるかもしれません。現代音楽にはこんな世界も有るということで、どうぞお楽しみになさってください。

大井剛史    (C)K.Miura

大井剛史    (C)K.Miura

 

上野耕平 酒井健治さんの「Photons」は、単音楽器のサクソフォンに対して重音や四分音、フラジオレットと云った特殊奏法が曲の流れの中で頻繁に出て来ます。しかも4つの重音のうち、上から二つ目の音を強調するようにといった指示まである。サクソフォンでこんなことが出来るよ、凄いでしょう!ではなく、流れの中でさらっとやることを求められた特殊奏法。これは演奏家としては燃えます。技術面をクリアし、音楽的な境地に踏み込めば、その向こうには凄い世界が待っているだけに、チャレンジ精神を掻き立てられますね(笑)。皆さんが聴いたことのないサクソフォンの響きをお聴きください。ヒグドンの曲は、オリジナルはオーボエの曲ですが、ソプラノサクソフォンにはとても合います。こちらは特殊奏法は出て来ませんので、ソプラノサクソフォンの持つ抒情的な音色を堪能していただければと思います。

上野耕平

上野耕平

現代音楽の魅力をわかりやすく届けてくれる、いずみシンフォニエッタ大阪の定期演奏会。先日、来年度のラインナップも発表された。来年度も年2回の開催で、従来にも増して魅力的なプログラムが並ぶ。来年度の定期演奏会のコンセプトと聴きどころを、制作担当の梅垣香織に聞いた。

梅垣香織 いずみシンフォニエッタ大阪(ISO)は、2020年度創設20周年を迎えました。21年目、新たな一歩を踏み出すにあたり、オーケストラと常任指揮者・飯森範親による音楽作りを、更に盤石なものにしようという方針が、西村音楽監督より打ち出されました。この方針を受けて、ここ数年は年間2回開催している定期演奏会のうち、1公演は客演指揮者をお招きしているところ、2021年度は2公演とも常任指揮者の飯森範親が出演することになりました。そして、飯森より2つの公演(第46、47回定期演奏会)のメイン曲となる、ツェムリンスキーの「叙情交響曲」とバルトークの「管弦楽のための協奏曲(オケコン)」をISOの編成に合わせて披露したいというアイディアが提案され、それぞれの公演のメイン曲が決まりました。飯森はこの2つの作品をいつかISOのメンバーと奏でたいと、以前より考えていたそうです。

常任指揮者 飯森範親    (c)山岸伸

常任指揮者 飯森範親    (c)山岸伸

第46回定期演奏会は、先に決まっていたツェムリンスキーが生誕150周年であることから、もう1人2021年がアニバーサリー・イヤーの作曲家を取り上げようと調査を開始。ピアソラが生誕100周年であったため、ピアソラの「バンドネオン協奏曲」の再演が候補になりました。ピアソラの代名詞である「リベルタンゴ」や「オブリビオン」を協奏曲に組み合わせれば、ピアソラの音楽を多角的にお伝えできるのではないかという飯森の提案により、短い2曲も決まりました。バンドネオンの名手・小松亮太氏にソロをお願いすることは、自然に決まりました。

第47回定期演奏会は、結果的に坂田直樹、川島素晴(編曲)、西村朗という3世代の日本人作曲家の作編曲の作品を特集することになりました。飯森からの提案で、バルトークの「オケコン」を川島素晴がISO版に編曲を施し、プログラムのメインとすることが最初に決まりました。川島素晴はこれまでも、ベートーヴェンの「皇帝」やマーラーの「大地の歌」などクラシックの名曲を、ISO編成にアレンジして評価を得ています。

また不定期に実施している、関西出身若手作曲家委嘱プロジェクトの第8弾は、譜面審査を経て、京都府出身で現在はフランスにて研鑽を積む坂田直樹氏が選ばれました。新作をオープニングで取り上げます。

以前より、オーケストラのメンバーや西村音楽監督が望んで来た、小菅優氏との共演が決定しました。曲は、西村音楽監督のピアノ協奏曲「シャーマン」がいいんじゃないかと。この曲、飯森範親がドイツで初演をした際のソリストも小菅優氏だったことから決まりました。ISOでは第7回定期演奏会でも演奏した曲で、今回は再演となります。

以上のような経緯で、来年度2回の定期演奏会のラインナップが決定しました。皆さま、引き続きいずみシンフォニエッタ大阪をよろしくお願い致します。

いずみシンフォニエッタ大阪   (C)樋川智昭

いずみシンフォニエッタ大阪   (C)樋川智昭

記念すべき20周年の今年、コロナの影響により華やかなアニバーサリーイヤーとはならなかったが、気持ちも新たに21年目のスタートを切るいずみシンフォニエッタ大阪。

音楽監督 西村朗、常任指揮者 飯森範親を中心に、意欲的なプログラムを引っ提げて更なる快進撃は続きそうだ。来年度もいずみシンフォニエッタ大阪から目が離せない!

取材・文=磯島浩彰