金属恵比須・高木大地の<青少年のためのプログレ入門>(番外編)
『映画 えんとつ町のプペル』アニメーション監督に突撃!
同級生交歓でこの人に会いたい〜東京都立西高校編〜

2020年12月25日に公開され、話題沸騰中の『映画 えんとつ町のプペル』。

アニメーション監督が同級生だった。東京都立西高等学校、1999年卒である。

映画公開2日前の2020年12月23日、筆者は奇しくもメジャー・レーベルよりアルバムを発表する。聖飢魔Ⅱ創始者・ダミアン浜田陛下のプロジェクトDamian Hamada’s Creaturesのアルバム『旧約魔界聖書 第II章』だ。『映画 えんとつ町のプペル』と『旧約魔界聖書』。まったく接点のない作品なのだが、アニメーション監督である佐野雄太氏と筆者(ときどきラスプーチン)は高校時代の同級生なのである。その縁だけで対談が実現した。

なお、筆者が連載している雑誌『モノ・マガジン』にて「同級生交歓でこの人に会いたい」はすでに2回行なっている。今回は『モノ・マガジン』了承のもと、この「プログレ入門」でも取り上げさせていただいた。ちなみに今回は全くプログレの話題には触れていないことを最初にお詫び申し上げます。

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

©西野亮廣/「映画えんとつ町のプペル」製作委員会

 

■「俺も負けてられんなと」(佐野)

佐野 大地がメジャー・デビューしたのをネットニュースで知ってびっくりしたよ!

高木 「聖飢魔IIの創始者である“地獄の大魔王”ダミアン浜田陛下、10万59歳で世界最高齢メジャーデビュー」という記事かな?

佐野 そう! 面白そうで開いたら「金属恵比須」の名前を見て「大地のバンドじゃん」と思って読み進めたのね。だけど大地には気づかなくて。「『大地“ラスプーチン”髙木』ってスゲー名前のメンバーいるな」と思ったんだけどそれでも気づかなくて(笑)。よくよく見たら、「大地じゃん!」とやっと気がついた。

高木 “改臟人間”になると意外と気づかれないものなんだね(笑)。

佐野 衝撃を受けたよ! 俺も負けてられんなと思った。

高木 僕もネットニュースで『映画 えんとつ町のプペル』のアニメーション監督ということを知ったよ。これは先を越されたなと焦った(笑)。お互い同じ気持ちになったんだね。

高木大地〜出身校の東京都立西高等学校前で

高木大地〜出身校の東京都立西高等学校前で

 

■「アニメーション監督はキャラクターに命が吹き込まれるようにする仕事」(佐野)

高木 “アニメーション監督”は『映画 えんとつ町のプペル』が初だったのかな?

佐野 劇場作品ではそうだね。

高木 どういった経緯で?

佐野 廣田裕介監督から「フルCGの映画をやるんだけど、アニメーション監督がいないんだよね」という話を聞いて、「じゃあ、自分やらせてください」と答えた。

高木 立候補した感じ?

佐野 うん。「え? やってくれるの?」と驚かれた(笑)。

高木 アニメーション監督とはどんな仕事?

佐野 キャラクターに命が吹き込まれるようにする仕事だね。CGの動きに本物の動きの重さがあるように見えるかを確認していく役目。例えば、レベッカだったら喜んだ時には飛び跳ねるだろうな、みたいに考えながら動きを決めていく。

高木 実写でいうところの演技指導かな?

佐野 そう、まさに。

佐野雄太

佐野雄太

 

■「『インディ・ジョーンズ』や『野生の証明』を彷彿とさせた」(高木)

高木 プペルのミシンの縫い方が印象的だったな。

佐野 ものに触れる動作は難しいんだよね。CGだと登場人物と布を動かすことは簡単にできるんだけど、別々に動いているんじゃ触れてるようには見えない。布は軽いけど浮いている訳じゃないからちゃんと重さも質感もあるでしょ。更に手には手の質感があってそれが連動してないといけないの。本作ではそういうところ全てに気を使ってクオリティ高いものにできたと思う。そして、あのミシン、プペルがだんだん上達していくようにしてるんだよ。

高木 そんな細かいところまで。気づかなかった! 大変だったことは?

佐野 登場人物の感情を表すのが大変。人って悲しい時に悲しい顔をするわけじゃないよね。

高木 そうだね。

佐野 アニメのキャラクターってデザイン化されたものだから細かい感情の内面を表すのが難しいんだよね。例えばゴミ人間のプペルは無機質な素材でできた顔。その顔を笑わせるためにパーツを曲げることはできるけど、それをやりすぎるとゴムのように見えちゃうから。笑った目になったらそのままの形にしておくようにしたりとか気を配った。シリアスな場面は、パーツのちょっとした変化で感情を想像させるような。ルビッチとプペルの決別の場面とかをそうしてる。登場人物がどう思っているか考えさせるような動きにしたくて、少ない演技の中からも感情を読み取れるようにするのが大変だったね。

高木 まさに演技指導だね。トロッコの場面も印象的だった。「トロッコ演出:佐野」と単独でクレジットされていたよね。『インディ・ジョーンズ』や『野生の証明』を彷彿とさせた。

佐野 そうそう、トロッコは面白いから。迫力重視で演出したよ。スピード感が出るように。そのためには方向がどっちに行ってるかを明確にしなくちゃいけない。どこに行ってるかわからなくなっちゃうと一気にスピード感がなくなっちゃうんだよね。


 

■「お互いに『実力テスト』ワースト1位2位を競ってたよね」(高木)

佐野 金属恵比須のニュー・アルバム『黒い福音』を聴いたよ。

高木 ありがとう。

佐野 「鬼ヶ島」は高校の頃のラブソングらしいけど(笑)。

高木 そう(笑)。佐野のクラスメイトだね。このアルバムを発表するまですっかり忘れてたんだけどね。

佐野 歌詞の語彙力がすごいよね。高校の時に作ったの?

高木 うん、でも授業で使っていた『新訂総合国語便覧』(第一学習社)をペラペラめくって……。

『新訂総合国語便覧』(第一学習社)

『新訂総合国語便覧』(第一学習社)

佐野 俺も好きで読んでたな。

高木 『便覧』に難読語コーナーがあって、そこに載っていた単語を選んで使っただけで(笑)。

佐野 大地はテストでは使えない知識が豊富なんだよな。高校時代、世界史の試験前に大地が講義するからそっちのクラスに受けに行ったんだけど、ソ連を攻めるためにドイツが作った兵器が奇想天外だったという話をして。範囲が第二次世界大戦だったね。

高木 巨大列車砲「グスタフ」の話だ(笑)。

佐野 試験にはカスりもしなかったよな(笑)。

高木 お互いに「実力テスト」ワースト1位2位を競ってたよね。

佐野 数学で3点を取ったことがある。

高木 10点を取ったことがある。同類だね(笑)。

佐野 大地ほどじゃないと思うけどな。

高木 それ褒め言葉になってないよね(笑)。

東京都立西高等学校

東京都立西高等学校

 

■「教育実習の体験が人生の転機」(佐野)

佐野 大地は当時からギターの腕がすごかったよね。

高木 1日6時間弾いてたから。

佐野 いくら勉強できなくても大丈夫だろうと思ってたよ。それに対して当時の俺は何もなかったな。勉強もめちゃくちゃ嫌いだったし。でも生物・物理・美術は成績が良かったかな。もともと美術が好きで物作りをするのは好きだったんだよね。

高木 『スター・ウォーズ』が好きだった記憶がある。

佐野 宇宙と恐竜が好きだったね。中学の時、家の前に雑誌『ニュートン』が150冊捨ててあって、拾いたいと思ったんだけど学校あるから諦めたんだよね。でも家に帰ってきたら親父が拾ってきてた。

高木 考えることは親子一緒(笑)。

佐野 それをめちゃくちゃ読んだ。それで宇宙物理学をやりたいと思って西高を経て大学に入学したのね。そこでは宇宙物理学を専攻することができたんだけど、ひたすら計算するだけなんだよ。『スター・ウォーズ』のような好きな宇宙像とは違うと感じて。そんな時に教育実習があった。

高木 3週間だけだけどお互いに西高に再び通ったね。僕は倫理で古代仏教を教えたな。佐野は物理だったよね。

佐野 それが楽しかったんだよね。大地とつるんで教育実習生同士で騒いだのも楽しかったし、生徒との関わりも楽しかったし、一人で計算する世界よりも誰かと一緒に何かやることが楽しいと思った。

高木 あの3週間が人生の転機だったのか。


 

■「タメにならない授業も真面目に」(佐野)

佐野 そんな時に昔から好きだった『スター・ウォーズ』や『ジュラシック・パーク』をふと思い出して。それで映画に関わる仕事がしたいと思ったんだ。それでCGをやろうと思って海外に勉強しに行こうと決めたんだよね。でもそのためには英語が必要。そこで国際ボランティアとしてパプアニューギニアで先生になろうと思った。

高木 ここで教育実習での経験が活きるんだね。でもなぜ国際ボランティアを?

佐野 アルバイトでバーテンダーをやってたんだけどそのマスターに勧められたんだよね。どうやらマスター自身が昔行きたかったみたいで。

高木 宇宙物理学に教育実習にバーテンダー、多岐に渡りすぎてるな(笑)。

佐野 2年間パプアニューギニアで先生をした後、CGの勉強をしに1年間カナダに行ったんだ。

高木 すごくアクティブ!

佐野 それはもう楽しくて楽しくて。子供の頃、公園で遊んでて「帰りたくない!」って思ったことを思い出したぐらい楽しかった。朝8時から夜中の3時まで毎日勉強してた。

高木 あんなに勉強が嫌いだったのに、自分の求めた勉強だったからとにかくのめり込めたんだね。

佐野 大地が音楽に対して思ってる感覚と一緒でしょ? 大地は高校1年ですでに見つけてたけど、俺は28歳で自分にはこれが合ってるんだと見つけた。この世界でトップにならないとやってけないだろうと思って、誰にも負けない気持ちで必死で頑張ったよ。こんなに勉強したのは初めてだった。タメにならないだろうなと思う授業も全部真面目にやった。吸収できるものがあるはずだから全部吸収してやろうと。


 

■「ゴミ人間プペル×改臟人間ラスプーチン」?(高木)

高木 僕らは1980年生まれ。いろんな分野で活躍できる年齢になってきたよね。

佐野 知人に40歳になるまでに頑張っておくといいと言われたことがあったんだけど、その通りに今まではガムシャラに動いてきて、『プペル』は人生の集大成になったかなと。今まで蓄えてきたものを一気に吐き出す時だったね。大地は40歳でメジャーデビューってすごいよな。

高木 音楽の他にも文筆業もできるようになったし楽しいよ。20代から「いつか連載で書いてやる!」と思いながらSNSでブログを書いてたのね。でもただの日記じゃなくて、「マクラをつける」「オチをつける」「アクセスされやすいタイトルをつける」「毎日書く」というルールを自分に課して。その努力が今になって役に立っているかな。

佐野 そういえば高校時代はサークルも同じだったよね。

高木 「つるばみ同好会」(西高での軽音楽サークルの名称)だったね。

佐野 そこで高校で初めて一緒に演奏したのが大地なんだよね。

高木 1996年9月の文化祭だね。メタリカ「エンター・サンドマン」とスピッツ「空も飛べるはず」という意味不明なセットリストを演奏した(笑)。

高木大地と佐野雄太が写る高校時代の写真

高木大地と佐野雄太が写る高校時代の写真

佐野 すごい思い出だよ。あの頃から大地の音楽に対するパッションが違ったよね。でもスピッツのコピーは、大地にとってはその時の文化祭の一回だけじゃない?(笑)

高木 うん(笑)。あれから25年たったけれどもまた何か一緒にしたいよね。金属恵比須はメンバーの稲益宏美もスタッフ2人も同級生の西高1999年卒だからいつまでも文化祭をやっている気持ちなんだよね(笑)。今後、佐野とコラボレーションできると面白いよな。音楽提供ができたらいいな。

前列中央=稲益宏美、後列中央=佐野雄太

前列中央=稲益宏美、後列中央=佐野雄太

佐野 逆に金属恵比須が映像欲しい時は声かけてよ。

高木 いいね! やろうよ!

佐野 でもそれ、ただの文化祭じゃない?

高木 大人の文化祭だね(笑)。「ゴミ人間プペル×改臟人間ラスプーチン」ってどう?

佐野 「プ」しか合ってないんだけど!

高木 金属恵比須のジャンルの「プログレ」にも「プ」がついてるから大丈夫。

佐野 どういう意味で「大丈夫」なんだよ(笑)。


※取材に際し、東京都立西高等学校1999年卒(第51期生)の稲益宏美氏をはじめ、卒業生に多大なるご協力をいただきました。この場をお借りして御礼申し上げます。
 
【佐野雄太プロフィール】
1980年生まれ。STUDIO4℃所属アニメディレクター・CGアーティスト。『ベルセルク 黄金時代篇』三部作にCGIスタッフとして参加。監督作に短編3DCGアニメ『RedAsh -GEARWORLD』、TVアニメ『スキヤキフォース』などがある。最近の趣味は色々なスパイス集めとそれを使った料理。好きな落語の演目は粗忽長屋、居残り佐平次、文七元結。
 
【高木大地プロフィール】
1980年生まれ。プログレッシヴ・ロック・バンド「金属恵比須」ギター兼総監督。プログレッシヴ文化人。2006年、プログレの世界フェス「Baja Prog」(於メキシコ)に最年少出演。五木ひろしや頭脳警察、髙嶋政宏と共演するなど多岐にわたったアーティストとコラボを実現。ライターとしても『モノ・マガジン』『夕刊フジ』に執筆中。趣味は暗渠の散歩。好きな暗渠は中仙川(入間川)。