戦禍の傷跡が残る1947年、荒廃した大阪の地で誕生した大阪フィルハーモニー交響楽団は、市民に希望と感動を与え続け、やがて74年目の春を迎える。幾多の危機を乗り越えて来た大阪フィルも、新型コロナウィルスの影響で50公演近くがキャンセルになったと聞く。まさか、世界中からナマの音楽が消えてしまう状況が起こるとは、夢にも思わなかった訳だが…。

現在、大阪フィルもクラウドファンディングを実施中。「大フィルは何があっても大丈夫なんですよ!」というファンの声も聞こえて来るが、果たして真相はどうなのか。

2021年度の定期演奏会のラインナップもあわせて、大阪フィルの演奏事業の中心に立つ、事務局次長・演奏事業部部長の福山修と、演奏事業部課長の山口明洋に話を聞いた。

―― 福山さん、大阪フィルもクラウドファンディングをされていますね。

福山修 はい。どこの楽団も同じだと思いますが、大阪フィルではコロナの影響で予定していた公演が50公演近く無くなりました。また自主公演も、客席を市松模様にして入場率を50%以内に制限したり、客足自体の減少等もあって、3億円近いダメージを受けました。そのため、色々な形でご寄付を呼び掛けてきましたが、その一つとしてクラウドファンディンを始めています。

―― 目標額が1億円と、思い切った金額ですね。

福山 損失額約3億円のうち、これまでにファンの皆様や、理事会社をはじめとする企業様から、半分近いご寄付を頂いておりますが、まだ1億円以上の損失が残っています。実は、演奏会の中止や延期報道が流れてすぐに、個人、法人の会員様からは、ご寄付のお申し出を頂きましたが、一般のファンの皆様の間では、「大阪フィルは大丈夫なんでしょう?」と言われるケースが多くて、「とんでもございません。大変です!」と……。「それなら、もっと世間に対して自ら窮状を訴えていかないと」と、多くの方からアドバイスを受けました。

―― 70年を超える大阪フィルの歴史は、日本の西洋音楽、オーケストラの歴史でもある訳ですから、ある程度寄付が集まると思っていました。3億の半分は、既に寄付などが集まっているのですね。

福山 そうですね。あと、雇用調整助成金など、政府の助成制度も活用して、どうしても不足する金額ということで、さまざまに意見はありましたが、1億円をクラウドファンディングの目標金額とさせていただきました。

事務局次長・演奏事業部長 福山修     (C)H.isojima

事務局次長・演奏事業部長 福山修     (C)H.isojima

―― 既に実施されている他の楽団のクラウドファンディングの結果なども発表になっていますが、それと比べても、大きな金額ですね。

福山 これは、「お願いです、助けてください!」で集まる金額では無いことは十分承知をしています。まさにさっき言っていただいた、大阪フィルの歴史をしっかり知っていただくことで、大阪フィルの響きを途切れさせるべきでは無いことをご理解していただく必要があります。そこで、クラウドファンディングの返礼品として、「朝比奈隆のスコアのレプリカ」や「第1回定期演奏会のポスターのミニチュア復刻版」といった歴史ある大阪フィルならではの品や、クラウドファンディングのためのオリジナル動画を撮影しました。これは、演奏だけが見られる動画ではなく、いろいろと仕掛けが付いているのです。

―― 何ですか、仕掛けって? 新装オープンの吹田メイシアターで演奏を収録されたとは聞いていましたが。

福山 はい、動画にはエルガーの威風堂々第1番、ベートーヴェンの「プロメテウスの創造物」序曲、スメタナ「わが祖国」よりモルダウ、ラヴェル「ボレロ」の4曲が収録されていて、普通に演奏だけを見ることも出来ますが、それぞれに別ヴァージョンもついています。それを選ぶと、音楽がBGMになり、曲ごとに違うメッセージやナレーション、テロップや映像が流れます。

―― なるほど。プロモーションビデオみたいな感じですね。

福山 そうです。「威風堂々」では楽団を代表して、音楽監督・尾高忠明のメッセージが流れます。「プロメテウスの創造物」では、大阪フィルの歴史をプロのナレーターが語り、モルダウでは、この曲が描写している風景をイメージ映像で流し、オーケストラの描写能力や表現能力を楽しんで頂こうという趣向になっています。NHKの名曲アルバムのような感じですね。そして、「ボレロ」はずばり、楽器紹介です。オーケストラにはこれだけの楽器があります!というのを、個別演奏でも紹介します。

―― 大阪フィルのメンバーが楽器紹介をするのですか?

福山 大阪フィルのトップ奏者に一人ずつ無伴奏で「ボレロ」のワン・フレーズを演奏してもらい、収録した映像を楽器別に見ることができます。これは結構プレッシャーだったようですが、皆、趣旨を理解して気持ち良くやってくれました(笑)。4つの名曲が視聴できて、それぞれ、大阪フィルからのメッセージ、歴史、オーケストラの表現能力、楽器紹介と、曲を絡めたコンテンツとしてお楽しみいただけます。

弦楽器、管楽器のトップ奏者が楽器紹介をしています     (C)飯島隆

弦楽器、管楽器のトップ奏者が楽器紹介をしています     (C)飯島隆

―― それが返礼品の中で、色々な商品と一緒に組み合わされている、オリジナル動画視聴券というものですか。

福山 この動画を見て頂くと、大阪フィルの事がわかっていただけるのではないかと思います。地元の企業からご協力いただいた梅酒やクラフトビール、ワインを飲み、高級食パンやスープ、美味しいポン酢で鍋でもつつきながら、動画をゆっくり見て頂ければと思います。

それともう一つ、クラウドファンディングと言うと、達成金額ばかりが取り沙汰されますが、私は協力していただいた人数も重要だと思っています。既に1000人を超える方が、協力して下さっています。この方たちが今後も大阪フィルのファンになって下さるように、しっかりとフォローしていく事こそが、クラウドファンディングを実施した意味だと思っています。

―― クラウドファンディング、上手くいくと良いですね。尾高さんが音楽監督になられて、まもなく3年が経過します。評判は如何ですか。

福山 尾高監督が狙っていた効果が表れ始めていて、大阪フィルの演奏が変わったという声をよく頂きます。研ぎ澄まされた集中力の高い演奏が聴けると言っていただくことが多くなりました。

音楽監督 尾高忠明    (c)Martin Richardson

音楽監督 尾高忠明    (c)Martin Richardson

―― これは、大阪フィルの宿命的な事だと思いますが、どうしても朝比奈時代のサウンドと比較して、音が軽くなったなんて言われがちですね。

福山 そうですね。ただ、朝比奈サウンドと言われる音は、朝比奈隆という人物、時代、当時のメンバー等、様々な条件が混ざり合い、54年という歳月をかけて作られたものです。あまりに個性が強烈過ぎて、他の演奏が地味に聞こえるかもしれませんが、尾高監督が3年をかけてこだわって来た、正面から作品と向き合い、楽譜に書かれているコトをきちんと表現していくという姿勢は、朝比奈隆と同じど真ん中の直球勝負。虚飾を排して作品の持つ力を引き出していくためには、凄まじい集中力が必要です。今の大阪フィルは朝比奈隆を知らないメンバーも随分と増え、尾高監督の下、一から音楽に向き合っていく事が出来ます。演奏が整っていく過程で、音が小さくなった、迫力が無くなったという声は出るかもしれませんが、それは演奏レベルを上げていく上で必要なステップだと思います。

創立名誉指揮者 朝比奈隆     (C)飯島隆

創立名誉指揮者 朝比奈隆     (C)飯島隆

我々が目指しているのは、朝比奈サウンドを超える音を、尾高監督と一緒に作る事です。朝比奈隆も、初めからあのサウンドを出せた訳ではなく、試行錯誤の末に出来たもの。勢いだけで演奏したり、小手先で音を並べるのではなく、作曲家が求めた音を極めて行くために、近道はありません。それを踏まえた上で、尾高監督4年目のシーズンラインナップについて、実際にプログラムを考えてくれている山口課長から話をしてもらいたいと思います。

山口明洋課長(左)と福山修次長    (C)H.isojima

山口明洋課長(左)と福山修次長    (C)H.isojima

―― 福山さん、ありがとうございました。では、山口さんよろしくお願いします。最初に尾高さんが指揮する定期演奏会から説明をお願いします。

山口明洋 定期演奏会は全部で10回、それぞれ2公演です。尾高監督が登場するのは4月、11月、2月の3公演です。4月は、本当なら昨年4月にやる予定だったベートーヴェンの大曲「ミサ・ソレムニス」をスライドさせたかったのですが、やはりこのタイミングではまだ大きな合唱曲は無理だと判断して、最悪の場合、管弦楽の作品に差し替えが効くモーツァルトのミサ曲ハ長調「戴冠式ミサ」を選びました。小ぶりの曲ですが、とても幸せに満ち溢れた曲。コロナ禍の中、心が晴々するモーツァルトの作品を、豪華ソリストと大阪フィル合唱団でお聴きください。吉松隆の「朱鷺に寄せる哀歌」は尾高監督が読売日本交響楽団のヨーロッパ公演に持っていくほどの、十八番の曲。そして監督4年目のシーズンの始まりなので、ここまで積み上げて来たオーケストラのアンサンブル力をお聴きいただこうと、オーケストラが咆哮するバルトークの「管弦楽のための協奏曲」をメインに据えました。

音楽監督 尾高忠明     (C)飯島隆

音楽監督 尾高忠明     (C)飯島隆

―― 「ミサ・ソレ」は残念ですが、この情勢では仕方ありません。逆に、尾高さんの「オケコン」が聴けるのは嬉しいですね。

山口 11月はマーラーの交響曲第4番をメインに、人気のフルート奏者、ベルリンフィルのエマニュエル・パユでイベールと武満徹をお聴きいただきます。尾高さんでマーラーというと、2020年11月の交響曲第5番が好評でした。第4番は声楽が入る第4楽章が重要ですが、シューベルトを得意とするアンナ・ルチア・リヒターの出演が決まりました。ご期待ください。

―― そして2月は、お約束のブルックナー。尾高さんはこれまでに7番、8番、3番、9番とやって来て待望の5番、1曲プログラムですね。

山口 ブルックナーの交響曲第5番は、大阪フィルとしても特別な曲です。ここ最近では、兵庫県立芸文センターの「大ブルックナー展VOL.5」の井上道義さん(2017年)、その前は高関健さんで、その前は朝比奈先生まで遡ってしまいます。先ほどの福山の話にもありましたが、尾高監督の練習は大変厳しく、音楽の方向性が合わない時は何度でも、しつこいくらいに練習しています。そこで生まれる尾高監督と大阪フィルの音楽ですが、「こういうブルックナー!」と代名詞のように言える訳ではありませんが、オルガントーンの色の幅が出来てきたり、昔の大伽藍とは違いますが、音色のバリエーションが増えてきたりと、確実に何かが生まれようとしています。どうぞ、注目してください。この5番を携えて、昨年中止になった東京定期演奏会を行う予定です。

演奏事業部課長 山口明洋     (C)H.isojima

演奏事業部課長 山口明洋     (C)H.isojima

―― では、そのほかの定期演奏会を見ていきましょう。5月は昨年来日が叶わなかったデュトワです。初登場の際は、デュトワが大阪フィルの指揮台に立っている事が不思議に感じました(笑)。

山口 「サロメ」を含めて、今回が3度目の大阪フィルの指揮台です。ラヴェルの組曲「クープランの墓」とストラヴィンスキーのバレエ音楽「ペトルーシュカ」(1911年版)はこちらからのリクエストで、ハイドンの交響曲第104番「ロンドン」はマエストロからの提案です。しっかりアンサンブルを整えましょう!という事でしょうか(笑)。これまで、僅かな時間も無駄にしない、厳しいリハーサルを見せつけられました。今回、「ペトルーシュカ」のオケ中のピアノを弾くのは、先月の第545回定期演奏会のソリスト北村朋幹さんです。こちらもどうぞお楽しみに。未だ外国人の入国規制が解除されない状況ですが、事態が良い方向に向かい、マエストロと再会できることを願っています。

シャルル・デュトワ     (C)飯島隆

シャルル・デュトワ     (C)飯島隆

シャルル・デュトワ     (C)飯島隆

シャルル・デュトワ     (C)飯島隆

―― 6月は新進気鋭の沖澤のどかさん!大抜擢ではないですか。

山口 一度、依頼公演を指揮していただいたのですが、メンバーの評判が頗る良かったですね。彼女はポイントのつかみ方が素晴らしく、知的な指揮をされます。作為的なものが無く、言葉一つで行くべき方向を上手く指し示すことができる。指揮台の上でオーケストラを幸せにする魅力がある指揮者ですね。東京芸大では尾高監督も教えておられたようですが、「驚くほどの成長ぶり。今一番勢いのある指揮者だね。そのうち山田和樹さんみたいにスケジュールが押さえられなくなるだろうから、お願い出来るうちに来てもらおう!」ということで、実現しました。

沖澤のどか

沖澤のどか

彼女からは、ブラームスのヴァイオリン協奏曲を大阪フィルとやりたいとリクエストがありました。協奏曲をやりたい!という指揮者は珍しいです。大阪フィルには美音の個性豊かな木管奏者が揃っているので、その辺りを見越しての事でしょうか(笑)。せっかくなので、ソリストはコリヤ・ブラッハーにオファーをして、OKを貰いました。メインは、若い指揮者には天才作曲家が若い頃に書いた作品を振ってもらいたいと、ショスタコーヴィチの交響曲第1番をリクエストしました。もう1曲、せっかくならショスタコと相性の良い邦人作曲家を振ってもらおうという事になり、ショスタコーヴィチとも面識のある芥川也寸志 の「トリプティーク」に決まりました。

―― そして7月は、ミシェル・タバシュニクです。初登場ですね。

山口 タバシュニクは、日本センチュリー交響楽団で一度、ストラヴィンスキーのバレエ音楽「火の鳥」をやっていますが、これが素晴らしかった。この指揮者は、大阪フィルとはバッチリ合うはずです。彼で、大阪フィルの弦楽器相手にバルトークの「弦楽器、打楽器、チェレスタのための音楽」をやってみたいと思い、提案したところ即決しました。この曲、2001年に若杉弘さんと演奏して以来です。ほかにはモーツァルトの交響曲第38番「プラハ」と、彼が得意とするムスルグスキー(ラヴェル編曲)「展覧会の絵」です。

ミシェル・タバシュニク   (c)Jean-Baptiste Millot

ミシェル・タバシュニク   (c)Jean-Baptiste Millot

―― タバシュニクがイーゴル・マルケヴィチの弟子だとプロフィールに書いてありますが、俄然、「展覧会の絵」が楽しみになりますね(笑)。9月定期を指揮するのは、アンガス・ウエブスター。まだ20歳そこそこだそうですね。

山口 びっくりするほどの青田買いです(笑)!この指揮者、エサ・ペッカ・サロネンの弟子で、サロネンが、ちょっとしたコンサートで日本に行くのなら、ヨーロッパで勉強させたいと反対したと伝え聞いています。その後、大阪フィルの定期演奏会だと判ると、「失礼なことを言って申し訳なかった」と謝罪とお許しが出たそうです。元々、大阪フィルはこれまでもインキネンや、ウルバンスキ、フルシャなどの若い才能を見い出して、定期演奏会の指揮台に迎えています。間違いなく彼はそのクラスです。プログラムは、アーノルド生誕100年を記念して序曲「ピーター・ルー」と20世紀を代表するヴァイオリンの名作、ブリテンのヴァイオリン協奏曲。そして後半には、大阪フィルの十八番、チャイコフスキーの交響曲第5番を並べてみました。 

アンガス・ウエブスター

アンガス・ウエブスター

―― 10月は上岡敏之さんが定期演奏会に初登場ですね。

山口 ずっと共演を心待ちにしていた上岡敏之さんに指揮していただきます。ソロコンサートマスターの崔文洙との強い信頼関係も有って、実現しました。リヒャルト・シュトラウスの組曲「町人貴族」と組曲「ばらの騎士」はこちらからのリクエスト。個人的にはリヒャルト・シュトラウスの中でも「町人貴族」のような少し小ぶりな曲も、大阪フィルはもっと取り上げるべきだと思っています。上岡さんの「ばらの騎士」は、読売日本交響楽団と大阪でやったのを聴きましたが、テンポが大胆に揺れてとってもカッコ良かった!さて、今回はそのテンポに振り落とされずに演奏出来ますか(笑)。シェーンベルクの「地には平和を」は無伴奏の合唱曲ですが、管弦楽伴奏版でお届けします。ツェムリンスキー「詩篇第23番」も合唱曲ですが、こちらはドラマチックな、編成の大きな曲です。

上岡敏之

上岡敏之

―― 1月は、こちらも定期演奏会には初登場のウエイン・マーシャルです。

山口 サイモン・ラトルが初めてベルリンフィルのヴァルトビューネ(ピクニックコンサート)に客演した時に、ガーシュインの「ラプソディ・イン・ブルー」を弾いたソリストです。マリス・ヤンソンスがオスロのオーケストラとサン=サーンス交響曲第3番「オルガン付き」を演奏した時のオルガン奏者でもあります。イギリス人ですが、アメリカのオーケストラでガーシュインを数多くやっています。今までにミラノ・ジュゼッペ・ヴェルディ管弦楽団やケルン放送管弦楽団の指揮者を務めていました。彼お得意の交響的絵画「ポーギーとベス」はこちらからのリクエストです。まず、定期演奏会では取り上げない、ちょっと大人なプログラムです。

ウエイン・マーシャル

ウエイン・マーシャル

―― そしてシーズン締め括りの3月は、小泉和裕さんですか。これは通向きのプログラムですね。

山口 関西では日本センチュリーの音楽監督だったことで知られていますが、現在は九州交響楽団と名古屋フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督も務めておられる素晴らしい指揮者です。オネゲルの交響曲第3番「典礼風」とシューマンの交響曲第4番の組み合わせは、小泉さんの音楽美学が光るプログラムです。本当はこの2曲で成立するプログラムだそうですが、もう一曲聴かせて下さいとお願いして「それならベートーヴェン!」と、劇音楽「エグモント」序曲に決まりました。「エグモント」序曲も音楽的に素晴らしい曲ですが、軽く扱われている曲。しっかり定期演奏会の3日間のリハーサルで丁寧に仕上げて、お聴きいただきたいです。

小泉和裕   (c) Ivan Maly

小泉和裕   (c) Ivan Maly

―― その他の自主公演としては、作曲家を取り上げるシリーズではドヴォルザークの交響曲愛7番から9番に、序曲と協奏曲の組み合わせです。

山口 はい。ここ最近、大阪フィルも随分若返りが図られていることもあり、ソリストも若い奏者との組み合わせで、新鮮さをアピールしようと思いチェロの岡本侑也さん、ピアノの北村朋幹さんを決めたところで、尾高監督から、ヴァイオリン協奏曲は若い人では難しいよ、と待ったがかかりました。この曲は勢いだけでは弾けないということで、戸田弥生さんにお願いすることになりました。

―― その他の自主公演は、バラエティに富んだ指揮者とソリストが登場します。

山口 「マチネ・シンフォニー」6月は、尾高監督とピアノの小川典子さんで、プロコフィエフのピアノ協奏曲第3番とラフマニノフの交響曲第2番。11月は桂冠指揮者の大植英次とヴァイオリンの郷古簾さんの組み合わせで、モーツァルトのヴァイオリン協奏曲第4番やレスピーギの交響詩「ローマの松」といった十八番が並ぶ名曲プログラムとなりました。

「ソワレ・シンフォニー」は5月が待望の川瀬賢太郎さんの指揮で、ブラームス交響曲第1番ほか。10月は秋山和慶さんの指揮、ピアノの福間洸太朗さんで、ベートーヴェンの「運命」、グリーグのピアノ協奏曲ほかを並べてみました。

桂冠指揮者 大植英次     (C)飯島隆

桂冠指揮者 大植英次     (C)飯島隆

―― 定期演奏会といっても通用するほどの豪華布陣による、名曲プログラムですね。そのほかの自主公演も、一言コメントをお願いします。

山口 神戸と京都の特別演奏会は、共に尾高監督の指揮で、神戸はピアノの清水和音さん、京都はピアノの小山実稚恵さんにお願いしています。加えて、「第9」シンフォニーの夕べも新春名曲コンサートも、尾高監督が指揮します。他には、昨年コロナで中止となった恒例の「三大交響曲の夕べ」は、もちろん炎のコバケン、小林研一郎さんの指揮ですし、ドラゴンクエスト・コンサートは、今までどおり角田鋼亮が指揮します。

2021年3月で大阪フィル指揮者のポジションを離れる角田鋼亮     (C)飯島隆

2021年3月で大阪フィル指揮者のポジションを離れる角田鋼亮     (C)飯島隆

―― ありがとうございました。最後に、山口さんが考える大阪フィルの魅力を教えてください。

山口 何といっても、フルサイズ16型のオーケストラが、パワー全開で鳴らすフォルティッシモの音に包まれる喜びは、得もいわれぬカタルシスではないでしょうか。もちろん、弱音の繊細で美しい音楽も忘れてはいけませんが、ホール中に鳴り響くサウンドが有ってこそ、生まれる魅力だと思います。年間を通していろんな作品を、いろんな指揮者やソリストが演奏しますが、どなたが来られても、魅力的な演奏になるのが、大阪フィルです。そんな伝統の大フィルサウンドを守るためには、敢えていろんな事に挑戦していく必要があると思います。古楽的なアプローチも、現代音楽も、編成の小さなアンサンブルの延長のような曲も、何でも出来ないといけないのが21世紀のオーケストラだと思うのです。ベルリンフィルも、カラヤンの時代から、アバド、ラトル、ペトレンコへと、シェフと共に音楽が変遷していきます。大阪フィルも尾高監督と共に、新しい大フィルサウンドの構築に向け、鋭意進行中です。伝統を大切にしながら進化する大阪フィルの奏でるサウンドにハマる人を、一人でも多く作っていくことが私に与えられたテーマだと思っています。大阪フィルにどうぞご期待ください!

これからも大阪フィルをよろしくお願いします!     (C)飯島隆

これからも大阪フィルをよろしくお願いします!     (C)飯島隆

取材・文=磯島浩彰