2021年3月26日(金)品川プリンスホテル ステラボールにて幕を開けた「笑ゥせぇるすまん」THE STAGE。その本番直前のゲネプロ公演をレポート!

客席に着くと聴こえてくるのは心地よいJAZZのメロディー。まるで劇中に登場するBAR「魔の巣」に足を踏み入れたような気分に身を委ねているうちに……開幕の時間。“モブリーマンズ”を従えた、喪黒福造の登場だ!



原作は藤子不二雄(A)のブラックコメディ作品。主人公の謎のサラリーマン・喪黒福造の強烈なキャラクターの存在と共に、多くの人々のトラウマにまでなった昭和の“怪作”である。それを令和の今、喪黒福造役に佐藤流司を据えての舞台化というまさかのニュースが駆け巡ったのは昨年のこと。あれから1年。いよいよ私たちの前に最新型の喪黒福造が降臨した。



時折垣間見えるニヤリとした表情とスーツにハットはお約束。スタイリッシュに禍々しいサウンド&ダンスで鋭く切り込むオープニングは、喪黒の得体の知れなさが言葉を超えたバイブレーションで伝わってくる最高の“名刺”。この世に生きるすべての寂しい老若男女の心のスキマを埋める喪黒の、不条理なセールス開始のファンファーレにふさわしいナンバーである。


ステージはショートショートのオムニバス形式で、原作の豊富なエピソードから厳選した5つのストーリーがテンポよく展開。お金は取らず本人が渇望しているであろう“体験”を与える──幅広い客層のニーズに応え続ける喪黒の手際の良さに感心しつつ、広げなくていい傷口を広げてみたり、気づかなくていいことを気づかせてしまったり、開いてはいけない心の扉を開放させたりの盛大なお節介は、ほぼバッドエンドへまっしぐら。これが最初はうっすら心が痛むような気もするのだが……次第にその展開がクセになり、残酷ギリギリ(いや、超えている!?)のところに着地する瞬間まで、すべての最後をしっかりと見届けたくなってしまう。うーん、ブラックユーモアの中毒性!


世間が抱いていた「喪黒福造×佐藤流司=問題作」の期待のさらに上を行く、この楽しく狂ったステージの演出は小林顕作。随所に“笑ゥメソッド”とも言うべき形式や美学を仕込みつつ、バラエティ豊かな歌とダンスで巧みに人間の業を料理。お得意のアナログ感溢れるギミック(観ていて思わずハラハラしてしまうところまで含め)は“愛すべき演劇”の香りに満ちた素敵なチャームポイント。体温のある舞台創りにキュンとなる。



松田昇大、石橋弘毅、富岡晃一郎、澤田育子、南誉士広、池村匡紀、藤村聡、掛川僚太、伊藤彩夏、露詰茉悠の俳優陣は、エピソードの主軸となる人物はもちろん、脇を固めるキャラクターからダンサーまで様々な役をカラフルに猥雑に演じていく。早替えが間に合わなければ書き割りも上等! スキあらばばそっと小声でオモシロを置き、体を張って悲喜劇を伝え、数分の中に2時間ドラマ並みの旅情と叙情を刻み込み──頼もしくもたくましいプロフェッショナルな手腕を存分に堪能させてくれた。



嬉々として喪黒を演じる佐藤はアニメでも有名な“あの喪黒福造”のイメージから見事に浮遊。おなじみの台詞や笑い声はしっかりキメてくれつつ、眼光鋭く愉しみを企てるいたずらっ子、永遠の少年であるピーター・パンのような唯一無二の喪黒福造を出現させ、軽やかにセールス業に励んでいた。



怖楽しい世界観の中、カンパニー全員が生き生きと暴れ回るなんとも痛快なグルーヴを浴びていると(シートから直に伝わってくる重低音も効果絶大!)、観ているこちらの心の中も盛大に暴れ出し、観終わる頃には不思議な感動とデトックス感が込み上げる。「笑ゥせぇるすまん」THE STAGE、今、このタイミングで出会えて良かったとしみじみ思う貴重な一作だ。

不思議な立ち位置で劇中を自在に泳ぎ回る喪黒が顧客に放つ言葉は、どれも全然間違っていない。彼はみんなに人間らしい愛と夢と欲望を忘れて欲しくないだけなのだ。たとえそこに紙一重で破滅が待っているとしても、「大事なこと」さえ忘れなければ幸福な時間はずっと続くんだよ……と。ちなみに劇中、客席の誰もが喪黒に「ドーーーン!」される可能性があるので、くれぐれも心の準備はお忘れなく。


喪黒福造 役 : 佐藤流司  コメント

皆様、お待たせ致しました。笑ゥせぇるすまん THE STAGE
遂に開演です。いや、怪演です。
先に言っておきますが、割としっかり体力を使う舞台です。勿論我々キャストもそうですが、お客様が、で御座います。
なかなかの物量をなかなかのスピードで行きます。ついてきてください。
しかし、観劇を終えた貴方は、えもいわれぬ多幸感を味わう事になります。「明日からも頑張ろう」って、思える筈です。
ホラーでブラックなユーモアなのに、なぜか心が温かくなります。
お楽しみに。

演出 : 小林顕作  コメント

この世の中に正解は無い。
最近生きてて、特に思う事です。作品創り、初めて出会う人々とのコミュニケーション、演劇行為それ自体。
どうあがいても正解がありません。ものすごく自己中な事言っていいですか。
そんな中、ぼくは演劇を創る時、「ダントツで世界一自分が面白い」と思って創っています。創る人々はみなそうだと信じたいとも思っています。
佐藤流司は世界一面白い俳優、世界一狂っているキャスト陣、世界一有能なスタッフ陣!そして、世界一優しいお客様。
お客様がどうか世界一楽しんでくださいますように。

取材・文=横澤由香