日本オリジナルバージョン初演から10周年を迎えた2021年、新キャストによるミュージカル『ロミオ&ジュリエット』の2年ぶりの上演が発表された。公演ごとに新たなミュージカルスターを生み出してきたこの大ヒット作で今回ロミオを演じるのは人気舞台への出演が続いている黒羽麻璃央と甲斐翔真。今、演劇界で注目を集め続けているふたりだ。世界で最も愛されているラブ・ストーリーが瑞々しくもドラマティックに描かれるステージで、彼らはどんなロミオを見せてくれるのか。本番へ向けたそれぞれの思いを聞いた。

ーーまずはロミオ役で本作への出演が決まったお気持ちからお聞かせください。

黒羽:前回も出演させてはいただいているんですけど(’19・マーキューシオ役)、今回はロミオなので、またイチからの気持ちで作品に挑みたいなと思いました。2年前に初めてこの作品に携わらせていただいたとき、本当に「ミュージカルっていいな」と自分で思えたきっかけの作品。それをこうしてまた今度はロミオ役として再びその作品に触れられるのは大興奮です。『ロミジュリ』は周りのキャストのみなさんの表現力が素晴らしく、自分もそのピースになったことにより、一層歌とか踊りとかお芝居とか“すべて”で表現することの贅沢さがミュージカルには全部詰まってるなと再確認できて……。あの時は古川(雄大)くんと(大野)拓朗くんがロミオを演じていて、自分自身が俳優としてそこに嫉妬するというか、「あんな風になりたい。ずるいな」って、気持ちを持っていましたから。

甲斐:僕はオーディションを受けてから決まるまでしばらく時間が空いていて、内心「ダメだったんだなぁ」と思っていました。だから最初に「ロミオ役に決まりました」と聞いたときは……全く現実味がなかったです。歌稽古が始まり『ロミオ&ジュリエット』の楽曲を歌うようになってようやく「あ、自分が演じるんだな」って。やっと自分の中でロミオとしての気持ちが湧いてきたと言いますか、「この作品を引っ張っていかないといけないんだ」という責任感が湧いてきました。とにかく最初は嬉しさよりも驚きのほうが大きかったです。今一線で活躍される方々が経験されてきたロミオ役。本当に誠心誠意、務めあげたいなと思っています。

(左から)甲斐翔真、黒羽麻璃央

(左から)甲斐翔真、黒羽麻璃央

ーー座組全体、非常にフレッシュな俳優さんが揃いました。カンパニーの顔ぶれについては?

黒羽:本当、ガラッと変わりました。どんな化学反応が起きるのか……ただ僕は何度か共演させていただいている方が多いので、未知数じゃない「画」が結構明確に見えています。前回は年齢的にもお兄さん方がたくさんいて、そこに囲まれて同い年の木村達成くん(ベンヴォーリオ役)と一緒に末っ子ポジションみたいなところにいたんですけど(笑)、気がつけば自分より年下の方もいて……本当に“中心”にいなくちゃいけないなって思いました。ロミオとして立つからにはいろんな意味で周りのことをちゃんと見ながら、稽古だったり本番だったりに臨めるような主演でいたいなって思います。あとやはり演出の小池(修一郎)先生はビジュアル面でも非常にこだわりがある方なので、衣裳なんかもまたどんな変貌を遂げるんだろうって、そのあたり、僕個人としても楽しみです。

甲斐:僕はほとんどの方とまだお会いしたことがなくて、唯一、ティボルト役の吉田広大くんとは昨年『RENT』でも共演しているんですが、あのときもロミオとティボルト同様にロジャーとベニーという敵対関係の役だったので……今回はやっとカタキが取れるな、と(笑)。

黒羽:ハハハッ(爆笑)。

ーー作品も時空も超えて。

甲斐:はい。ようやく、1年越しに思いが叶います(笑)。あと初共演の方ばかりなのでご一緒するのがすごく楽しみですし、小池先生の演出も初めてです。

ーーおふたりも初共演ですね。

甲斐:麻璃央さん、会う前は「キラキラしている方だしお話とかも活発にされるんだろうな」というイメージを持ってたんですが……。

黒羽:結構そう思われがちなんだけど全然逆。テンション高く喋るのとか、大変。ハハハッ(笑)。むしろ普段は普通に大人しくして静かに喋ってるだけなのに、「怖い人」って誤解されたりしてちょっと損してる(笑)。

黒羽麻璃央

黒羽麻璃央

甲斐:わかります! どちらかというと僕もなので。

黒羽:じゃあそこらへんは共通点かもね。ふたりで会うのは今日で3回目とかだから、まだお互いの印象っていうのもそんなに掴めてないね。

甲斐:ですね。プライベートのことを話したりもできてないから、本当にこれからっていうところで。

黒羽:僕は甲斐くんが出演していた『マリー・アントワネット』を観に行って。

甲斐:そうです。ありがとうございます!

黒羽:でもまだそのときは『ロミオ&ジュリエット』の情報解禁前だったから、普通に「『マリー・アントワネット』を観劇してきました」って呟いて……匂わせといたよ(笑)。

甲斐:ハハハッ(笑)。「あ、匂わせてるな」と思いました。

黒羽:みんなは「なんで観に行ったんだろう?」と。

甲斐:で、今「あ、謎が解けた!」って(笑)。

ーーではロミオという青年についてはどんなイメージを抱いていますか?

甲斐:あれだけの強い愛を持って一人の女性を愛し抜けるところはとても魅力的だと思います。また、男から見ると仲間から愛されている、集団の中にいてズバぬけて目立つし信頼されているのは、羨ましいですね。真ん中にいられる人、欲しくても手に入れられないそのオーラはすごい。やっぱり“全男”がロミオになりたいんじゃないんでしょうか?

黒羽:“全男”! そうだよね〜。しかも、女の子がいつも追いかけてくるんだよ(笑)。

甲斐:……です。なにしろ最初の歌の入りが ♪女たちが 僕のことを追いかけてくる……。

黒羽:「♪なにもしなくても」。

甲斐:重罪ですよ。

黒羽:(笑)。

甲斐:そして冷静。感情に流されず、喧嘩の仲裁に入ったりと物事を本質的に考えることができる。この物語の中の若者で唯一ちゃんと未来を見ているというか、みんなは今を生きているけど、ロミオだけは『世界の王』を歌った後に『僕は怖い』を歌える人。あまり外には出さないけど、この先どうなるのかを内面で色々と考えていそうだなと。

(左から)甲斐翔真、黒羽麻璃央

(左から)甲斐翔真、黒羽麻璃央

ーーそれでも恋に関しては感情的に突き進む、情熱の人。

黒羽:僕も結構好きな人にパワーが向いちゃうほうですね。友だちよりも恋人派かも。

甲斐:なるほど。自分は友だちと恋人、うまくバランス取りたいなと思いますけど……あ、じゃあ、「仕事と恋とどっち取る?」みたいなやつは?

黒羽:究極の質問だ(笑)。

甲斐:(笑)。僕は仕事がなくなると人のことも愛せなくなるかもしれません。

ーー理性的ですね。

甲斐:はい。一緒にいられなくなるかもしれない。

黒羽:あー(笑)。でも……僕はやっぱり「恋人」というか「結婚」となったら、絶対「結婚」を取っちゃうと思う。

甲斐:そうなんですね!

ーーまず、人間としての全ての基盤を守りたい?

黒羽:多分、そういうことなのかなぁ。「愛」優先で。

甲斐:じゃあロミオと一緒ですね! 彼もすぐ結婚しちゃう。

黒羽:出会った日に、ね。なので……演じる上でも人間臭くいきたいなとは思ってます。それと「ジュリエットをどれほど愛せるか」が自分の中では肝かなぁと。なにしろそれこそがマーキューシオやティボルトの死、物語の中で起こる全ての始まりであり原因であり……そこはロミオにジュリエットへの愛情がちゃんとないと「好きなだけでそんなになる?」って思わせちゃうだろうし。ロミオは友人への愛情も大きいけれど、自分がずっと求めてた「運命の人に出会いたい」という気持ち、掲げてきた理想を叶える出会いを果たしたんだから、それこそ「一日かそこらのうちにそこまでジュリエットという存在に深い愛を捧げ、あんなにもハマってるんだ!」という説得力がしっかりあるロミオでありたい。あとはもうやってみないとわからないです(笑)。まだロミオとしてこの景色を見ていないので。

甲斐:僕は歌稽古で音楽監督の方に「ロミオは最初から最後にかけてどんどん大人になっていく」と言われてハッとしました。なのでロミオが大人の階段を昇っていく様を、ちゃんと歌でも声色でも芝居でも所作とかでも表現できたらいいなと。ロミオがただの優しい人にならないように、彼が優しさの裏に抱えているモノ、自分の理想、現実の世の中に感じている憤りも伝えたい。そういうロミオだからこそ群れないし、社会の在り方に流されない青年にしたいな、とは思っています。ロミオとジュリエットが出会うシーンも、いかにそれまでにお互いが本当に愛せる人を同じ温度で求めあっていたか、そんな二人が出会ってしまった時に愛が弾ける! みたいな衝撃の美しさをイメージしています。

(左から)甲斐翔真、黒羽麻璃央

(左から)甲斐翔真、黒羽麻璃央

ーーミュージカルを志す若い俳優にとって、ロミオ役はやはり目標のひとつではないかと思います。新型コロナ対策によって出演作の中止や中断も経験されながらこうしてご自身がその役を演じる機会を得たこと、大きなミュージカルの作品で活躍し続けることについて、今、なにを感じますか?

黒羽:ミュージカルに限ったことではないんですけど、やっぱり僕は「舞台が楽しいな」って。「生に勝るモノなし」っていう気持ちはやっぱりその場を失ってからより強く感じました。いろんな公演が中止になって……稽古はやったけど本番はできないってことも続いたし。映像の場合は先に僕らで作品を全て完成させ、それをみなさんに見てもらう。そのときが映像作品のゴールになるんですけど、舞台は僕らもお客様も一緒に創って、一緒に完成させて、一緒にゴールできるから……そこが……。なかなかその快感が得られなかった昨年は非常に残念な期間でしたし、やっぱりフラストレーションみたいなモノはずーっと溜まっていました。

ーー「歌」への思いはいかがでしょう。

黒羽:歌は……もちろん譜面とかはすごい大事だと思うけど、僕は「気持ち」があってのことだと思うので。「譜面通りにちゃんと歌いなさい!」って言われることも当たり前にあると思うけど(笑)、許される範囲の中で、自分の気持ちを込めた歌の表現が何かできたらいいなぁって思います。こういう名作と呼ばれている作品は繰り返し上演されていますよね。でも今までの偉大な先輩方が作ってきたロミオは“その人のロミオ”であって、そこで自分が彼らのやっていたことをなぞってしまうのが一番恐ろしいし……動きとかも全部そうなんですけど、そういうところでもったいないことはしたくないって思うんです。

ーー想定内からどう逸脱できるか。

黒羽:そうですね。今回も僕らは僕らなりのなにか新しい感情を生みだせるかもしれないし、今までロミオをやってきた人と違う自分なりのアプローチをしたことによって全然違う作品世界が立ち上がるかもしれないので──そういうところで嘘はつきたくないなって。やっててもったいないことはしたくないなって思います。

甲斐:僕、つい先日『マリー・アントワネット』で大千穐楽を迎えまして……それって僕の中ではすごく大きいことで、あの……人生で初めて大千穐楽を経験したんです。

甲斐翔真

甲斐翔真

黒羽:あ……!

甲斐:『デスノート THE MUSICAL』も『RENT』もこのコロナ禍で途中で公演が終わってしまって、『マリー・アントワネット』が初めて最後まで完走できた作品になった。そのときの景色が忘れられなくて……。自分がミュージカルを最後までできたっていう経験でまたひとつ僕の中でギアが上がったと言いますか、やっと「ミュージカルをやったぞ!」って思えた。だからこのままの勢いでこの『ロミオ&ジュリエット』、麻璃央さんも言ってくださったようにまた新しい自分たちのロミオとしてやっていきたいなと思いますし、やっぱり「ミュージカルって素晴らしいな」って。すごくシンプルな言葉になっちゃうんですけど、本当にそれを肌で感じています。スタンディングオベーションが劇場中に鳴り響いていて、梅田芸術劇場のあの赤い客席にライトがバーッって──。

黒羽:フフッ(微笑む)。

甲斐:あれって本当に、ミュージカルでしか味わえない興奮というか雰囲気というか……大千穐楽という空気もそうだし、比喩じゃなくて本当に鳥肌がたった瞬間でした。本当に抜け目なく頑張っていきたい。

黒羽:そうだね。キャストの方々と顔を合わせるのもこれからですし、一緒に本読みをして、稽古場でみんなと揃ったところから改めて僕らの『ロミオ&ジュリエット』を創り上げて行けばいいのかな、と思います。

ーー舞台上のお二人に拍手をおくる瞬間、楽しみにしています。

甲斐:よろしくお願いします!

黒羽:よろしくお願いします。

(左から)甲斐翔真、黒羽麻璃央

(左から)甲斐翔真、黒羽麻璃央

取材・文=横澤由香  撮影=中田智章