ヨーロッパ企画・上田誠と作家・森見登美彦のコラボレーションが新たなフェーズを迎えた。上田は『夜は短し歩けよ乙女』『四畳半神話大系』のアニメ化で脚本を担い、森見は『サマータイムマシン・ブルース』を原案に小説『四畳半タイムマシンブルース』を発表。強力なタッグが舞台でさらにパワーアップする。歌舞伎界の期待株・中村壱太郎が「先輩」を演じ、「黒髪の乙女」に挑戦するのが乃木坂46の久保史緒里だ。脚本・演出の上田と語り合う。実は、彼らには意外な共通点があったのだった。

◆役者が役を理解できる喜び

——上田さんと森見さんのコラボレーションが今回も楽しめる作品です。

上田:今回はフジテレビさんからお声がけいただきました。正直、『夜は短し歩けよ乙女』の舞台化は、自分から手を挙げてやることはない作品です。アニメ化で関わっているということだけでなく、数ある森見さん作品のなかでも特別な輝きを放っているように思うからです。とはいえ声をかけていただいたのなら、やらない手はないと(笑)。森見さんが僕の『サマータイムマシン・ブルース』を小説にしてくださっているので(編集註:森見登美彦著『四畳半タイムマシンブルース』(角川書店単行本/2020年7月発売))、それへの返答のような気持ちもどこかあります。

上田誠

上田誠

壱太郎:『サマータイムマシン・ブルース』は公開のときに映画で観ました。上田さんのことは、すごくおもしろい世界観を作り出す方だなという印象でした。そこから小説も読ませていただきました。森見さんの小説からは、「こういうことがありました、だけど僕はこうです」という具合に、感情の後付けがある文章が面白かったです。

久保:私はアニメを拝見していました。「あれが舞台になるんだ!」というのがまず驚きでした。原作もおもしろく、「黒髪の乙女」という役柄も愛らしくて大好きです。その役を演じるので、お話をいただいた当初は大丈夫かなというプレッシャーがありました。

——今はプレッシャーから解き放たれましたか?

久保:まだ稽古前なので解き放たれてはいないんですけど(笑)。これからの稽古で、自分の考えや感覚を共演者のみなさんと一緒につかんでいきたいです。

久保史緒里

久保史緒里

——台本は、稽古で俳優さんの様子を見ながら加筆することも?

上田:それはもちろんあると思います。ヨーロッパ企画のときもそういう感じなので。森見さんは、書き方が独特なんです。たとえば事件を設定して、伏線などのプロットを構成してから書く人が多いと思うのですが、森見さんは一つひとつの文章から進めていく。文章が文章を生み出すような書き方だそうです。ある事件があり、その事件を描写するというよりは、ある行を書く。そこから次の行に進む。これによって事件が生まれて、ご本人の意図しない方向に行くこともあるし、思いがけない飛躍が生まれたりもする。「先輩」が自分語りをするときには、饒舌なあまりに口をついた嘘も書かれている。するとそれが本当のことになっていったり。そうした「言葉ありき」の本来的な小説だと感じます。言っているうちにその気になることって、普段もあると思うんです。舞台でも、台詞を口にしているうちに、だんだんその役できていくような。

——現実社会でも、言っているうちにその気になる、本当だと思うようになることがあると思います。

上田:言葉ってそういうところがありますよね。

壱太郎:僕は芝居しているうちに感じることがありますね。稽古の過程で、僕も役のキャラクターをあらかじめ決めたくないタイプなので、わりと悩みます。歌舞伎には昔からたくさんの役者が演じてきた役柄や型があるけれども、どうしても自分にスッと入ってこないときがあります。今回のカンパニーでも、腑に落ちるまでやりたいです。

中村壱太郎

中村壱太郎

——腑に落ちるには、何度も繰り返すことが大切ですか?

壱太郎:それが意外に、スッと早い段階で自分に入ってくる役もあれば、かなり時間がかかるものもあります。歌舞伎の役のなかには、初日を明けてからだんだん自分に入ってくるものもあります。

上田:内容よりも言葉遣いのところで、役者さんが困るということもありますね。日常的に使わない言葉を駆使するようになって、言葉が落ちることで役になれる喜びって、きっとあると思うんですよ。

◆手書きで、身体に落とす

久保:私はグループで歌を歌ってきたので、それに近いことを思うことがたまにあります。曲と歌詞をいただいてレコーディングするときに、私は自分に落とすのに時間がかかるんです。なので、あまりに歌詞が自分のなかに入らないときは書き出します。ライブまで時間がないところで覚えるためには、書き出すのがいちばんよくて。自分の字で書き留めて読み返すと、「そういうことか」って理解するのが早くなります。ライブでは動きのパフォーマンスもあるので、歌詞や曲のことをしっかり自分に落としておかないと。私はわりと書くタイプです。字を書くのはけっこう好きですね。

上田:確かにそうやってインプットの部分を深めておく作業は大切ですね。演じ手の人に深い理解があれば、出力もおのずと変わってきますから。

——久保さんは、書いてインプットする方法をどうやって編み出したのですか?

久保:グループに加入したばかりのとき、日記を書いていたんです。そのときのことや、曲のことも書いていました。たまたまあるとき、日記につけていた曲をライブで歌うことがあって、自分のなかで初めて、しっくりくるものがあったんです。お客様にきちんと届けられたかはわからないけど、自分のなかで、これだと思えるものがあった。それから、書き留めることを続けるようになりました。

壱太郎:実は僕も、メモ魔すぎるところがあるくらい書くタイプなんです。手紙も大好きで、手で書かないと落ち着かない。今月出演している『小鍛冶』の巫女の台詞に「祈誓」という言葉があるんですけれども、それがどうしても落ちてこないから、とにかくメモしています。

中村壱太郎

中村壱太郎

——「キセイ」ですか?

壱太郎:はい、「祈る」に「誓う」と書いて「祈誓」。日頃の言葉遣いでは出てこないですよね。祈り誓うということなんですけれども、書いて頭に入れる。

上田:たしかに漢語だと気持ちが乗りにくいことってあるかもしれないですね。ただ、そういう若干入りにくい言葉は、書いて馴染んでいくのがもっとも自分に落とせるでしょうね。

壱太郎:上田さんはメモしますか?

上田:僕、台本が最初のうちは手書きなんです。そこからキーボードで打ち込みます。いきなりパソコンだと、すらすら書けちゃうんです。そうして出てきたものより、手で書いて進めたもののほうが信じられるというか。昔の小説って、それほど長編がないでしょう。手が疲れますもんね。

壱太郎:書き続けていると、(右手と右肘のあいだあたりを指し)このへんが痛くなったりしますね。妙な筋肉を使っていたりして(笑)。

久保:それすごくわかります(笑)。

久保史緒里

久保史緒里

◆稽古場の隅で鍋をつつく?

——今回は、どんな稽古場になるでしょうか。

壱太郎:そこが楽しみなんです。昨年、上田さんに直接お会いして、「怖い人なのかな、優しい人なのかな」って思いながらお話しして、優しい人だってことが分かりました(笑)。でも、稽古で早く上田さんという方をもっと知りたいという気持ちです。

久保:私、コミュニケーションの取り方が本当に下手なんです……。なんか、最初の一歩が小さいんです。だんだん大きくしてはいくんですけど、最初は尻込みしちゃうところがありまして。なので、稽古開始のあたりはしばらくソワソワすると思います(笑)。

上田:今回、キャストが21人いるんです。今、こうして少人数で話している雰囲気やサイズ感が好きではあるんですけど、人がたくさんいても、こういう雰囲気の稽古場にしたいですね。チームのコミュニケーションがまず取れている状況から、共有しているイメージを稽古場で拡大して、お客さんが喜ぶステージにすることが理想かなと思います。

上田誠

上田誠

——ヨーロッパ企画でも15人レベルの出演者が揃う大所帯のことがありますね。

上田:劇団の場合、劇の作りはじめは事務所で鍋をやるんです。会議でもなんでもなく、ただ鍋をつつきます(笑)。だけど、僕のほうからじわじわ、芝居の話を進めていきます。最終的には劇場で上演するための試みを、鍋から徐々に始めていこうという。僕らはコメディーをやっているので、しょうもないことの発見が大切です。広くて立派な稽古場でなく、鍋でもやりながら話すのがいちばんいいと思っています。

壱太郎:(しみじみと)鍋、したいですねえ。

久保:私も(笑)。なかなか今って食事にも行けないですからね……。

壱太郎:食べなくてもいいから、食べるテイの芝居で鍋したいです。

上田:おお、No Eat鍋ね!(笑)

——食事を共にするのはチーム距離を縮めるための方法の一つですよね。

久保:私、最初から輪に入るのがちょっぴり苦手だから、稽古場で鍋の会があったらうれしいです(笑)。

上田:広い稽古場の隅で集まったりしてね(笑)。隅でしかできない交流ってありますからね。

久保:それがいいです!  私も隅っこで、みなさんと打ち解けたいです(笑)。

中村壱太郎、久保史緒里、上田誠

中村壱太郎、久保史緒里、上田誠

取材・文=田中大介 撮影=荒川潤
※感染症対策をおこなったうえで、取材・撮影をしています