2021年4月3日(土)、歌舞伎座4月公演『四月大歌舞伎(しがつおおかぶき)』が初日の幕を開けた。『四月大歌舞伎』は松本白鸚、片岡仁左衛門、中村梅玉、坂東玉三郎をはじめ豪華出演陣が顔を揃え、歌舞伎の醍醐味を堪能できる名作が揃った。

第一部の序幕を飾るのは、猿翁十種の内『小鍛冶(こかじ)』。

市川猿之助演じる稲荷明神の加護を受け、市川中車演じる名匠・三條小鍛冶宗近が名刀・小狐丸を完成させる伝説を描いた舞踊劇。猿之助と中車の曾祖父にあたる初世猿翁(二世猿之助)が初演した澤瀉屋の家の芸「猿翁十種」のひとつで、平成9(1997)年12月歌舞伎座以来、久しぶりの上演となる。

『小鍛冶』左より、三條小鍛冶宗近=市川中車、童子実は稲荷明神=市川猿之助 (C)松竹(無断転載禁止)

『小鍛冶』左より、三條小鍛冶宗近=市川中車、童子実は稲荷明神=市川猿之助 (C)松竹(無断転載禁止)

世の禍を鎮める霊力をもつとされ、時を超えて重宝される刀剣。帝からの命を受け、御剣を打つことになった宗近は、共に打てる相槌がいないことを思い悩み、氏神である稲荷明神を訪れる。中車は登場から終始、義太夫語りに乗せて舞い踊りながら物語を進め、猿之助演じる童子は忽然と姿を現すと、舞台狭しと軽やかに舞い踊る。

『小鍛冶』左より、三條小鍛冶宗近=市川中車、童子実は稲荷明神=市川猿之助 (C)松竹(無断転載禁止)

『小鍛冶』左より、三條小鍛冶宗近=市川中車、童子実は稲荷明神=市川猿之助 (C)松竹(無断転載禁止)

市川猿弥演じる弟子の春彦が「打つものならばこのご時世、ワクチンを早う打ちたいものじゃが、剣を打つも大事のお役目」と、今のご時世にちなんだ台詞を言うと、客席も和やかな雰囲気に包まれ、中村壱太郎演じる巫女小枝の踊りに、場内は華やかな空気が流れた。

やがて宗近の槌に、息の合った相槌を入れる明神。猿之助と中車の二人により、実際に舞台上で打たれる槌音がリズミカルに響き渡り、時折狐の本性を垣間見せる神秘性漂う明神の動きに、客席の視線が引き込まれた。

続いては、『勧進帳(かんじんちょう)』。

『勧進帳』[A日程]左より、武蔵坊弁慶=松本白鸚、富樫左衛門=松本幸四郎 (C)松竹(無断転載禁止)

『勧進帳』[A日程]左より、武蔵坊弁慶=松本白鸚、富樫左衛門=松本幸四郎 (C)松竹(無断転載禁止)

歌舞伎十八番の中でも屈指の人気作で、当月は、松本白鸚、松本幸四郎が日替わりで弁慶を勤め、かつてない親子競演を果たす。本日3日のA日程では、本興行としては最年長となる78歳の白鸚の弁慶に、幸四郎の富樫が対峙。白鸚は昭和33(1958)年、16歳での初演以来、『勧進帳』の弁慶役をこれまでに1150回演じてきた。本日が1151回目の弁慶となり、これは1600回以上を演じた白鸚の祖父・七世松本幸四郎に次ぐ上演回数で、現役最多となる。

『勧進帳』[A日程]左より、武蔵坊弁慶=松本白鸚、富樫左衛門=松本幸四郎 (C)松竹(無断転載禁止)

『勧進帳』[A日程]左より、武蔵坊弁慶=松本白鸚、富樫左衛門=松本幸四郎 (C)松竹(無断転載禁止)

平家討伐に尽力しながらも、兄頼朝と不和となった源義経は、武蔵坊弁慶ら家臣とともに都を逃れ、姿を変えて奥州平泉を目指す。加賀国安宅の関に差し掛かった義経一行は、関守の富樫左衛門に行く手を阻まれるが、主君義経を守るため、弁慶は命を懸けて富樫と対峙する……。

幕が開き、松本幸四郎演じる富樫が登場すると、場内は『勧進帳』の世界に引き込まれていく。そして花道から中村雀右衛門演じる源義経、続いて四天王が登場すると、続いて弁慶が登場する花道の揚幕に客席の視線が集中。客席には今か今かと白鸚の弁慶の登場を待ちわび、胸の前に手を合わせて登場を待つ観客も見受けられた。

『勧進帳』[A日程]武蔵坊弁慶=松本白鸚 (C)松竹(無断転載禁止)

『勧進帳』[A日程]武蔵坊弁慶=松本白鸚 (C)松竹(無断転載禁止)

遂に揚幕から、今日で1151回目となる弁慶を演じる松本白鸚が現れると、満場の客席からは万雷の拍手が送られ、弁慶が一歩、そして一歩と花道を進む間、鳴り止まない。白鸚の弁慶の、溢れんばかりの気迫で歌舞伎座の空気は一変、客席の視線は白鸚の弁慶の一挙手一投足に注がれる。

富樫から東大寺再建のための勧進の山伏である証として、「勧進帳」を読むことを求められると、弁慶は咄嗟の機転を利かせて、白紙の巻物を勧進帳として読み始める。初演から60年を超える歴史が積み重ねられた白鸚の台詞、声で朗々と読まれる白紙の勧進帳の「読み上げ」。弁慶と富樫の二人による「山伏問答」のやり取りなど、弁慶として慄然と舞台に聳え立つ白鸚と、対峙する幸四郎の姿は一瞬たりとも目を離すことができない緊迫感に満ちている。全身全霊、命を懸けて主君を守る弁慶が「飛び六方」で花道を引っ込むと、歌舞伎座は割れんばかりの大きな拍手が響き渡った。

明日のB日程では、A日程で白鸚の弁慶で富樫を勤めている幸四郎が、弁慶を勤める。受け継がれる高麗屋の弁慶は、今月の公演に合わせた特別ポスターが作られ、本日の初日より劇場売店やネット販売が行われている。

第二部は、『絵本太功記(えほんたいこうき)』で幕開け。

昨年の大河ドラマでも話題となった明智光秀が、織田信長を討った「本能寺の変」を素材に描かれた時代物の醍醐味溢れる傑作。中でも、今月上演される十段目の「尼ヶ崎閑居の場」は、歌舞伎の代表的な役柄が一堂に揃う名場面で、義太夫狂言の名作として、単独で上演を重ねてきた。

『絵本太功記』左より、初菊=中村梅枝、武智十次郎=尾上菊之助、操=中村魁春、武智光秀=中村芝翫、皐月=中村東蔵 (C)松竹(無断転載禁止)

『絵本太功記』左より、初菊=中村梅枝、武智十次郎=尾上菊之助、操=中村魁春、武智光秀=中村芝翫、皐月=中村東蔵 (C)松竹(無断転載禁止)

中村芝翫演じる武智光秀は武将としての風格はもちろん、額に三日月形の大きな傷跡をつけた凄味のある人物として大きさを見せる。竹藪から登場すると、客席からは固唾を飲む音が聞こえるのではというほど。光秀とその家族の悲劇が描かれる物語に、光秀の母の皐月に中村東蔵、妻の操に中村魁春、息子の十次郎に尾上菊之助、十次郎の許嫁の初菊に中村梅枝というに好配役が揃い、真柴久吉に中村扇雀、佐藤正清に坂東彌十郎も顔を揃える舞台は、戦乱に生きる親子の情愛と悲壮感が胸を打つ重厚な義太夫狂言として、大きな感動を呼んだ。

『絵本太功記』左より、操=中村魁春、武智十次郎=尾上菊之助、武智光秀=中村芝翫、皐月=中村東蔵 (C)松竹(無断転載禁止)

『絵本太功記』左より、操=中村魁春、武智十次郎=尾上菊之助、武智光秀=中村芝翫、皐月=中村東蔵 (C)松竹(無断転載禁止)

続いては、『団子売(だんごうり)』。

江戸時代、庶民の間で親しまれていた団子売りの姿を舞踊化した人気の作品。賑わいをみせる大坂天神橋にやってきた団子売の夫婦。中村梅玉演じる杵造と、片岡孝太郎演じるお臼が、夫婦揃った息の合った踊りを見せる。二人の踊りには、五穀豊穣、子孫繁栄の願いが込められ、夫婦仲の良さと愛嬌が微笑ましく、息の合った軽妙な踊りが華やかな風俗舞踊。春の陽気にふさわしい、明るく幸福感に満ちた一幕に客席からはあたたかい気持ちに包まれた。

『団子売』左より、お臼=片岡孝太郎、杵造=中村梅玉 (C)松竹(無断転載禁止)

『団子売』左より、お臼=片岡孝太郎、杵造=中村梅玉 (C)松竹(無断転載禁止)

第三部は、『桜姫東文章上の巻(さくらひめあずまぶんしょうじょうのまき)』。

 

現在でも繰り返し上演される数々の名作・人気作を生み出した四世鶴屋南北。『桜姫東文章』は、「大南北」と呼ばれるその鬼才を余すところなく発揮した傑作。

『桜姫東文章 上の巻』左より、釣鐘権助=片岡仁左衛門、桜姫=坂東玉三郎 (C)松竹(無断転載禁止)

『桜姫東文章 上の巻』左より、釣鐘権助=片岡仁左衛門、桜姫=坂東玉三郎 (C)松竹(無断転載禁止)

片岡仁左衛門の清玄/釣鐘権助、坂東玉三郎の白菊丸/桜姫という配役は、昭和50年代に幾度も再演を重ねた人気の配役で、当時孝夫を名乗っていた仁左衛門と玉三郎の二人は「孝・玉コンビ」と呼ばれ、熱狂的な支持を集めた。昭和60年3月歌舞伎座での上演以来、実に36年ぶりとなる名コンビの『桜姫東文章』は、開幕前から話題を呼び、遂に迎えた初日は売り出し早々に完売となる盛況ぶり。

『桜姫東文章 上の巻』左より、釣鐘権助=片岡仁左衛門、桜姫=坂東玉三郎 (C)松竹(無断転載禁止)

『桜姫東文章 上の巻』左より、釣鐘権助=片岡仁左衛門、桜姫=坂東玉三郎 (C)松竹(無断転載禁止)

運命に翻弄される桜姫と、かつての恋人白菊丸の生まれ変わりである桜姫に執着する清玄、桜姫の想い人である悪の魅力あふれる権助という仁左衛門と玉三郎を中心に、中村歌六演じる清玄の弟子・役僧残月、桜姫に言い寄る中村鴈治郎演じる入間悪五郎など、それぞれの思惑の中、運命の糸が絡み合う。

『桜姫東文章 上の巻』左より、清玄=片岡仁左衛門、白菊丸=坂東玉三郎 (C)松竹(無断転載禁止)

『桜姫東文章 上の巻』左より、清玄=片岡仁左衛門、白菊丸=坂東玉三郎 (C)松竹(無断転載禁止)

僧侶・清玄と稚児・白菊丸による心中、桜姫が権助に身をゆだねる官能的な美しさ……仁左衛門と玉三郎の名コンビが繰り広げる退廃美あふれる舞台は、満場の客席を魅了し、幕切れは大きな拍手で包まれた。明日以降も残席わずかの日が多く、28日の千穐楽まで目が離せない。

本日情報解禁となった歌舞伎座『六月大歌舞伎』では、本作の後半にあたる「下の巻」が上演されることが発表された。4月に「上の巻」を観て、6月に「下の巻」で完結する。

また、第一部『勧進帳』と同じく初日より、『桜姫東文章』特別ポスターを劇場売店やネットで販売。昭和57年2月南座公演に向けて大倉舜二によって撮影され、当時話題となったスチール写真が、この度、“復刻版”として特別ポスターでよみがえる。

『四月大歌舞伎』は28日(水)千穐楽まで、歌舞伎座で上演中。