ローラン・プティ演出・振付の傑作『コッペリア』のすごさとは?
 

新国立劇場バレエ団による『コッペリア』が2021年5月1日(土)〜8日(土)、東京・初台の新国立劇場オペラパレスで上演される。1975年に国立マルセイユ・バレエで誕生した本作は、日本でなかなか観ることのできないローラン・プティの代表作の一つだ。2017年に続き、スワニルダ役を務める池田理沙子とフランツ役の奥村康祐に、今公演にかける思いを聞いた。

■ユーモアとミステリアスな雰囲気漂うバレエ

村娘のスワニルダと恋人フランツ、スワニルダに恋するコッペリウスと、彼が作ったスワニルダにそっくりの自動人形“コッペリア”が繰り広げるロマンティック・バレエ『コッペリア』の初演は1870年のパリ・オペラ座。だが今回上演されるプティ版は、それとは趣がまったく異なる、プティ独特のフランスのエスプリ薫るバレエとなっている。

――プティ版の『コッペリア』はどんな作品でしょうか?

奥村康祐​ もともとのロマンティック・バレエではポーランドの農村が舞台なのですが、プティ版ではフランスの都会に置き換えられ、ストーリーもより現代的になっています。スワニルダもフランツも街の人気者。2人の恋物語ではあるのですが、定番のバレエとは雰囲気がかなり違いますね。

池田理沙子 衣裳もロマンティック・チュチュではなくフランスのお洒落なチュチュだったり、コッペリウスがシャンパンを飲んだり、フランツがタバコを吸ったりするのも現代的なのかなと思います。古典バレエではマイムで表現されるところが、すべて踊りで表現されているのはプティ版の特徴ですね。

奥村 初演はプティ自身がコッペリウスを踊られて、その映像を見たら燕尾服姿でカッコよく踊られていて。人形を愛している風変わりなキャラクターはそのまま、ユーモアもありつつミステリアスな雰囲気がある作品だなと感じました。退廃的で、ジャン・コクトーの映画を思わせる耽美的な世界観も魅力です。踊りや音楽はすごく華やかなのに、セットは派手ではなく、大人っぽくて独特の世界観があるように思います。

奥村康祐

奥村康祐

――2017年公演でもペアを組まれたお二人。実際に踊られてみていかがでしたか?

池田 私は新国立劇場バレエ団に入団した1年目だったこともあり、とにかくいっぱいいっぱいで、どう踊ったか記憶が抜け落ちている部分があるのですが…(苦笑)。プティ独特の肩や首、腰を使ったコケティッシュな振りが多く、肩で男性を誘ったりといった、大人の世界観を体現するのが難しく、苦労したのを思い出します。

奥村 僕も難しさは感じつつ、日本では新国立劇場バレエ団のみのレパートリーで世界的に見ても上演機会が少ない貴重な作品、プティ作品の中でも人気の演目を踊れたことが何より光栄でした。こうしてまた踊れるのはすごく嬉しいですね。一度振りが身体に入って踊るのと、ゼロからやるのとでは感覚がやはり違いますから。今回は芝居面でも踊り方も変わってくるはずで、僕自身がとても楽しみです。

池田 私もスワニルダは大好きな役の一つですし、前回以上にフランツとコッペリウスとの関係性を表現できたらと思っています。

池田理沙子

池田理沙子

■フランツを一途に想うスワニルダ

――スワニルダとフランツの関係をどう捉えていますか?

奥村 恋人同士だけど、フランツは遊び人と言いますか(笑)。街の女の子たちがフランツに言い寄ってくるのは、他の衛兵たちと違う雰囲気を感じるからなのでしょう。フランツは街の女の子の中でも特に明るく可愛いスワニルダが恋人なのに、実は自動人形のクールで美しいコッペリアが気になってしかたないんです。そんな若く生命力に溢れているところが初老のコッペリウスとの対比として描かれている気がします。コッペリウスは人形のコッペリアを愛していて、フランツは生きている女の子のスワニルダが好きだという点も対照的ですよね。

新国立劇場バレエ団『コッペリア』奥村康祐 (撮影:鹿摩隆司)

新国立劇場バレエ団『コッペリア』奥村康祐 (撮影:鹿摩隆司)

――ちなみに、フランツとご自身が近いところは?

奥村 周りからフランツが似合っていると言われますね。生きている女の子が好きというのは近いかもしれません(笑)。でも踊る上では色気のある生きる力に満ち溢れた若い男性というのをイメージしています。

――スワニルダはいかがでしょうか。

池田 スワニルダはフランツに対して一途で、すごく純粋に無邪気に恋心を寄せているんです。その無邪気さが強ければ強いほど、最終的にコッペリウスが置き去りにされるという、皮肉さが表れる作品だなと感じていて。それこそがプティ版のスワニルダ像かなと私は解釈して踊っています。若さゆえの思いを強く表現しなければ、ラストのコッペリウスの哀愁、ちょっとほろっとさせるところに結びついていかないので、大事にしたいです。

新国立劇場バレエ団『コッペリア』池田理沙子 (撮影:鹿摩隆司)

新国立劇場バレエ団『コッペリア』池田理沙子 (撮影:鹿摩隆司)

■新たな2人のコッペリウスへの期待

――スワニルダとフランツ、コッペリウスという男女3人の関係が色濃く描かれる本作。初老のコッペリウス役を、オノラブル・ダンサーの山本隆之さんとファースト・アーティストの中島駿野さんが初めて、交代で演じられることも楽しみです。

池田 新国立劇場バレエ団発足当初から活躍されてきたスターダンサーの隆之さんと、私はご一緒したことはないのですが、子供の頃から舞台を拝見して憧れていました。さまざまな役を踊ってこられた方なので、今度はコッペリウスとして新たな一面、輝きを放たれるだろうと今からワクワクしています。

奥村 最初にお二人の名前を聞いてびっくりしました。それくらい僕らにとっても意外で新鮮な顔合わせだったので。隆之さんはコッペリウスがきっと似合うだろうなと、素晴らしいだろなと思いましたし、ユニークなキャラの持ち主の駿野君がコッペリウスをやるとどんな感じになるのか。いい意味で予想がつかないだけに楽しみでなりません。


池田 前回、プティのスタイルを継承されているルイジ・ボニーノさんがやられた時も感じたのですが、ダンサーの個性がすごく出てくる役柄だと思います。お二人のコッペリウスは全く違った面白味が出てくると思うので、リハーサルが楽しみですし、お互いにどんどん個性を出して高め合っていけたらいいなと思います。

奥村 ルイジさんといえば、前回、プティ・スタイルをきっちり教えていただいて、すでに身体の中に入っています。6番のポジション、足をパラレルに揃える振りがたくさん出てくるのですが、それが作品全体のアクセントになっているのかなと。プティ作品「こうもり」を踊った時も、6番のポジションのこだわりを感じましたよね。

池田 ここは止める、ここは自由に崩す、という身体の使い分けをはっきりさせることによって踊りに抑揚が出て、より説得力を増して物語が展開していくのがプティ・スタイルでもありますね。


■お芝居のように観てもらえたら

――それぞれに好きなシーンは?

奥村 コッペリウスがコッペリアと踊るところは、まるで人間と踊っているようで、振付も含めて感動します。あの一連の動きでコッペリウスの人間性、日常生活が垣間見えますしクローズアップされていく。コッペリウスの世界観の全てが詰まっているのが面白いなと思います。

池田 私もあのシーンが好きですし、プティ版でしか見られないハッピーエンドでは終わらないラストも印象的です。スワニルダとフランツの結婚式、大団円を迎えたところで、バラバラに壊れたコッペリアと1人呆然と立ちすくむコッペリウスの姿にグッときてしまう、とても好きなシーンです。

新国立劇場バレエ団『コッペリア』池田理沙子 (撮影:鹿摩隆司)

新国立劇場バレエ団『コッペリア』池田理沙子 (撮影:鹿摩隆司)

奥村 定番のバレエだとグラン・パ・ド・ドゥがあったりしますが、そういう形ではなくてお芝居の部分が全部踊りで表現されていくはプティ版ならでは。踊りを通していろいろなことが進んでいくので、2人で踊る時はずっと対話と踊りが繋がっている感じなんです。なので、バレエにあまり馴染みがない方でも一つのお芝居のように観ていただけるでしょうし、バレエをご存知の方は、他のバレエとの違いを楽しんでいただけるはずです。

――あらためて、この公演への意気込みを。

池田 日本でなかなか見ることのできない作品を踊れることを嬉しく思っています。フランスのお洒落さ、大人のエッセンスあふれるプティ版『コッペリア』をぜひお楽しみ下さい。

奥村 踊ることも、観ることも貴重なバレエなのでぜひ劇場にいらして下さい。海外に行くのが難しい今、フランス旅行をしている気分になっていただけたらと思っています。


取材・文=宇田夏苗